prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「キックハート Kick-Heart」

2017年11月15日 | 映画
湯浅政明監督の「夜は短し恋せよ乙女」と「夜明け告げるルーのうた」のDVDがレンタルになったのに合わせてTSUTAYAに湯浅作品の棚ができたので借りてみた。

12分の短編でDVDとしては一本としてレンタルするというのも強気といえば強気な話。もっとも長いからありがたいというわけではなくて、短くてすぐ見られる(なんだったら何度も見てもいい)というのもあっていい。

Production I.Gがもともと尖がった企画として取り上げ、クラウドファウンディングそれもAmazonでの海外ファンドを利用して作ったのだという。

ドMのレスラーとドSの女子レスラーが戦うという何じゃそら的な煽りだけれど、設定はまるっきり「タイガーマスク」。
リングで戦って稼いだお金をみなしごハウス(かなり悪ガキが多い感じだが)で使うのだけれど、それを堂々とやってもよさそうなのを異様に恥ずかしがって隠したがる、というのが「夜は短し」とか「四畳半神話大系」の童貞的主人公がヒロインに対してシャイというのを通り越してやたらムダにジタバタするのとちょっと重なってくる。

ほとんどドラッグでトリップしているのではないかと思える色彩の使い方、リングか野球場ほども巨大化するデフォルメの仕方が大胆。


11月14日(火)のつぶやき

2017年11月15日 | Weblog

「ノクターナル・アニマルズ」

2017年11月14日 | 映画
オープニングタイトルのグロテスクさに仰天する。ツイッターでいやがらせに貼り付けられるような画像を思わせる、ポルノサイト中からグロに寄ったのを選んだような醜く肉が緩んだ裸をスローモーションで見せられる。昔のアングラ芸術かと思った。(フロイドの孫の画家ルシアン・フロイドの作品が元という説もある)

それが夜の複雑に交錯する道路のいともクールな大俯瞰カットとカットバックさせて見せる、肉々しいグロと怜悧な無機質の組み合わせ自体が一種の現代美術のよう。

横たわる裸の肉体、というのが随所に配置される。展覧会に置かれる「作品」であり、ヒロインの娘がボーイフレンドとベッドで裸で横たわり母親と電話で話す図であり、小説=虚構でレイプされた妻娘の姿という具合に変奏される。
端正さな外観の中にああいう腐敗したようなグロテスクな肉が蠢いているといったニュアンスが端的に出た。

このグロい裸が横たわっているのがヒロインの「作品」で、映像そのものが一種の現代美術になっているようなカットが、特にヒロインの住居空間を描くくだりでは埋め尽くされている。
フィルム撮影が見事で、ナイトシーンの締まりといい撮影監督のシーマス・マッガーベイが「これはおそらく今まで私が撮影した中で最高傑作のひとつです」と言うのもうなずける。

別れた夫から送り付けられた小説の内容が映像として表現され、小説の主人公の男と現実の夫を同じジェイク・ギレンホールが演じているのだが、小説の中で妻=ヒロインの分身が殺されて復讐のため法的には許されない行為にまで手を染める(メフィストのようなマイケル・シャノンの保安官は実在しない小説内の人物なのだが、それを忘れるくらいの迫力があるし、夫のアルターエゴの面もあるだろう)のが、あくまでフィクションの世界のはずが映像で見せられると本当にあった出来事のように思えてくる。

ヒロインは芸術家的な性向を持ちながら芸術家になる道に踏み出すのをためらい、結局俗物の母の支配下にあるのが、「インテリア」の芸術家の母を持ち芸術家的な性格を持ちながら才能がない次女をちょっと思わせた。
ただ夫が送った虚構の世界を現実同様に体験した以上、現実の夫に会う必要はない、一種の覚醒をうながす夫の贈り物だったのではないかという解釈もできるだろう。

それにしても映画内小説という二重の虚構であっても、チンピラたちがいやがらせのあげく妻子を拉致する場面は不愉快でちょっと正視に堪えない感じだった。
(☆☆☆★★)

ノクターナル・アニマルズ 公式ホームページ

映画『ノクターナル・アニマルズ』 - シネマトゥデイ

ノクターナル・アニマルズ|映画情報のぴあ映画生活



本ホームページ

11月13日(月)のつぶやき

2017年11月14日 | Weblog

「バリー・シール/アメリカをはめた男」

2017年11月13日 | 映画
武器と麻薬をアメリカと南米を行き来しながら運ぶのだからアモラルもいいところなのだが、トム・クルーズのやたら調子のいいパーソナリティでブラックになりそうな笑いが明るく威勢よく弾ける。

実際周囲の人間のヒドさはもっと上で、最終的に一番ヒドいのがホワイトハウスということになるまでの展開と論理の積み重ねが見事。

何にもない田舎町に主人公バリーの「会社」が稼ぐ金が山ほど落ちて町全体が成金化して変な具合に発展し、札束がざくざくしすぎて納屋にまであふれて戸を開けるとどっと雪崩堕ちてくるなんてマンガみたいな場面が現実になるおかしさ。

