大統領というのは報道に対して国家機密を漏らした罪を問うて封じるという手を持っているというのにぞっとする。やろうと思えば「合法的」に報道を封じられるし、現にそうなっている国はいくらもある。
報道の自由というのは報道そのものによって勝ち取れる、というセリフが重要。
大物記者が政治家と個人的なつきあいをしているのは日本と同じ。ただし本当に報道に賭けなくてはいけない正念場にはつきあいを絶つ。
ニューヨーク・タイムスが先行してスクープを飛ばし、ワシントン・ポストは地団駄を踏むことになるのだが、タイムスが大統領側の攻撃をまず受けて動きが取れなくなったところにポストが追いつく、といったライバル同士の抜き合いと同時に、バトンを受け継ぎ共に戦うというジャーナリズム同士の関係が清々しい。
それにしてもリークというのは見ようによってはあなたまかせみたいでもあるけれど、新聞社の信用があるからリークもしてくるのであり、その信用を担保するのは「その後」の扱いによるのだと思わせる。
株式を上場することで得られた資本で何人記者が雇えるか、といった計算をしていたり、報道するリスクをとることで株主の利益をおびやかす恐れがあると社主が顧問弁護士に警告されるあたり、新聞社の営利私的企業としての側面も描いている。
そして報道に踏み切る時に社の創立理念を持ち出して理屈で切り返すあたりアメリカらしい。
タイプライター、鉛の活字、空気圧で送る書類、固定電話、大量のペーパーなどの当時の道具立てがデジタルより映画的に画になる。
トム・ハンクスのジョー・ブラッドレーが「大統領の陰謀」のジェースン・ロバーズ同様デスクに足を乗せている。実際のブラッドレーの癖だったのだろうか。
一見して地味な題材をじりじりと盛り上げて(カメラはかなり動いているのだが、眼にうるさい感じがしない)爽快感にまで持っていくスピルバーグの演出力はさすがで、現実の続きを暗示するラストもニクソンの退陣にまでつながっていく事実を知っていて見るから爽快感に水をさすことはない。
(☆☆☆★★★)
「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 公式ホームページ
「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」 - 映画.com
本ホームページ