昨年の秋に、先進観光地としてスイスのツェルマットを視察してきたグループの人たちが訪ねてきて、現地での感動をプレゼンテーションしてくれました。
マッターホルンを間近に見る高原の町ツェルマットは、人口はわずか5800人なのに、年間で二百万泊の宿泊者が訪れるスイス有数の世界レベルの観光地です。
ここは観光地で生きてゆく、という決意を住民が共有し、景観保全や環境保全、もてなしの高度化や顧客管理などがどれをとっても超一流のマネジメントをしています。
人気があっても地域の価値を下げるような乱開発はせず、もっているキャパシティの中で世界から多くの観光客を迎えているのです。
なにしろマッターホルンに近いというアルプスの山奥なので、空港やメイン道路からのアクセスが決して便利というわけではありません。
ガソリン自動車は途中のティッシュという町で鉄道に乗り換えなくてはいけませんが、大きな荷物は安い金額での輸送サービスが充実していて、重たい思いをすることはないそう。なので、現地に到着するや否やすぐに観光を楽しむことができます。
わざわざ遠くまで来るので、短期間の滞在では疲れてしまうため、多くの観光客は長期の滞在をしてくれます。町の方も小さいながら多くのレストランがあるほか、登山や冬期のスキーは言うまでもなく、山を下りるだけのダウンヒルサイクリングなど、多様な観光コンテンツが充実しています。
そのうえ顧客のデータ管理にはものすごく力を入れていて、数多く訪れてくれるリピーターにはバッジが与えられて、サービスもより手厚くなるのだとか。そのためリピーター率は七割に達するのだとか。
一度来た客が町のファンになり、なんども訪れてくれる仕掛けが観光産業を支えています。
さすがに世界の先進観光地はそこまでやるのか、という驚きで、視察団の皆は目からうろこが落ちまくったそうです。
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さて、そんなツェルマット観光ですが、視察団一行は、『こんなに不便なところでも観光コンテンツで人気になれる。しかも不便さを逆手に取ると、宗谷地域も不便ではあるけれど、宗谷エリアや特に利尻・礼文という離島の観光の魅力をもっともっと先鋭化すれば、地理的条件は似通ったところがあるのではないか、と感じたのだそう。
「ティッシュという車の乗り替え地が、離島に向かう中継地としての稚内の立ち位置なのかもしれない」という考えも頭をよぎったそう。
問題は、利尻・礼文の観光資源がマッターホルンに匹敵するような世界レベルの魅力になるまで磨き上げることであり、それを補完する意味で町並みの景観保全だとか地域を挙げての環境対策、ガイドの育成などを稚内も含めた地域が一丸となって火の玉になって貫き通せるかどうかではないでしょうか。
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「とにかく一度でもツェルマットを自分の目で見ると、優れた観光地として将来に向けて生きて行くために何が足りないかに気が付きますし、そういう目を持った人が増えてほしい」と思ったと言うのが、視察団の皆さんの一致した意見。
今日来た人たちの中には、「国や道の行政もリードしてほしい」という意見がありましたが、私は逆に「国や道なんて、担当者が次々に入れ替わるので継続性が保てませんよ。地元で情熱をもって走り回る人を仕立てて、その人を外部の機関が応援するという形でなくてはうまく行かないと思います」と言いました。
そう言うと「では誰が…」ということになって、そこから先がなかなか進まないというのも今の現状ですが、やはりDMO(= Destination Marketing/Management Organization)のような地域の観光を総合的にマネジメントする組織を創り上げて、そこの活動で明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを進めてゆくべきでしょう。
利尻・礼文との連携も欠かせませんし、少なくとも離島の観光関係者や行政の方にはツェルマットを見てもらえると良いのでしょうね。磨けば光る玉なんですが。
それにしてもツェルマットかー、一度見てみたいものですねえ。