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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

天孫降臨

2012-01-18 19:58:34 | 諸星大二郎
諸星大二郎 1993年 集英社 ヤングジャンプ・コミックス
こないだのつづき。
タイトルに「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」って付いてる、いわゆる「妖怪ハンター」シリーズ。
コンテンツは、
・闇の客人(1990年)
・「花咲爺論序説」と「幻の木」事件‐概要‐
・川上より来たりて(1988年)
・天孫降臨
 第一章 大樹伝説(原題:大樹の子ら前編 1990年)
 第二章 樹海にて(原題:大樹の子ら後編 1991年)
 第三章 若彦復活(原題:天孫降臨 1991年)
・天神様(1990年)

『海竜祭の夜』に収録されている「花咲爺論序説」(1985年)と、「幻の木」(1987年)の二編が、この単行本に入ってる「川上より来たりて」と「天孫降臨」三部構成につながってる。
なので、この単行本には、前のふたつの話を12ページにまとめた「概要」が描かれて載っている。
このふたつの単行本を読む順番が逆だったんで、私は、何なんだろう、この概要って?と思っちゃって、スッと入っていけなかった。
つまり、「花咲爺論序説」「幻の木」「川上より来たりて」「天孫降臨」の三部の順で、一冊の単行本にしていただければ、それでいいんである。
出版社は、愛蔵版とか文庫版とか手を替え品を替えなんてしなくていいので、そういう内容に即した再編集を優先してやっていただきたい。
(ま、この一連の5,6話の話を描くのに5,6年かかるマンガ家のファンをやってるのが、つらいとこだともいえるが。)

で、この話は、われらが稗田礼二郎が、“木に対する信仰”に強い関心を持ってる。外国の“生命の木”信仰に似たものが日本にもあって、ただの御神木ぢゃなくて、もっと「偉大な木」に対するものだと考えてる。で、その神聖なる木を巡る善悪二者の対立が、「瓜子姫」とか「花咲爺」とか「猿蟹合戦」とかに見られるんだという。
という古事記とかの神話と、柳田国男の民俗学とかをひっくるめた、例によって壮大なウソの世界をつくってるとこが、いい。
もうひとりの登場人物、民俗学者の橘というひとも、似たようなこと考えてて、その神の世界の存在であるかのような「生命の木」の種子を追い求めてる。神に近づくっつーか、生命誕生の秘密をときあかして、あわよくば不老不死の力を得ようって魂胆。
その神秘に近づくために、航空機事故で奇跡的に生き残った天木薫・美加の兄妹の存在を利用して、わりと少年誌的な冒険譚に近い活劇が展開されるんだけど。
出てくる故事としては、筑後にあった巨木や、大阪あたりにあって“枯野”という舟をつくった大樹の伝説とか、木花開耶姫と磐長姫とか、高御産巣日の神によって地上に送り込まれる天孫降臨の話とか、そのなかのひとり天の若日子と返し矢の話とか、とにかくいっぱい。
そういうのをあちこちに散りばめてるのを読んでるうちに、あたまんなかグルグルさせられるのが快感なんだから、しかたない。

ほかの2編、「闇の客人(まろうど)」と「天神様」も、なかなかの傑作です。
「闇の客人」は、異界から神を呼ぶ祭りを、現代に場違いなかたちで復活させちゃった話。
いつもいつも良い神さまが来てくれるとは限らないよ、という怖い話。
「天神様」のほうは、逆に、人間の子どもが神隠しにあって、異界に行っちゃったんぢゃないかって話。
これには、小道具として、わらべ歌とかわらべ遊びが使われてるんだけど、これが秀逸。そこらへんの都市伝説系とは、ちょっと違う。
誰もが知ってる“とおりゃんせ”の歌がない町が舞台なんだけど、そこには“帰りゃんせ”という歌が伝わって残っている、と来たもんだ。
「帰りゃんせ 帰りゃんせ お宮のご用がすんだなら この道通って 帰りゃんせ…」って始まりの歌なんだけど、怖いぜ、こりゃ。
コメント
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