北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

震災の記憶

2008-03-12 23:59:44 | Weblog
 わが機構の職員向けセミナーに参加しました。本日のタイトルは「震災復興事業に学ぶ」

 平成7年1月17日早朝に発生した都市直下型地震である阪神淡路大震災は、死者6,434名、家屋の被害は前回約10万5千棟、半壊約14万4千棟、一部損壊39万棟という未曾有の被害をもたらしました。

 災害発生のパニック時から、被災者の救出、被害状況の把握へと段階が進むと復旧、復興に向けた活動が始まります。

 災害からの復興は、特に建物被害が大きい地区にあっては、単純に元のままの建物を建てるのではなく、従前権利者の財産価値を守りながら、新たに街路や公園などの都市施設を充実させ全体としてのまちの価値を高めるようなプログラムが求められます。

 当時この災害復興のために「震災復興事業本部」が立ち上げられましたが、機構はそうしたまちの復興活動に人材を投入し、あらゆる事業手法を駆使して、経験やノウハウを総動員してこの復興に取り組みました。

 今回のセミナーは、そんな中から三名の先輩をお招きして、当時の混乱期の状況や復興に向けた取り組みの具体的な事例と苦労談を聞かせていただこうというものでした。

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 実際現地に住まわれていて、被災者でもあった講師の感想は、「平常時から行政、公団(当時)、コンサルタントなどのまちづくり関係者の結びつきがあったところでは復興時にそれが機能した」というものでした。

 また、「迅速な進捗のためにはトップ同士の交渉とトップ判断が重要」というもので、平時の意思決定手続きと有事の際の意思決定手続きの違いのあるべき姿を強調されました。

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 その一方で、迅速な復興事業着手、事業完了が求められる反面で、時間をかけなければできないということも多く、その間での苦労も多かったとのこと。

 たとえば、復興計画を立てる上で大事なことは、まず被災地に勝手に建物を建てさせないこと。被災者にとって戻るところを作らせないということは矛盾しているように感じるかもしれませんが、建物を建てられてしまえば大胆な町の改善が図られなくなるため、建物を建てないよう建築基準法に基づいた建築制限という行政措置が取られました。

 しかしこの措置は最大で2ヶ月までしか効力を発揮できないために、この2ヶ月間のうちにもっと長期に効力を及ぼす手続きが必要です。そのためこの2ヶ月の期限ぎりぎりに都市計画決定を行って、以後は都市計画法に基づいた建築制限を行うこととしたのでした。

 こうした手続きを早くしなければならない中で、被災状況の把握を行い、それをもとにした新しいまちづくりプランを立てなくてはなりませんが、それまでの間で住民には説明をしている余裕がほとんどありません。
 その結果、プランが提示された段階で寝耳に水の住民からは「住民無視の行政の横暴」という批判が寄せられた地区もありましたし、マスコミの報道もそうした批判の声を助長しました。

 復興事業の手法として区画整理や再開発事業などが計画されましたが、「そもそもどうしてそのような事業手法なのか」というそもそも論での合意形成段階でボタンのかけ違いが発生すると、まずその問題解決にエネルギーが割かれますが、その一方で復興関連特別措置法の年限内に事業完了をしようとすると、事業を進める上で個別の地権者との課題を一つ一つ解決してゆかなくてはならず、両面作戦を余儀なくされることになります。

 こうした苦労を一つ一つ重ねながら、地権者の合意を取り付けつつ民主的に事業を進めなくてはなりません。

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 ひとたび有事が発生すると、それまで隠れていてなんとなく目をつぶっていたことが全て表面化してくることになり、地区で上手く折り合いをつけていたことにも正面から取り組まなくてはならなくなります。それもまた一苦労です。

 焼け野原になってしまったところで従前の土地所有者の財産を確定させようと思うと、登記してあった面積と実際が合わない事例だとか、相続手続きがされていなかったとか、中の悪かった大家さんと借家人との関係が見えてきたりだとか、実に多くの問題があったといいます。

 別な講師の一人は「こういうまちづくりプランの提示も、行政に対する良い意味のお上意識が薄れてくると、不平や批判は出されるものの誰も決断ができないという不毛な状態になる可能性があります。これからのまちづくりをリードする力が誰に備わっているのか不安でもありますし、我々の力が試されるところでもあるでしょう」と感慨深く語っていたことが印象的でした。

 まちづくりのための知恵や住宅だけであれば民間事業者から市場で調達することが可能かもしれません。少なくても民間に力がついてそれは可能になりました。

 しかし、まちづくりを行ううえで欠かせない要素である地域との連携や信頼などは市場では調達できません。これは売っているものを買うというわけには行かず、自分たちが身近なところで育てておかないといけないからです。

 わが機構のこれからの役割は、単純なハードの供給ではなくこうしたまちづくりの能力と信頼を保持した組織であるわけですが、このことの大切さを感じ、有事のために備えておいたほうが良いと感じる人がそれほど多くはなく、無駄だと思われてしまうことが問題です。

 災害時のような有事の際にこそ、社会の底力が問われるのです。

 今日は興味深く有用なセミナーでした。
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