携帯の着信音といい各種のアラームといい、至るところにメロディが流れている現代の状態を踏まえて音楽を聴くとところかまわず踊り出すという着想に加えて、ミュージカル・ナンバーそのものはいかにもミュージカル調にきれいに振り付けられているけれども、それは実はヒロインの脳内イメージに過ぎず実際は酔っ払いのドタバタだったりして、最初の方のミュージカルのなんでふつうに喋っていたのがいきなり歌ったり踊ったりするの?という「不自然さ」に対応したツッコミになっている。
ミュージカルというのは登場人物の感情が高まって歌になり、歌が高まって踊りになるというのが通常なのだが、ここでは音楽を聴くと思わず歌いだしたくなる、踊りだしたくなるという具合にきっかけが内在的ではなく外から与えられたものになっているのが一種の奇手ながら、ツッコミを可能にはした。
宝田明のアヤシゲな催眠術師が可笑しい。冒頭の若い姿はデジタルメイクだろうか。かつて舞台で演じた「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授ばりのオクターブがあまり出ないのを逆手にとった唱法を聞かせる。
三吉彩花は背が高く手足が長いので踊ると映える。
ふだんブスっとしているのが踊りだすといきなり笑顔になって華やかな雰囲気を振りまく。目が大きいのでびっくりした顔がかなり可笑しい。
使われている曲が日本のおおむね既成曲でドメスティックなテイストが出ている。なまじ新曲を使うよりこなれた感じ。