北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

リアル下町ロケット~水素社会に向けた技術革新

2016-02-09 23:46:05 | Weblog

 宗谷総合振興局で、今年度二回目の「水素関連ビジネスの展開・促進にかかる勉強会」が開かれました。

 前半は道庁さんからの報告で、「水素関連ビジネス展開促進可能性調査」の結果について。これはどちらかというと、製造業関係者に対して、まだこのような分野で製造業として参入できそうな可能性がありますよ、という情報提供でした。

 後半は、大阪府茨木市に本社と工場がある高石工業株式会社の代表取締役の高石秀之さんが、自社での水素関連パーツづくりの苦労話を紹介してくださいました。

 高石工業さんは、そもそもゴムパッキン関係の製品を作っている、社員八十人ほどの製造業の会社。ゴムによる製品で、既存三分野とされる「水」「ガス」「空気」関連の産業に関わっていますが、夢としては「医療」「燃料電池」そして下町ロケットのように「宇宙」といった分野にも関わりたいとおっしゃいます。

 高石工業さんと水素ビジネスの出会いは全くの偶然で、九州大学のある先生から、「水素を活かす技術の基礎研究を手伝ってくれませんか」という一本の電話から始まりました。

 そもそも高石工業への電話も、その前にいくつもの会社に断られたうえで回ってきた電話だということが後で分かったそうですが、その電話に「やってみよう」と思ったのがつきあいの始まりでした。

 ガスでも水でも、管路の中のものを外に漏れないようにするには継ぎ手の部分に「O(オー)リング」というパッキンをいれて、これが管路内部の圧力を受けても外に漏らさない働きをします。

 ところがゴム材料というのは、水素を扱う上で70paという極めて高い圧力をかけると内部に気泡ができて亀裂ができることがあるという性質があります。

 そしてもう一つ、ゴム材料は高圧の水素にさらされると体積が膨張して破壊されるということもあるのだそうで、これらの弱点を克服しなくてはいけません。

 そのための試験片作りのために、考えられる限りの材料や薬品を混ぜ合わせた組み合わせを作って実験を繰り返しました。

 そうした実験の結果、シリカ(ケイ素)やカーボンを混ぜることで耐久性が増すことがだんだん分かってきて、ある段階から自社による様々な配合レシピを作ってみて実用として使える製品作りに繋げてゆき、水素が漏れない満足の行く製品ができあがったのだそうです。


           ◆ 


 水素自動車関連で言うと、水素は作った気体を「圧縮」して「貯蔵」し、それを車に「注入」するという行程でタンクの水素を車に送り込みます。

 既に実際に作られている水素ステーションでは、ガソリンスタンドのホースにあたるところに『緊急離脱カップリング』という装置が備えられていて、ガス充填中に車が発進してホースが外れたときの事故・災害防止の役割を果たします。

 この部分に、高石工業のOリングを用いて漏れのないことが認められ、ステーションの安全性の向上に大きな貢献をしています。

 高石社長さんはアメリカでの水素ステーションも見学に行ったそうですが、そこでは水素充填中にシューシューと音がして、どう見ても漏れているのですが、アメリカ人は「水素は軽いから大丈夫よ(笑)」と楽観的だった、と笑います。まあ日本の法律では認められないでしょうが。

 
 そうやってできた製品はその性能が認められて、中小企業総合展でベストプラクティス賞を受賞し、ご褒美にドイツのハノーバーでのメッセにも出品、またロサンゼルスのジェトロでも商談会を行えるほどになりました。

 
 この間の挑戦となかなかゴールにたどり着けないもどかしさ、そして最後に求める品質の製品ができた下りは、まさに「リアル下町ロケット」のようで、とても楽しくお話が聞けました。


           ◆ 

 
 講演後の質問で、「水素ステーションの実用性」と「できた製品の特許、そしてレシピの公開」について聞いてみました。

 すると、水素ステーションについては、「もう実際に配備されているだけの性能はあるものの、まだ普及段階であるために、パーツの値段や耐久性などは採算を度外視しているところがあります。だからより良い製品を作ってコストを社会が求める水準に落とすためにはまだまだやるべきことがたくさんある」というお答え。

 また独自技術の特許については、「ゴム製品は、薬品などを混ぜても、熱して整形するためにできた製品をいくら調べても作り方にたどり着けないという性質があります。なので下手に特許を取って作り方を公開するよりも、我々だけが持つ独自技術にして、私たちだけが作れるという製品で世の中に供給するという戦略が良いと思っている」とのことでした。

 
 偶然に声がかかったことからできあがった高性能な水素関連製品の話ですが、まだまだ水素社会を現実的なものにするためには多くの英知と挑戦が必要だということが理解できました。

 高石社長は、この一連のプロジェクトの結果、若手の成功体験や得られた結果を製品に反映させたりすることができただけでなく、「どうせできない」という考え方を「どうやったらできるか」に意識改革ができた、とも言っていました。

 やっぱりリアル下町ロケットなのです。モノづくりマインドっていいですね。

 北海道も水素社会に乗り出しましょう。

コメント
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