付け焼き刃の覚え書き

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「煙と骨の魔法少女」 レイニ・テイラー

2014-01-12 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「長い寿命は重荷だ。みじめな人生だったらな」
 天使アキヴァの言葉。長命は良いことばかりではないと。

 プラハで芸術を学ぶ女子高生カルーには幾つか秘密がある。
 彼女の青い髪は染めたものではないこと。生まれ故郷はプラハじゃないし、どこかわからないこと。彼女がスケッチブックに描く美しく奇怪な生き物は、想像の産物ではなく単なるスケッチだということ。そして彼女は、少しなら魔法を使えるし、殺しあいの経験も少しはある……。
 カルーは人と獣が入り交じったキメラたちに育てられ、その手伝いでゲートを通って世界各地に足を運んでは取引をしているのだ。
 彼女の集めるものは人や獣の歯や牙。ブリムストーンはこれを魔法に使うらしいけれど、カルーには詳しいことは何も教えてくれない。
 しかしある日、カルーの前に天使が現われて、彼女の世界は大きく変わってしまった……。

 天使というのは神の使いなんだから敵対したらどうにもならんでしょと昔は思ってました。だから、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』の天使篇なんかを読んだときには、これはなんともならないムリゲーで、収拾つかないから途中でぶち切れたんだろうと思ったものです。
 でも、SF映画『バーバレラ』では美男子で羽が生えて空を飛べるだけで天使と呼ばれていて、それでもいいんだ?と目から鱗。
 『ベルリン天使の詩』みたいにモノクロの世界から人間を見守るだけって天使もいましたけれど、『聖★おにいさん』みたいに世俗にどっぷりまみれているのとか普通ですよね。『はたらく魔王さま!』みたいに、羽が生えているだけでタダの超能力者レベルの俗っぽいのとかあたりまえです。これなら島村ジョーと仲間たちでもなんとかなりそうだ……。

「戦争がないから平和というわけではない。平和とは協調だ。共生だ」
 天使アキヴァの言葉。

 この話の天使もそんな俗っぽい方です。
 強いし、羽が生えていて飛びはするけれど、神ではなくて王に仕えて戦争しているんですよね。ブリムストーンたちキメラを獣と見下げているけれど、こっちだってただの鳥人みたいなものです。羽の生えている戦士。
 えっと、もともとの天使は実体のはっきりしない存在で、羽のある姿として描写されるようになったのは、もっぱら中世以降の布教のための方便でしたっけか。

「願い事はまやかし。希望は本物だ。希望を持てば、おのずと魔法が生み出される」
 カルーに対して、ブリムストーンは常にそう語っていた。希望は自分の中にあり、本当の力があると。

 彼女の希望と愛が世界の運命を変えていくというけれど、お話はプラハの女子高生の冒険もので、前世からの因縁というか運命的な引き裂かれた愛の物語。
 状況が解っていて、自分も半ば巻き込まれていながら、それでもあえてカルーを「ヤッちゃいなさい。速やかに」と煽るズザナは良い友人でムードメイカーです。

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