prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「アルゴ」

2012年11月05日 | 映画
単純に娯楽映画として見るつもりだったのだが、意外とひっかかるところが多かった。

娯楽映画とすると、救出される六人の人質が怖がって計画に乗ってこないあたりがワガママに見えたりして助かって欲しいと肩入れするのになかなか至らないのと(協力すると「決断」する本来感動的になる瞬間がない)、残りの人質はどうなるのかが意図的にだろうがすっぽ抜けているのが、微妙にブレーキをかける。キャラクター造形が一部に偏っていて、盗み出す「お宝」の価値を充分に描きこんでいないのです。

自国民の命だけを大事にするのか、というのと、自国民でも救出の望みがないのは頭から無視する、というのは人質救出の常識ではあるだろうけれど、一般市民の常識とはまた別でしょう。

イラン人が一方的に不気味なエイリアン(異人)として扱われているあたり、「ミッドナイトエクスプレス」の時代から進歩していない。悪く言えば9.11以降の空気におもねた感じすらする。
辛うじて息子をアメリカに殺されたと激昂してつかみかかってくる初老のイラン人を描くあたりで相手にも敵視する理由と事情があるのをエクスキューズ的(なのか?)に入れているけれど、なにしろ剣幕のおっかなさの方が目立つ。
あと、(またしても)イラン人のセリフに字幕がつかない。意味がわからないほうが不気味でサスペンスが効くのはわかるが、あたまから理解を遮断しているともいえる。

イランが主権を侵害されたと非難するのは、これ見る限りむしろ当然に思える。外国政府の許可を得ないで自国民を連れ出すのは、日本でいったら金大中事件に近い。頭からアメリカ寄りで見ないで、ちょっと離れてみたらルール違反ははっきりしています。

実際にはどこでロケしたのか気になった。イランのわけないし。Imdbによるとアメリカ・カナダ以外ではロケはトルコのイスタンブールだけ。マーケットのシーンがそれらしいが、大使館周辺のシーンはどう作ったのだろう。エンドタイトルで実際の事件の舞台そっくりにしつらえているのがわかるところを見ると、完全にアメリカ国内で作ったものかもしれない。

実際には映画を作らない映画製作というところは、なんか絶対コケる芝居をでっちあげる話の「プロデューサーズ」みたいでもある。
昔、映画会社の重役は映画を売って儲けるのではなく映画会社を売って儲けるんだ、というジョークがあったが、どうもジョークでもないし映画会社に限ったことでもないようだ。つまり「本業」による利益より、株式上場してその上がった株の売買による利益の方が目的になっているのは、他の業種でもあたりまえになっている。

バラエティ誌(作中では「クレイマー・クレイマー」の大きな広告が出ている)に製作決定のニュースが出た映画企画で実際に完成して公開されるのがごく一部、という現実があるから、ああいうカムフラージュもできたということだろう。
HOLLYWOODの看板がぼろぼろになっていたり、撮影中の風景のショボさといい、ティンセル・タウンぶりの揶揄が一番おもしろいところ。
ただ、これが映画讃歌になっているかというと微妙。そうでなければいけないわけではないが、国に貢献できたことをむしろ価値としていると思う。

カナダというのも妙な国で、れっきとした先進国なのに妙に「国際社会」で影が薄い。別に悪い意味で言っているのではなく、アメリカみたいに余計な反感買わないでアメリカに近いことやっているわけ。

ジョン・グッドマンなんてかなり著名で容貌が特殊(でぶちんということです)な役者にジョン・チェンバースという実在の人物をやらせるというのが不思議だったが、本物のチェンバースもでぶちんだったみたいね。
エンドタイトルを見ていたら、health and fitnessなんて職能があった。わざわざそういう職能まで出るかと思う。

Argo,fuck youselfという決めセリフがあったけれど、このfuck yourselfという表現はフレドリック・ブラウンのショートショートで覚えた。どうしても意思が通じない宇宙人を相手にヤケになってこう言ってしまったらいっぺんに友好関係が始まる、というもの。
字幕で「勇気」と訳していた表現でballsと言っていたのもありましたよね、たしか。セリフが字幕でもビビットでヒアリング力が欲しくなります。
(☆☆☆★★)

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11月4日(日)のつぶやき

2012年11月05日 | Weblog

「BUNGO ささやかな欲望 見つめられる淑女たち」 永井荷風 「人妻」 blog.goo.ne.jp/macgoohan/e/bd…


ER1でバカにアップが多いエピソードがあったが、タランティーノの演出でした。


今持っているCD 他の曲を聞いていれば十分ってところあるものね。音楽はもともと右から左に消費するものじゃないし。news.livedoor.com/lite/article_d… 音楽離れ歯止めかからず