こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『キッチンつれづれ』アミの会

2024-05-27 20:10:42 | 読書感想
 
思いがけずお向かいの家のキッチンと窓越しに向かい合わせになってしまったアイランドキッチン「対面式」
料理を科学実験のように行う姉を持つ、ひと回り年下の妹が家族に隠し持っている思い「お姉ちゃんの実験室」
公民館で月一回開かれている男性の料理教室に関わる不名誉な噂「春巻きとふろふき大根」
今回の「キッチン」というテーマにおいて、一番シリアスでここまで社会の暗部を描くかと思った「限界キッチン」
そしてこのアンソロジーを毎回選んでいる理由のひとつである矢崎存美さんの書く「黄色いワンピース」も、社会問題のひとつに突っ込んだものでした。

ここでは取り上げていない作品も、このテーマでこう来る?というような様々な話を語って下さっており、バラエティに富んだ素晴らしいアンソロジーです。
言うまでもなく、美味しいものが大好きな方々にも強くお薦めします。
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『わたしは孤独な星のように』池澤春菜

2024-05-26 20:11:51 | 読書感想
 
コロニーで母と暮らしていた少女が死に分かれて叔母と住むようになったのに、彼女まで亡くなってしまい・・・という表題作を読んでいたら、なぜか谷山浩子さんの「わたしは淋しい水でできている」という曲を思い出しましたが、感じ方としてはあながち遠いものではないと思います。

また、巻頭の「糸は赤い、糸は白い」では他人と真実、共感したいと思いつつ拒否感もあるという微妙な願望が実現したか?という面白い物語です。

ただ私がこの本の中で一番楽しんだのは「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」と「宇宙の中心でIを叫んだワタシ」ですし、一番好奇心をくすぐられつつもディストピア感も強い「祖母の揺籠」も好きです。

結構、お薦めできる本だと思いました。
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『刑事王子』似鳥鶏

2024-05-22 19:47:57 | 読書感想
 
警視庁組織犯罪対策部国際犯罪対策課第一国際犯罪捜査四係所属の本郷馨巡査部長は、出先の助っ人として外国人被疑者の尋問を引き受けての残業の帰りの住宅街で、不審な金髪の外国人が住宅への侵入までするところを止めようとし、格闘するも取り逃がしてしまった。

翌日、課長からの呼び出しに応ずれば、部長、さらに警察庁国際捜査管理官まで現れた。
何でも「複数の殺人教唆及び幇助」容疑の国際手配犯を捕まえるために、北欧の島国『メリニア王国』のミカ第三王子と協力して捜査にあたるようにとの命令だった。
そのミカ王子こそ、昨日取り逃がした金髪の不審な外国人だった。

お互いの第一印象は最悪ながら妙に息のあった掛け合いは、コメディタッチにも感じられますが、次々と出てくるマフィアに牛耳られている小国の凶悪犯がからむ殺人事件はたちが悪く、お笑い要素で息を抜かないときついという面もあります。
また事件の背景に多くの現代社会の問題を取り扱っているというところも興味深く、同時に生々しさも感じるところかもしれません。
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『君を守ろうとする猫の話』夏川草介

2024-05-18 20:39:03 | 読書感想
 
十三歳で中学生の幸崎ナナミは、ある日行き慣れた図書館にて無断で本を持って行く「怪しい奴」を見かけていた。
顔見知りの司書に相談するも、忙しいのか「借りているのではないか」と相手にしてもらえない。
それからしばらく後の晩秋の茜空の頃、ナナミは再び「怪しい奴」が本を持って行くところをを見つけて、追ってみる。
姿を見失った書棚の通路が光のかなたまで果てしなく続いているのに誘われて、三度目も追おうとしたら、どっしりとした体格のトラネコに人の言葉で引きとめられる。
危険への覚悟を問われ、それも承知の上で大切なものを取り返すためにトラネコと一緒に行動を開始する。

「怪しい奴」の正体も気にかかりましたが、何よりもそいつとの会話で「気に食わない」ところがありました。
古い本ばかりが内容に深みがあって素晴らしく、現代の新しい本は刺激を追い求めるばかりでつまらなく薄っぺらいと言っているような表現・・・というか、そう発言しているように感じられたのですね。
そりゃ、そういう軽佻浮薄な本も無いとは言えませんが、逆にそう見せておいて実は・・・というものもありますし、どんな物語も受け手によっていくらでも面白く学びのあるものになる一方、小難しくて型にはまったつまらない物にもなるのですよ。

もちろん「怪しい奴」の言動は、物語の流れで必要なもので作者の意見の代弁ではありません。
これから読まれる方々は、その辺りを勘違いなさいませんよう。

ずいぶん話が脱線しましたが、このように一冊の本を読むだけでも空想ばかりか思考も広がっていくところが読書の醍醐味ですよねえ?
そしてナナミじゃありませんが、小説に限らず本は世界に山ほどあって新しい本も大量に発行されており、いくらでも学びはあってそれなのに人生には限りがあるので、とても一生では読みおおせません。
せめて彼女の年齢の頃にこれに気づいていれば、時間を浪費しなかったのになあ。
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『国歌を作った男』宮内悠介

2024-05-16 20:05:37 | 読書感想
 
伝説的コンピュータゲームと音楽を作った男の物語である表題作も面白かったのですが、
1965年にSNSが存在する世界を描いた「パニック―一九六五年のSNS」や
記憶力が良すぎる精神科医の行きつけの整体という一見対立しそうなテーマが面白い「三つの月」
そしてデビュー作を思い出させる「十九路の地図」が特にお気に入りとなりました。

長編の作家さんと思っていましたが、短編の味わいもまた違って面白かったです。
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