州警察とFBIとDEA(麻薬取締局)とがそれぞれ彼を追って同時に逮捕にくるあたりのドタバタ感もいい。アメリカが持っている腐敗に対する歯止めの機能というのが、必ずしも正義感ではなく取り締まる側の縄張り争いから来ていることを端的に見せる。

70年代末から80年代初めにかけての小物の再現が丁寧で、まだ携帯がなくてずらっと並んだ公衆電話を渡り歩きながらあちこちに電話してまわったり、記録するビデオをVHSだったりするちょっと昔の物がものすごく古めかしく感じるのがまたなんだか可笑しい。

ぐらぐらするカメラや色味が古めかしく統一したあたりもさりげなく凝っている。小型飛行機の飛行シーンの、小さくて遅いゆえの危なっかしいスリルも新鮮。
(☆☆☆★★)

バリー・シール/アメリカをはめた男 公式ホームページ

映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』 - シネマトゥデイ

バリー・シール/アメリカをはめた男|映画情報のぴあ映画生活



本ホームページ

11月12日(日)のつぶやき

2017年11月13日 | Weblog

運慶展

2017年11月12日 | アート
ミケランジェロと並べたくなる筋骨隆々の造形美、ダイナミックな力感に満ちた表現にびっくり。これはもう、実物見てみないとわからない。

展覧会のいいところで像の後ろにまわって見ることができて、そうすると背中の僧帽筋、お尻の大臀筋という筋肉の名前が自然に浮かんでくるくらいみっしりと筋肉が盛り上がっているのがわかる。
衣が柔らかく流れているように見える表現も後ろにまわった方がよく見える。

お釈迦さまみたいに普通だったら温和な表情を浮かべている像でも、水晶を入れた玉目の表現ばかりでなく目つきの作りからもう眼光炯炯としていて悪を睨んで追い払いそうな勢い。

一方で人間である僧たちの顔つきがまたリアルで、このあたりも自然とルネッサンスを思い起こさせる。人間主義といいますか。

鹿や仔犬のリアルでいて可愛らしい像も珍しい。このあたりは息子の湛慶あたりの作らしい。

二時半頃についたら40分待ちだというので、げーっとなったが列が整然と進んでいくので、苛立つほどのことはなかった。

運慶展 公式ホームページ



本ホームページ

11月11日(土)のつぶやき

2017年11月12日 | Weblog

「ブレードランナー 2049」

2017年11月11日 | 映画
前作では人間と人間ならざるものを(一応)区別するもの、裏返すと人間性というものを生死の感覚に置いてレプリカントの方がむしろ生命を大事にするのではないかというアイロニーを出していた。
今回はそれから月日が経ったのをストーリーに取り込んで生命が次の世代に伝えられていく感覚を扱っていると考えていいだろう。

経過した月日が突然消えてなくなり前作の時と直結した瞬間が何か感動的を通り越してショッキング。続編ができるまでの歳月をうまく取り込んだ。

ヴィジュアルは前作ほどカオスではなくてずいぶん整理された印象。あるいはごった煮的なバイタリティが薄れた、荒涼感が全面に出た世界ということなのかもしれない。

ルトガー・ハウアーほど強力な敵役がいないのは弱い。あといくらなんでも3時間近くは長いよ。
(☆☆☆★)

ブレードランナー 2049 公式ホームページ

ブレードランナー 2049|映画情報のぴあ映画生活

映画『ブレードランナー 2049』 - シネマトゥデイ



本ホームページ

11月10日(金)のつぶやき

2017年11月11日 | Weblog

「ゲット・アウト」

2017年11月10日 | 映画
冒頭の普通だったら治安がいさそうな郊外の中産階級の住宅街で黒人が襲われる、という通常とは逆のシチュイエーションから、白人の「使用人」をやっている黒人たちのヘンテコさとか、昔の南部の白人と黒人の関係の唐突に再現たり、状況と人物の属性の組み合わせが逆になっていたり時代と外れていたりするアレンジの仕方が妙に不安を煽るというあまり類例のないホラー(コメディ)。

社会派的な感じもあることはあるが、ちらちらとフランケンシュタインとかドラキュラといった古式豊かな恐怖映画のテイストが細かいところに覗いている気がする。

ビデオが写るテレビ画面がおそろしく古くて写りが悪いのがなんともいえず気味悪い。

友人が警察に行って必死になって推理を聞かせると、全員黒人の刑事たちに思いっきり笑われるのがすごい失礼で、白人ではないのがまたなんとも変な感じ。

ゲット・アウト 公式ホームページ

映画『ゲット・アウト』 - シネマトゥデイ

ゲット・アウト|映画情報のぴあ映画生活



本ホームページ

11月9日(木)のつぶやき

2017年11月10日 | Weblog

「顔のないヒトラーたち」

2017年11月09日 | 映画
第二次大戦における非人道的行為に対する責任の取り方について、ドイツは責任をとってあらゆるナチス的な要素を公的活動から排除している、それにひきかえ日本は無責任でといった単純化された論調になることが多い。あるいはこれまた単純にドイツはナチスに全部責任を押し付けて一般国民は責任逃れした、と裏返して「反論」して終わりになる。

