星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

旅の仲間のその後に期待…:ロバート・ゴダード著『謀略の都、灰色の密命、宿命の地 1919年三部作』

2019-08-21 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)



この夏の読書記がぜんぜん追いついていきませ~ん、、 実際はとうに読み終えてほかの本も読み終えているのですけど、、 

ロバート・ゴダード著 《1919年 三部作》については前回ここ(>>)と こちら(>>)に書きました。

今からちょうど百年前の1919年、 第一次大戦の戦後処理をめぐる《パリ講和会議》を背景に始まった物語。。

英国空軍の凄腕パイロットだったマックスと、 優秀な整備士のサム。 この二人の関係について どこか《指環物語》のフロドとサムを想わせる… と前に書きました。 
マックスの父の死の謎を探るために始まった旅は、 その後 英・米・仏・独・日を巻き込む巨大スパイ網を暴くという 大掛かりな《旅》へと発展し、、

英国の情報機関《MI5》の人間や、 米国の情報請負人(情報を金で売る仕事なのだけど、ここに登場するのはまるで傭兵のように逞しい猛者)とか、、 はたまた特別な身体能力を持った謎のアラブ人少年とか、、
『指輪物語』で言うなら 〈ストライダー〉や〈エルフ〉に当て嵌まりそうな《旅の仲間》も加わって マックスとサム、その協力者たちは 世界を揺るがす巨大スパイ網の謎に迫っていく…

… というのが 第二部『灰色の密命』までの展開で、、 第二部の終わりでは 登場人物に最大の危機が…。 旅の仲間はちりぢりになった感じで、、 互いの生死も確認できないまま それぞれが謎の最終目的地を目指して行動を続けていく、、

その最終目的地は ここ日本。
第三部では 巨大スパイ網を操り 失われた帝政ドイツの復権をもくろむレンマー& 日本の政界・軍部を陰で動かす戸村伯爵という 二大巨悪を斃すために 《旅の仲間》たちは さまざまな痛手を負い犠牲を払いながらも 此処日本へ集結する…

と、、 少し 『指輪物語』になぞらえてまとめてみたのですけど… 指輪物語で言うなら 世界を破滅に陥れる力を持った《指環》を棄てることが最大の目的なので、、 《1919年 三部作》では きっと 世界を危機に陥れようとするレンマー&戸村という闇の権力者(とその背後に組織化された軍部)との対決が最大の焦点になるのかな、、と、、

実際そうではあるのですが、、 でも話はラスト 思わぬ方向へ、、

全6冊にわたる壮大なスパイ小説としては (え…? そっち??) といういささか肩透かしというか拍子抜けする方向へ 最後、物語は進んでいき、、 (そこで明らかになる事もそれはそれで興味深いのですが)

日本を舞台にして、 東京の銀座や上野や 深川などの下町の長屋や、、 鎌倉観光もするし、、 温泉にも入るし、、 食いしん坊のサムが日本のお茶や納豆やご飯に辟易する場面もあるし、、 京都も舞台になって、、 しまいには謎の《城》(まるで織田信長の安土城をマンガで描いたみたいな怖ろし気な城…)も出てくるし、、

ラストの地は なんと《琵琶湖》で…

ものすごく楽しめはしましたが、、 やはり結末が、、(そっちなの…?)という少々物足りなさも。。 《旅の仲間》にしても、 さっきストライダーと書いた傭兵を想わせる米国人モラハンや、 エルフのような身体能力を持ったアラブ人少年といった とても魅力的なキャラクターが登場しているのに、、 もう少し彼らの個人的な背景や、マックスや マックスの父とのそもそもの関係を深く描いて欲しかったなぁ、、という気も。。
あっけなく 物語から姿を消してしまう人物もいて、、 いつも緻密な人間背景を組み立てるゴダードさんの作品にしては ちょっと物足りない人物や少~し無茶な設定の人物もあるかな、、 


 ***

でも、 エンターテインメントのフィクションではありながら、 第一次大戦以降の 軍拡・侵略へ歯止めが効かなくなっていく日本の「描かれ方」には考えさせられるものがありました。。 《残虐》という言葉が、 日本の特高警察や第一次大戦での軍部や 架空の人物ではあるけれど戸村一族に関して、、 何度《残虐》という言葉が使われたでしょう、、

さきほど書いた 若干肩透かしの結末、、 というものに関しても、、 世界規模のスパイ小説という視点から外れて、 一個人、 一日本人の《残虐性》を象徴させたような、 そんな結末とも考えられるし、、

マックスが国家=英国に対する想いや、 自分が戦争中に撃墜したドイツ軍機についての想いを語る部分があります。 その描き方と 日本を描く部分との《違い》があることにも考えさせられました。


話は少しとびますが
この8月、、 過去の資料から明らかになったということで 戦時や戦後の秘められた事実がニュースになったり、 TV番組になったりしていましたね。 過去への《反省》という内容についても取り上げられていましたし…

いつまで反省すれば良いのかとか、 未来志向という言葉にすり替えて省みることを拒否する向きもあります。。 けど、 日本国内ではどうであれ、 世界がそのことをどう見ているのか、 たとえ文学作品、フィクションの世界といえども、 歴史の中の日本はどう描かれ、どう受け止められているのか、、 それは永劫に自ら省みていかなければならないことと思います。 戦時の非人道的な行為を無かったことにはできないのだし、 外側からの視点で描かれた作品を 現実にいま世界は読んでいるわけですから…


 ***

話をもどして…
解説によれば、 ロバート・ゴダードさんは《1919年 三部作》のあと、 この5年後を描いた 《1924年》の物語を執筆されているそうなので、 翻訳されたらきっとまた読むことでしょう。。 今度の舞台はドイツのようです。 
できれば今回の《旅の仲間》も、、 ふたたび出てきてくれると良いな…
 

あ、、そうそう

前に予想した通り、、 (サム、 君がいてくれてよかったよ) という台詞は やっぱり出てきましたよ! 



できたらサムに素敵な彼女も……

(注: 主役はサムではなく全てにMAXなマックスです)
この記事についてブログを書く
« メスキータ展 東京ステーシ... | TOP | ラスト100頁の驚愕:マーク・... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)