13期の佐野です。
コロナ禍では家にいることが多くなり、テレビの前に座る時間が増えてしまいました。そんな時は普段観ないような番組を、ついつい時間つぶしで観てしまうことはありませんか?ある時、私はドローンによる空撮のシーンを延々流しているドキュメンタリー番組に見入っていました。山々や稜線、谷川、湖面そして海岸線と、自然の中を悠々と飛行し、搭載したカメラが捉えた映像は、まるで自分が鳥になったような感覚に陥り、いままで経験したことがないような爽快感に浸ることができました。こんな映像を自分が撮れないだろうか?という夢を年甲斐もなく抱いてしまいました。
早速ドローンについて調べてみたところ、ドローンには大きく分けて、趣味用とプロ用の2種類があることがわかりました。趣味用は、安いものだと2,3万円台からあり手軽に入手できますが、リモコンから出す電波の飛ぶ範囲が狭く、カメラも安価で低性能のため、テレビで見たような本格的な空撮はできそうもありません。一方プロ用は、趣味用の5~10倍の値段がしますが、電波の飛ぶ範囲も広く、遠く、高く、長く飛ばすことが可能。カメラもプロ仕様なので、これなら憧れの空撮映像が手に入れられそうです。
さらに調べると、プロ用は高出力の電波を飛ばすため、操作する人には「アマチュア無線従事者」免許が必要(注:電波の種類にもよります)とのこと。幸い自分は小学生の時に電話級(現・4級)の免許を取得していたため、この条件はクリアです。(注:アマチュア無線の免許は一生有効で更新手続きがありません)
ということで、早速免許証を探し始めたのですが、中学の部活(今どき珍しい”無線部”でした)以来使うことがなく、どこに仕舞い込んだのか全く思い出せません。実家にもお願いして捜索すること1か月、ようやく自宅の奥底にて発見することができました。ところが喜びも束の間、免許証を手に取り愕然としました。なんと、免許証には自分の小学生時代の顔写真が貼られているのです。家族にも見せられないおぞましい画像。これではドローン・ショップにも持っていけません(店員の失笑する顔が目に浮かびます)。傷心のあまり、免許証は誰にも気づかれないよう元の場所に戻してしまいました。
さてどうしたものかと考えに考え抜いたあげく、出した結論は「そうだ、上級(3級)試験に合格すれば、現在の顔写真が貼られた免許証が貰える。これから勉強して3級免許をゲットしよう!」です。(注:もちろん今ある免許証の再発行手続きでもいいのですが、規則上再発行は紛失・汚損時に限られます。探し出した免許証はとてもきれい(写真以外は・・・)な状態でしたので、正直者の私はこの手段は取れませんでした。)
早速教科書を取り寄せて勉強を開始したのですが、ここであることに気がつきます。教科書に書かれてある無線工学の理論が、小学生(40数年前)の時からほとんど変わっていないのです。仕事で扱うデジタルの世界は日進月歩の進化を遂げ続けているのに対し、無線のいわゆるアナログの世界は、40年後の今でも自分を優しく温かく迎え入れてくれました。デジタルの世界は0か1しかありませんが、電波は縦にも横にも奥行にも拡がる、まさに3Dの世界。時には大きく、時には小さく、振れ幅を変化させながら、優雅に地球上を飛び交うのです。音楽をレコードと真空管アンプ、コーンスピーカーで楽しんでおられる方なら、この気持ちわかっていただけるかもしれません。アナログ世界の優雅で、優美で、芸術的とも思えるその世界に心を奪われるのに、さほど時間はかかりませんでした。
勉強を通じてこの世界観に浸ること約1か月。新たに習得した技能であるモールス符号を暗唱できるようにしてから試験に臨み、なんとか一発合格。先日現在の顔写真が貼られた「第3級アマチュア無線技士」の免許証が手元に届きました。これで一安心、めでたくプロ用ドローンを購入し、憧れの空撮映像が撮れる!と思ったその時です。自分の気持ちに大きな変化が起こっていました。
「空撮映像はいつでも手に入れられる。でも、せっかくだからもう少しアナログの世界にのめり込んでみたい・・・」気がつくと、マウスを握る私の右手はドローンではなく、「第2級アマチュア無線技士」の教科書・参考書を注文するボタンをクリックしていました。そうです、自分の目標はいつの間にか、ドローンから2級免許、さらにはその上位の1級免許に代わってしまったのです。読者の皆さんはおかしな話だなあと思われるかもしれませんが、人間にはこんなこと(理屈では説明できないこと)って、有りますよね?
教科書を見るとさすがに2級の無線工学はハイレベルで、とても数か月程度で合格できそうなものではありません。1級なら、年単位の修行が必要でしょう。しかし、アナログの優雅な世界に浸りながら、少しずつでも合格レベルに近づいていきたい、と思う気持ちに偽りはありません。
ちなみに、目的は勉強を通じてアナログな世界に浸り続けることであり、免許取得で達成感を味わうことですので、いまのところ無線機を購入する予定はありません。。。