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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ゲーテの耳

2013-01-19 18:07:54 | 中沢新一
中沢新一 1992年 河出書房新社
実にひさしぶり(20年ぶり?)に読み返した中沢新一の著書。
何の本だときかれると困る。帯の背に「旅と迷宮の哲学」って書いてあるけど、いわゆる哲学書ではないなあ。
わりと短い章が多かったので、あらためて読んだら、意外と読みやすかった。
初出は細かくあげられてないけど、最後に「本書は1987年から1992年までに、新聞、雑誌、パンフレット等のメディアに発表された文章をもとに作られた。」って書いてある。そのせいか、わりと軽め。
あいかわらず、どこかを旅したときの体験・発見の章は、なんともいえず楽しい。
イスタンブールに到着してから、ずっと船酔いのような感覚をおぼえていたが、実は彼の地の地下には大量の水をたたえた地下宮殿があった、なんて話は並のフィクションよりおもしろい。
おなじみのチベットでの体験が書かれたものがいくつかあるのもいい。チベットの密教の夜遊びって、深夜の墓地に散歩に行って、エクソシズムのメディテーションにうつつをぬかす、なんてとこ、とても魅惑的である。
タイトルのゲーテの耳は、『十八世紀の透明の夜』の章にある、「ゲーテはベートーヴェンの音楽を恐れた」ってあたりにあらわれている。
>ベートーヴェンの音楽のなかには、すでに知性の制御の外にある無意識の欲動が、いっさいの秩序を動揺にみちびいていく革命の世紀の予感が、耳を聾する轟音によってのみ表現されうるような激烈な感情が、つまりは現代なるものの本質のすべてが、聞き取れる。(略)
>(ゲーテは)そこに世界を迷宮と化し、透明な感情を無意識の欲動にさらし、永遠にして女性的なるものをヒステリー化する、不透明な神秘主義の支配する、新しい時代のはじまりを聞き取った。
なんて書いてあるのを、ボンヤリと読んでいると、文字の意味はわかるけど、全体として何言ってるのか、分かんなくなる。
まあ、私はもともと音楽を聴く耳もってないから、音楽のなかに哲学みたいなもの聞き取れないし。
でもなあ、なんかこういうの読んでて、今回あらためて思ったんだけど、中沢新一の書くものって、私にとってはそれこそ音楽みたいなもんなのかもしれない。
何がおもしろい?どこがいい?って訊かれても困る、でも読んでて気持ちいいのは確か。クラシック音楽聴いてて、この曲のテーマはこれこれなんてすぐに明確に言語化できないでしょ、それと一緒かもって。
ちなみに、べつの章で、これまたベートーヴェンのエピソード(?)があげられてる。
>もっともドイツ的な、偉大な論理性の音楽を探求していたベートーヴェンはこう叫んだ。「霊感がわきあがっているとき、ヴァイオリンなどにかまっていられるか」。
そんなことヨソで聞いたことないけど、こういうフレーズに出会うと、ついつい楽しくなってしまう。

I 旅の詩と真実
・民族学者のユートピア
・水の中のメデューサ
・カリタス・インディア
・中国、南のエッジへ
II ゲーテの耳
・十八世紀の透明の夜
・よみがえる夜の女王
・打つ音
・メニューイン、人格の楽器の巨匠
・いとしのマッド・チャイナマン
III 移動と定住
・扉の裏
・流れと淀み
・カトンマンドゥ
・言葉をもたない異質性
・転生派宣言
・夜遊びを讃えて
・胃袋におさめられた無限
・VIDEO
・風‐はじまりの哲学
・木と対話する風水師
・大地のドン・ジュアンたち
・映画と悟り
・個と集団をつなぐ声
・大音稀声
・テレビをみるミナカタクマクス
・ふとももの解放神学
・科学のメタファー
・中国的模糊、日本的あいまい
・スライスされた宇宙の四次元
・ラダック、大海につきでた半島のような
・ルーマニア、パッショネートな革命の日々
・賢者のための、旅の哲学
IV 放下
・裸の神
・技術のエコソフィアへ
・救済する空間
コメント
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