日本都市計画学会北海道支部の研究発表会が12月2日(土)にありました。
地元の大学や社会人を対象に、都市計画やまちづくりに関する研究を発表して良い論文は支部表彰を行うという、しっかりした発表会です。
この日は9本の論文発表で、AIやビッグデータを活用した調査研究など新しい切り口のものも見られ、本数が少ない割には質の高い論文が多く充実した発表会となりました。
発表会の後にはいつも基調講演として地域での面白い話題をしていただくのですが今回は、道東エリアを対象に、地域課題の解決のために様々なプロジェクトを手掛ける一般社団法人ドット道東の仕掛け人である中西拓郎さんをお迎えして、地域での様々な活動について「理想を実現できる道東にする『マス・ローカリズム』の実践」というタイトルでご講演をいただきました。
中西さんは北見出身の35歳、一度は北海道を出たものの2012年に北見市にUターン。
そこで市内のデザイン会社に勤務した後底を退社して一般社団法人ドット道東を設立し、いまはそちらの代表理事でありプロデューサーとして活躍されています。
このドット道東が注目されたのは、2019年に道東のアンオフィシャルガイドブック『.doto』を作るためにクラウドファンディングを始めたところ、ネット経由で様々な支援者、協力者が現れて、資金だけではなくライターや写真など様々な知恵や能力を持ち合わせた人たちが集まってきたことです。
クラファンで340万円を集めることに成功して印刷物として発刊した『.doto』は初版の5000部が一カ月で完売、その成果が日本地域コンテンツ大賞にて地方創生部門最優秀賞(内閣府地方創生推進事務局長賞)に輝きました。
その活動は中小企業白書で紹介されたり、その結果学生の注目企業2021ではトップ200に入るなど、注目度合いを高めています。
ガイドブックを作った目的は、共通言語を見立てて共通体験を作っていくことだったのですが、作成過程ではフリーランスの人たちが出会って、最初5人から始まって(いまは8人)が周りに声をかけて「皆でガイドブックを作ろうよ」というのが始まり。
クラウドファインディングの見返りは「5千円の支援をしてくれれば『.doto』の手伝いができるという権利(笑)」というとんでもないものでしたが、なんと「かばん持ちやる」「一肌脱ぐ」という支援者が48名も集まり、編集部が突然100人以上になったのだそう。
編集は部隊をチーム分けして、チームごとに好きなやり方で提案してもらって最後にガッチャンコしたのでテイストの違うページが沢山あるけれど、最後のコピーは「道東で、生きている。」で、これが気に入っているとのことでした。
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中西さんの言う、「マス・ローカリズムの実践」とは、「地方社会が自主的な意思決定を行い、地元の文化やアイデンティティを重視するアプローチ」であり、「地域コミュニティの積極的な参加と、地域資源の最大限の活用が特徴」というものだとのこと。
中西さんは北見に住んでいて、「道東にいる」というと、「北海道には行ったことがあります。函館や札幌は良いところですよね」とは言われるものの、道東はただ北海道の東側で、アイデンティティや文化が存在しないと思われているのではないかと良く思ったそうで、「自分自身自虐的に"(札幌)じゃないほう"と言ったりしています(笑)」と笑います。
しかしこのガイドブックの発刊で、道東の中に向けた情報発信のつもりが逆説的に域外に伝搬し、『地元向けのニッチ情報 → ニッチを求める域外の読者 → 域外からの評価高まる → 地域の読者がさらに増える → 地元向けニッチ情報(先頭に戻る)』というサイクルが回り始めました。
中西さんは「磨くではなく、あるもの・いる人・できることを掛け合わせるプリコラージュ(自分で修繕する)的な付加価値の創造」だし、「共通言語を見立てて共通体験を作っていくことなのだと思っています」とおっしゃいます。
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私は中西さんの話を聞いて、釧路にいたときに地元釧路新聞の「巷論」という欄に書いた文章を思い出しました。
今改めてそれを引っ張り出してみて、私も当時「道東は道東で良いのか」と書いていました。
当時から「道東」というと「北海道の東側」というイメージを与えてしまうのが残念で、新しいエリアブランドという認識をすべきだ、というものでしたが、私の場合は口先だけだったので、中西さんのような具体的な行動に移すことができませんでした。
SNSやクラファンなどの新しい社会ツールの登場でやりにくかったことができるような時代なんだな、と感慨もひとしおです。
道東がさらにもっとたくさんの光の当たる地域になるよう願っています。
【釧路新聞「巷論」平成24年10月9日】