まず、日本国憲法9条(憲法前文を踏まえた上で)を、憲法学的に解釈します。
(一小児科医師の解釈ですが、芦部憲法を読み込んで解釈に臨んでいます。)
****日本国憲法 9条*****
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
*****************
日本国憲法9条の通説的な解釈は、
1条において
「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する戦争の放棄の動機の下に、
「国際紛争を解決する手段として」、すなわち、国家の政策の手段として
1、国権の発動たる戦争
2、武力による威嚇
3、武力の行使
この3つを放棄する。
ここで、侵略戦争は放棄することをまず掲げています。
自衛戦争は、1条では放棄されていません。
2条において
「前項の目的を達成するため」、すなわち、戦争を放棄するに至った動機である 「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する目的のため、
「陸海空軍その他の戦力」の一切の戦力の保持を禁止、交戦権も否認します。
このことより、自衛戦争も行うことは禁止されることになります。
日本国は、平和主義を国の基本理念に掲げ、侵略戦争も自衛戦争も、一切の戦争を放棄しています。
ただし、「自衛権」は独立国家であれば当然有する権利であり、「個別的自衛権」として厳格な自衛権の発動要件のもとに認められています。
「集団的自衛権」は、他国に対する武力攻撃を、自国の実体的権利が侵されなくても、平和と安全に関する一般的利益に基づいて援助するために防衛行動をとる権利であり、日本国憲法の下では認められません。(すなわち、違憲です。)日米安保上条約の定める相互防衛の体制も、日本の個別的自衛権の範囲内のものとされています。
<自衛権を発動するための3要件>
1、防衛行動以外に手段がなく、そのような防衛行動をとることがやむをえないという必要性の要件
2、外国から加えられた侵害が急迫不正であるという違法性の要件
3、自衛権の発動としてとられた措置が加えられた侵害を排除するのに必要な限度のもので、つり合いがとれていなければならないという均衡性の要件
「日本国憲法でも、このような自衛権まで放棄したわけではない。しかし、自衛権が認められているとしても、それにともなう自衛のための防衛力・自衛力の保持が認められるかどうかは、…重大な争いのあるところである。」(『憲法 第5版』岩波書店 芦部信喜 60ページ)
そこで、政府は、自衛権を行使するための実力を保持することは憲法上許されるとしています。
「自衛のための必要最小限度の実力」(=「他国に侵略的な脅威を与えるような攻撃的武器は保持できない」)は、憲法で保持することを禁じられる「戦力」にあたらないと政府は説明をしています。
自衛力・自衛権の限界については、学説上も、裁判所でも争われているところです。
〇自衛力の限界は具体的にはどこにあるか
〇自衛権がどこまで及ぶか
〇自衛隊の海外出動
⇒「自衛隊の海外出動が合憲か否かは、武力行使の有無と深くかかわるが、それは自衛隊の憲法適合性という本質的な問題を措(お)いて論じることはできないであろう。いかに国際貢献という目的であっても、憲法9条の改正なくして、現状のまま自衛隊が部隊として(とくにPKFに)参加する出動を認めることは、法的にはきわめて難しい。」(『憲法 第5版』岩波書店 芦部信喜 65ページ)
戦争を放棄する私たちの国は、自衛権の行使は、厳格な要件のもと許されています。
このことを原点に、国際協調主義のもと、世界への人的、物的な支援等による「人間の安全保障」を積極的に生み出していくことこそが、今の日本には大切であると考えます。
以下は、自民党案です。
******自民党案******
第二章 安全保障
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。〔新設〕
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保す
るために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。〔新設〕
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自民党案は、時代に逆行した、「国防軍」を創設します。
ついでに、第2章「戦争の放棄」だった章の題名を、「安全保障」という題名に置き換えています。自民党にとって、「戦争の放棄」はどうも都合が悪いようです。
9条において、自民党は、日本を戦争をする国にさせたいのではと、考えられなくもありません。
もし、第二章を、「安全保障」というなら、国防軍をもつことだけが、安全保障であるわけではなのであるから、そのほかの安全保障に役立つ規定も盛り込むべきでしょう。
それができないのであれば、「安全保障」のような聞こえのよさそうな章の題名をつけて、国民を欺くのではなく、真正面から、「第二章 国防軍」という題名にすべきと考えます。
章の名づけかたから、問題であり、一貫性に欠けます。
現行憲法が掲げる三つの基本原理のひとつ「平和主義」と、それゆえに、戦争は放棄し続けるのか、そして、平和外交を実践し、世界の紛争の調整役の地位を築いていくのか、
はたまた、自民党に賛成して、戦争を許容するのか、
判断は、私達国民ひとりひとりに委ねられています。
自民党案を解釈するなら
9条1項で、国際紛争を解決する手段としては戦争を放棄するが、それ以外は戦争を放棄していません。
9条2項で、自衛権の発動を認めています。自衛権の発動を認めると明文規定するなら、厳格な発動要件も明記すべきでしょう。この要件なき明文規定は、危険です。
9条の2
第2項「国会の承認その他の統制」このような、「その他の統制」のようなあいまいな文言はさけるべきです。巧みに、国会をすりぬけることができる手法まで、厳格な運用が求められる条文に盛り込まないでいただきたい。
第5項「国防軍に審判所」というが、当事者だけで裁判されると「懲役300年」のようなおかしな判決が出される可能性があるから、裁判所に審判所を置くなど、正当な裁判が担保できる規定をおいていただきたい。
9条の3 「その資源を確保」が前面に出てくる危険性はないだろうか。厳格な発動要件を満たすことなく、資源確保を旗印に、戦争が正当化されるおそれがあるから、この文言は問題である。いつも戦争は、「資源の確保」のために実質起こってきたのではないでしょうか?
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