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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

けだものと私

2012-01-23 19:02:09 | 四方田犬彦
四方田犬彦 平成12年 淡交社
表紙は『美女と野獣』(1946年)。
まえがきの「けだものと私」を読むと、なんの本かと面食らう。
だって、著者のそばにはいつもけだものがいるって衝撃的告白から入って、
>しばらく前からけだものは、私が机の前を留守にしていると、かかってきた電話に出たり、頼みもしないのに私の原稿注文を勝手に引き受けたりするようになった。(略)今では勝手にキーボードを叩いて、私のかわりに原稿を書いたりする始末だ。(略)
正直に告白しておこう。これから読者がお読みになることになるこの書物は、実は半分くらいがけだものの、見よう見真似のタイピングによって書かれたものである。(略)
という本だって宣言がなされてるんだから。
それでいて、最初の章が「猿山の猿」ってタイトルで、動物園に新しい猿山が完成したんだが、いよいよ猿を入れるその前の晩に、みんなで猿山の内側でビール大会をしよう、って話だから、よけい何なんだ?って思っちゃう。
で、あとがきのほうを読めば、何の本かってのは種明かしされてる。
この書物は一九九五年から二〇〇〇年にかけて『週刊SPA!』に私が連載したコラムを中心として、なるべく機嫌期限 (2019年2月訂正) がいいときに書いた文章を取り出して纏めあげたものである。
ということで、そういうエッセイ集みたいなもの。なんで、こういうタイトルをつけたかって理由も書かれてる。
ちなみに、機嫌が悪いときに書いたものを集めたのが『狼が来るぞ!』らしい。
週刊誌のコラムが大部分だけど、構成としては、その日付順ぢゃなくて、まあ似たようなテーマ別に再編成されている。コンテンツは以下のとおり。
・猿山の猿
・いつもオフシーズン
・失楽園の思い出
・騒音立国日本
・漫画は越境する
・いまだに、映画
・夢の残骸
・人生の勝敗
・究極の金魚
・チューリップ返し
・物語を切替える
・天然の鰻
・サングラスと帽子
・次の千年
ひさしぶりに読み返してみたら、すごく面白い。
面白い話のいくつかをここにリストアップしようにも、数えてくうちに増えすぎちゃって間に合わないから、やっぱやらないくらい。
いつ何度読んでもおもしろいと言えるような話がいっぱいなのに、なんだって私はこの本を10年以上も放っておいたんだろう、と反省というか不思議に思った。

ところで、「いまだにゴダール」という一節では、岡崎京子が事故にあった1996年の9月に書かれたこともあって、去年2011年にでた「ゴダールと女たち」を読むまで私は忘れてたんだけど、ヲカザキとゴダールの関係にも触れられている。
岡崎京子と押井守に共通しているものは、何だろうか。(略)それは彼らがこれから人生で何かをしようという直前の時期に、ジャン=リュック・ゴダールというスイスの映画監督に出会ったということだ。二人の作品を見ると、このヌーヴェルヴァーグの異端児のフィルムにあるとき夢中になり、こんなこともアートの世界では可能なのかという刺激を与えられたという痕跡が、ありありと認められる。岡崎の『pink』と『チワワちゃん』は、ともに彼女なりに『女と男のいる舗道』を描いてみたいという試みであったし(略)
だ、そうです。
その先がスゴイんで、また、引用しちゃえ。
ゴダールを観たか、観なかったかでは、作るものがガラッと違ってしまう。一度でも彼のフィルムに囚われてしまうと、他の映画が馬鹿馬鹿しく見えてきて、必ず自分の作るものにゴダールが反映してしまう。(略)ようするに、ゴダールを知らない奴はクズだというわけだ!
…クズだっていう結論の前の(略)の部分には、映画監督とか作家とか写真家とかミュージシャンの名前が入って、比較対象されてる、たとえば「坂本龍一の音楽には(まあ消えかかっているが)ゴダールの残響が響いているが、さだまさしはゴダールなど観たこともあるまい」みたいに。(あ、実名出しちゃった。)

ちなみに、この文章のなかにも、「ゴダールと女たち」のあとがきにもあった、
デビュウ当時の彼女の漫画のなかには「四方田クン」という映画マニアの男の子が登場したりもした
ってエピソードがありますが、私の探した限りでは「四方田クン」は、「ボーイフレンドisベター」(昭和61年白泉社)の冒頭に収録されている『ウォーキン・オン・サンデー』に出てきます。
予備校で知り合った、19かハタチくらいの3人、キミコ、チーコ、レイが下北沢の駅で待ち合わせて、日曜日に女ともだちどうしでブラブラ歩くっつー話ですが、その日欠席したミホコの彼氏が四方田君。
>も一人のミホコは 彼氏の四方田君と 仲よく予備校に 通ってます
という一コマでメガネかけた男子として登場。
コメント
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