貴族と平民の間に生まれた主人公がイノセントな純文学志向だったのがペンで人を持ち上げたと思うと引きずり下ろすのを生業とするようになり、気づくとあちこちのしがらみで借金で首がまわらなくなっている。
華やかな生活にも全部カネがかかっているというわけ。
19世紀のコスチューム・プレイの世界だから、今で言うメディアを牛耳っている連中のえげつなさがカリカチュアと見せてリアルに描けている。
今だったらSNSの世界になるから画にするのが難しいだろう。
いわゆる犯罪大通りで赤い靴下を履いて踊っていた出会った時まだ十代の歳の離れた妻が、借用書につぎつぎとサインする情景は「バリー・リンドン」を思わせる。
美術が素晴らしく、ロウソクの照明のニュアンスが良く出た。
小林信彦はバルザックについて、昭和初期のビルを歩いていたら最新のビルに紛れ込んでしまったような感じ、バルザックの強みは政治と経済に強いことと形容していたが本当に今に通じるのだろう。