今はなき岩波ホールでの公開だったのだね。
ギョーム・ドパルデューの父親ゆずりの巨体が豪華な割にがらんとした室内で大きな足音をたてて歩き回る。びっこをひいているのだが、95年には実際にバイク事故で重傷を負い、手術の際の院内感染が原因で長年ひざの痛みと戦ったあげく、03年に右脚の切断を余儀なくされたからだという。この映画はその後の07年の製作(翌08年に37歳で急逝)。
サイレント映画を思わせる字幕の簡素な潔癖さ。
まず読む文字として現れる、バルザック文学に忠実な(というのか)表現。
初めは気位高く構えていたランジェ公爵夫人が無骨な軍人モンリボー将軍と立場が逆転するすれ違いドラマなのだが、文字でつなぐことでいかにもなドラマチックなメリハリはあえてつけないでいる。
マキノ光雄の言葉を借りると、ドラマがあってチックがない。