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ナッジ

2020-06-03 12:00:00 | 19期生のブログリレー

みなさん、こんにちは。

19期の森(宏)です。

自粛要請が段階的に解除となり、今週からは通勤電車もかなり乗客が増えてきました。私自身は、緊急事態宣言中も職業柄ほぼ普通に勤務していましたが、うちの奥さんは今週からテレワークを終え「嫌だ嫌だ」と言いながら通勤生活に戻っています。

さて、今日は「ナッジ」について書きたいと思います。

「ナッジ」は2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の第一人者リチャード・セイラー教授が提唱した概念で、「人の思考のクセを利用した選択肢の提示手法」と言われます。「クセ」についてはいろいろ類型がありますが、今回はそれについては述べませんので興味のある方は調べてみてください。

従来の経済学は常に合理的な判断をする経済人を想定しますが、行動経済学は「人の行動は不合理だ」という前提のもとに、経済学・心理学的に人間の行動を研究する分野です。その中でも「ナッジ」は、人が強制ではなく自発的に望ましい行動を選択するように促す仕掛けのことを言います。つまり合理的に考えると今やっておけば後で苦労を避けられるというのに、面倒なことは先送りにしてしまうような不合理な人間の行動を、今やる気になるように促すような選択肢の提示の仕方のことです。

具体的な例では、「オプト・アウト」方式を利用した望ましい制度の導入や利用促進があります。アメリカでは年金積立(401K)や臓器提供をデフォルトで加入・同意にし、拒否する場合には特に意思表示させる、という仕組みにすることで加入者や同意者が増えたそうです。面白い取り組みでは、有給取得率を上げるため、予め休暇の日を決め、出勤する場合には申請する仕組みにすると取得率が増えたとか。

これらの例からもわかるように、ナッジはどちらかと言えば公共政策的な取り組みに馴染みやすく、日本でも環境省がエコへの取り組みであるとか、厚労省が検診の受診率を上げるためなどに「ナッジ」のアイデアを募っていたりします。近年では、特に国や自治体では、ナッジをうまく利用することで限られた予算の中費用対効果を上げることが重要になってきています。

マーケティングも元来そういうものですね。あの手この手で買う気にさせる。オプト・アウトもサブスクの常套手段ですし、竹を買わせるために松・竹・梅の価格設定をしたり、もともと安くない標準価格から大幅値引きしてお得感を出すなども人の思考のクセを利用するものです。ただマーケティングはやはり企業の利益の最大化が目的なので、「望ましい行動変容」という本来の「ナッジ」の趣旨からは少々ずれているかもしれません。行き過ぎると景品表示法とかに抵触してしまいますし。逆に消費者を巧みに惑わして購入に至らせるような、いわばナッジの悪用を「スラッジ」と言うのだそうです。

思えばこの新型コロナの状況下において、マスク着用などもナッジの事例ではないでしょうか。欧米で進まなかったのはそれが自分にとっての感染予防にはあまり効果がない、という意識であったからではないかと思います。日本の場合はどちらかと言えば「もし自分が感染していたら他人に移さない」という(最初からそうではないにせよ)ナッジ的な意識啓発がうまく行き渡ったということもあると思います。

ということで、昨今、SDGs、働き方改革など様々なテーマがありますが、「ナッジ」はそれらにとっても一つの有効な考え方なのではないでしょうか。

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