こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『英国の本屋さんの間取り』清水玲奈

2024-09-25 20:13:33 | 読書感想
 
「英国」「本屋」「間取り」という言葉に惹かれて手に取りました。

何でもコロナ禍以降のイギリスでは書店、しかも独立系書店が増えているそうです。
冒頭、英国の書店の「見せ方の工夫」「愛される工夫」というものを拝見しましたが、日本の書店でもやっていることなのですね。
それなら、英国と日本と何が違うのだろうかと読み進めていきました。

まず基本的にイギリスの書店では新刊書も古書も一緒に販売しており、日本のように新刊書店と古書店が別々というわけではないようです。
次に日本の新刊書店では、本は出版社から借りて置いていることがほとんどで、買い取りは岩波書店など一部のようです。
逆にイギリスではすべて買い取りなので選書も吟味しており、書店ならではのこだわりや個性が出るようですね。

どちらが良いかとは言い切れない面があります。
日本の大きな書店であれば、多種多様な本が自分の好みで選び放題なのですから。
ただし小さな書店では取次が選んだ無難だけど個性のない選書になりかねず、しかもベストセラーなどの話題書は大きな書店に奪われがちという話をお見掛けします。

ここでそういう事を言っても解決できるわけではありませんので本題に戻りますが、この本に取り上げられた書店で気になった書店は3軒。

最初は旧駅舎に作られた「バーター・ブックス」
一人一冊(ペーパー・バックなら二十冊)までを持ち込むと、店内の本と「交換」できるというシステムがいい!
しかも書店の雰囲気も駅舎だったこともあって、落ち着いた雰囲気。
カフェもあって購入した本を読みながらゆっくりくつろげたら嬉しいと思います。

次に素敵だと感じたのは「アリゲーター・マウス」つまりは「鰐の口」
子どものための書店です。
子どもは好奇心の塊なので危ないところに飛び込んで行きたいと思ってしまうもの。
そういう子どもたちが本屋に飛び込んで興味と好奇心の赴くままに選べるなんて楽しいじゃないですか?
ちなみにこの書店の周りの学校はよりレベルの高い本を読むように子どもたちにプレッシャーをかけるきらいがあるようですが、まず子どもらは自分の好奇心を存分に満たしてから上に行きたいと思うものだと考えているので、この書店の在り方はいいなと思った次第です。

最後に気になったのは「独立国家」を掲げて立ち上げたという「リチャード・ブース」
1977年に「ヘイ王国」の独立を宣言し自ら国王を名乗ったのがリチャード・ブース。
・・・星新一さんの作品「マイ国家」か?と一番に思ってしまいましたよ(^_^;)
今「ホシヅル図書館」を検索したところ「マイ国家」の初出は「オール読物」の1967年11月号だそうです。まさかね?(;^ω^)

確かに英国の書店が盛況なのはめでたいですし、素敵な本屋さんは見ていて楽しいです。
面白いのですが、日本の書店をめぐる制度や書店員さんの実情をしっかりと見て、具体的に案も出してほしいと感じたりもします。
そういう点で不満もあったりしますが、全体的に興味深く面白い本です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『源氏供養 草子地宇治十帖』森谷明子

2024-09-18 20:02:30 | 読書感想
 
宮仕えを辞して出家した紫式部こと香子は、彰子皇太后の手配で質素な宇治の寺の庵に暮らしている。
その皇太后の元には娘の賢子が出仕して、宮中生活を謳歌しているらしい。
最近、顕光左大臣の息女、延子から『源氏物語』の続きを促す便りも来ているが、関節炎が悪化しておりなかなか筆をとる事ができないでいる。

そんな中、香子の周りで毒を盛られた様子の猫などが発見されたりと、不穏な出来事が続く。
その理由や犯人とは?

あとがきまで読んで、森谷さんのデビュー当時の編集さんにお礼を申し上げたいと思いました。
何でも森谷さんご本人はこの宇治十帖のアイディアが先にあって、次はこれを書きたいと思っていらしたそうですが、せっかくの源氏物語テーマなのにすぐに終わっちゃうのはもったいないですよねえ?
引きとめて下さってありがとうございます。グッジョブです。

でもこれで完結なんですよねえ。
いい物語だったなあ、という感慨と共に寂しさもあったりして読者は勝手です。

個人的には(史実の)菅原孝標女が好きだったりするのですが(同病ですから(笑))キャラ的には地味なので、探偵には向かないのかなあ?
今後、宮廷文化も衰退していく時代でしょうし、ミステリーの舞台としても大きなトラブルは起きにくくなっていくかもしれませんし、難しいのかなあとも感じます。

しばらくは未読作品を読んでいこうと考えています。
とにかく、とても魅力的で面白いシリーズです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『おでんオデッセイ』山本幸久

2024-09-11 20:14:54 | 読書感想
 
元々は大手商社に総合職として入社し、やる気満々で時には会社に泊まり込みで働いていた有野静香。
ところがハードスケジュールがたたったのか心身ともに体を壊して入院。
会社は徐々に慣らして戻そうと事務職に異動させたようだが、本人は捨てられたような気分になり、結局、実家に戻る。

実家は御年65歳の母が営む有野練物でしばらく工場を手伝っていたが、地元の伊竹市が町おこしにと将来性のある事業計画に助成金を支払う制度を立ち上げたのに乗っかり、伊竹銀座商店街の一角、約九坪の角地に実家の練物を利用しつつのおでん屋台「かいっちゃん」を始めた。

自称漫才師のはるかとみのりや、最初に決まってつみれを3個頼むので内心つみれちゃんと呼んでいる長身の女性などが常連。
そして漫才師2人が屋台で必ず聴くラジオ番組が様々な場面で何らかの影響を与え、静香や屋台を訪れる客たちに様々なきっかけをもたらす。

人間関係が壊れかけるところにハラハラさせられたり、パワハラをする会社員とその部下にそれぞれ怒りと同情を覚えたりと、バラエティに富んだ人間模様が繰り広げられて面白いです。

余談ですが、個人的にジャック・オ・ランタンを模した練物が楽しそうだなとも感じました。

おでんネタではありますが物語が始まるのは夏なので、今から読むのに最適かと考えています。
お薦めです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする