付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「理由あって冬に出る」 似鳥鶏

2009-08-27 | 学園小説(ミステリ)
……何が出るかというと「幽霊」が出る。

 使い道の決まらないまま放置された校舎にさまざまな文化部が寄せ集まって生まれた芸術棟。そこにフルートを吹く幽霊、もしくは行方不明の部員の霊が出るという噂に練習のできなくなった吹奏楽部をなんとかするため、吹奏楽部部長らの夜番に付き合うことになった美術部の葉山君。
 ところが予想に反して本当に幽霊が現れたため、真相解明のため文芸部部長である伊神さんに出馬を要請する羽目に陥るのだが……。

「本質的に人は皆、矢追純一だ」
 怪奇現象がそこで起きれば、怖いとか思う以前に真偽を確かめてみたくなるものなのだ。

 「コミカル学園ミステリ」というふれこみだけれど、コミカルというのとはちょっと違うかな。キャハハガハハと笑い飛ばすようなものではないですね。クリスティーのミス・マープルものとか、クレイグ・ライスの『スイートホーム殺人事件』とか、北村薫の『覆面作家は二人いる』とか、あんな感じのちょっとクスリとかニヤリとか笑ってしまう感覚の作品に、ライトノベル的な学生生活のフレーバーを振りかけた……といった雰囲気です。ちょっと前なら富士見ミステリー文庫あたりに登場していて不思議はないかもしれませんが、第16回鮎川哲也賞佳作で創元推理文庫からの登場です。等身大の高校生が直面する、謎と大人社会の暗黒面と友情の物語。
 まだ荒削りという感じなところはありますが、話として面白いので問題なし。前代未聞の斬新なトリック、議論の余地のない動機、すべての描写や会話が謎解きにかかわってくる緻密な構成……というような珠玉の本格ミステリを求める人には期待はずれだと思いますが、そういう人はクイーンの『フランス白粉の謎』かクリスティーの『オリエント急行殺人事件』あたりを読み返していればよろしい。
 ただ、あの柳瀬さおりの花言葉への反応について、葉山君はもっときちんと考えるべきです。

【理由あって冬に出る】【似鳥鶏】【toi8】【第16回鮎川哲也賞佳作】【アイヌ語】【花言葉】

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