お金をモチーフにした内容だけれど、拝金主義やケチケチぶりのデフォルメで笑わせるといった線ではなく、日本の中産階級(が没落しつつあるのだが)の常識的な金銭感覚の範囲内の、あるある的な共感で笑わせる。
生きるか死ぬかというほど逼迫しているわけではなく、財産がまるでないわけではないのだが、とにかく余計な出銭が多いのに振り回される感じ。
冠婚葬祭のように本来使わなくていい筈のところになんとなく習慣に流されて使ってしまう、そのもどかしいところを上手く抑えた。
大勢のコミューン的な緩い助け合いで全部お金で済まそうとすると負担が大きくなりすぎるのを分散するといったあり方を提示していて一定の説得力はあるけれど、具体性にはやや欠ける。それは映画の役割を逸脱した話ではあるが。
予告編ではマンガチックなCGの使い方が気になったが、本編の流れで見るとあまり違和感はない。
草笛光子の義母が困ったところと格好いいところの両面見せてさすがという感じ。
天海祐希は映画ではベストではないかな。宝塚の男役だった楽屋落ちが出てくるけれど、頼りにならない夫の松重豊との関係がぎすぎすしないのがいい。
ほか、ちょっとしたゲスト出演者にもそれぞれ扮装など細かい演出の眼が行きわたっている。
前田哲監督としては「そしてバトンは渡された」と一日違いの公開になったが、実はこちらは一年コロナで公開が延期されたからそうなったわけで、居酒屋のシーンでも誰もマスクをしていない。
二本とも十億円超えのヒットの見込みだそうで、「こんな夜中のバナナかよ」も入れると三本連続。どれも監督の名前を表に出さない宣伝をしていたが、あまり個性で売るというタイプではなく、しっかりした技術といい意味で常識的なセンスで手堅く打ってきたが、今後は扱いが変わるかも。
生前葬の場面がほとんどキャラクターが集まるだけにフィナーレ的なムードになり、その後が少し長く感じられた。