しかし、ドイツにしてもアウシュビッツで行われたことが公開され裁かれたのは自動的にあたりまえのようにそうなったのではなく、検事たちがそれを知り、法曹人として放っておけず困難を乗り越え営々として証拠を集め証人を探して1963年になってやっと裁判にこぎつけた結果なのだという事実を教える。

一方でアウシュビッツで「働いて」いた人間たちの保身と、直接ホロコーストに関わらなくてもナチスを支持したことで間接的に協力してきた人たちをいちいちすべて裁くのはムリということでうやむやにされてきたことをあえて明るみに出したわけで、それに伴う軋轢も描いている。検事自身の家庭にもブーメランが返ってきたりするのが典型。

とはいえ、ナチス裁判そのものを扱うと重くなり過ぎることが多いが、そこにこぎつけるまでを描くドラマとして爽快感があるのはありがたい。

主役のアレクサンダー・フェーリングがナチスが言うところのアーリア人(そんな人種は存在しないが)のイメージそのままというのが、何か皮肉。

調べなくてはいけない書類の量の膨大さや、ほとんど意地悪しているのではないかと思うくらいしつっこくチェックを求める上司など、検事の仕事というのも大変だなと思わせる。
一方で日本での検察と一般国民とがまるで乖離して意思の疎通がおよそ欠けていて、ちゃんと国民の方を向いているのか疑わざるを得ない現状も考えないではいられなかった。






11月8日(水)のつぶやき

2017年11月09日 | Weblog

「裸のジャングル」

2017年11月08日 | アート
1800年頃、アフリカに象牙狩りに出かけた白人たちが現地の部族に本来渡すべき貢物を渡さず、傲慢そのものの態度で象を狩りまくった報いで惨殺され、唯一まともに彼らのルールを守るよう主張した主人公コーネル・ワイルド(製作・監督・ノンクレジットながら一部音楽も兼ねる)だけ逃げきれば助かる人間狩りの対象となる。

人間狩りというといかにも野蛮なようだが、おもしろいのは追っていく複数の原住民の戦士たちがどちらに逃げたのか意見が分かれて理屈っぽく対立したりする一方で、追われる白人の方がひたすら逃げ延び生き延びるという目的ひとつに行動原理を絞り込んだ結果、白人の方が野性的で、原住民たちの方が組織と社会と理屈に縛られているように見えてくること。

とにかく追っかけが始まったらセリフはほとんどなくなり、単純明快きわまるプロットにどうやって逃げるか生き延びるかといった細かい知恵を散りばめていくという映画の作り方のひとつの王道を貫いているのが立派。
あと人の走りというのは、実に映画的だなと改めて思った。
「アポカリプト」の原点という説が有力だが、遜色ない迫力。

登場人物にはまったく名前がなく、コーネル・ワイルド扮する主人公もA Manとしかクレジットされない。また、追ってくる戦士たちがエンドタイトルでThe Purchaseとひとくりながらひとりひとりキャストの名前と共にクレジットされる。
全体とすると昔の「秘境」の「土人」のイメージなのだか、昔の映画(1965製作)ということもあって意外と今でいうポリティカル・コレクトネスに通じるセンスを感じる。

文明と未開の対立というより原住民と白人という「部族」の違いはあっても「戦士」としてのルールとプライドを尊重した戦いといったニュアンスが特にラストでくっきり出ているのが爽快。

ワイルドはハンガリー生まれのユダヤ人(出生名コルネール・ラヨシュ・ヴァイス)ということもあるかもしれない。
髭面にしているとすごいマッチョということもあってヒュー・ジャックマンみたいでもあるが、もともと1936年のベルリンオリンピックにフェンシングアメリカ代表として出場しているのだから本格的なスポーツマンなのだな。

元ネタとするとやはり1800年頃にアメリカ先住民のブラックフット族がやったことで、それを資金や機材の問題で南アフリカで撮ることになった(それに加えてジンバブエとボツワナでもロケした)とのこと。

象狩りの場面はストックフィルムを使用しているのだが、本当に象を撃ち殺しているのを見せられるとぎょっとする。
初めてA Manが手に入れる食料というのがヘビで(それまで飲まず食わずでよくあれだけ走れたと思うが)、ヘビを裂いてかぶりつくのは「カプリコン1」にあったなと思った。
(☆☆☆★★★)