prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「音楽ホール」

2007年10月11日 | 映画
サタジット・レイ監督が「大河のうた」と「大樹のうた」の間に作った、第四作目。なんでも「大河のうた」が主人公オプーが母親を一人で死なせるのが非難されて興行的に失敗したので、いったん題名通り歌と踊りも入れた一般向けの作品として作られたものかしれないが、内容は厳しい。

伝統と格式ある名家の当主が歌舞音曲にうつつを抜かしているうちに没落していく話だが、ムリに残った財産をかき集めて高いダンサーを雇って成金と張り合って同席して踊らせ自己満足に浸るクライマックスで、ダンスをフルショットで全身を入れるかちっとしたサイズでじっくりと見せてから次第に足元に寄ってしめくくり、さらにはしゃいでチップを渡そうとする成金を当主がステッキで抑え「わしが先だ」と言うアップをびしっと決めるカット構成が鮮やか、さらに宴の後のシャンデリアの灯火が消えていくのを家と当主の命が燃え尽きていくかのように見せ、朝の光が希望ではなく白日夢のような調子で錯乱した当主の精神状態を反映する、といった演出タッチはさすがに堂々たるもの。

飲み物の中をゴキブリみたいな虫が泳いでいたり、黒い大きな蜘蛛が当主の白い服を着た肖像画にとまっている不吉なショットが鮮烈。一方で象や白馬に権勢を象徴させていて、「大地のうた」で人間の代わりにヘビが空家に入っていくラスト同様、生き物と人間の運命がつながっているよう。

まるっきり西洋風のファサードを持つ屋敷の閉ざされた印象の造作と、その前に広がる荒野の対照。
並んだ石柱や鏡などを巧みに使って画面の奥行きを出した画面構成。
主演のチャビ・ビスワースがお公家さんみたいなのっぺりした顔からみるみる凄惨に荒れていく変化をメイクともども見事に見せる。

「戦場にかける橋」('57)の「クワイ河マーチ」として有名な曲「ボギー大佐」('14)のメロディがちらっと流れる。この映画の製作は'58年だから関係あるかどうか微妙。
(☆☆☆★★★)


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「遠い道」

2007年10月11日 | 映画
サタジット・レイ監督によるテレビ作品。英語題名はdeliverance。

カースト制をバックにした悲劇だが、大上段にふりかぶった作りではなく、なんでもないようだった体調不良とか一人娘のためにと無理したりとか、片付けなくてはいけない木の質がやたらと硬かったりとか、ちょっとした無神経が重なっていって、じりじりとカタストロフに達するタッチがさすがに隙がない。

上級カーストのはずの僧が死骸をひきずって捨てに行く「汚い」仕事に手を染めるショットの積み重ねに力感があり、何事もなかったようなラストの静かさも怖い。
(☆☆☆★★)


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