文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

銭形平次捕物控 128 月の隈

2023-10-05 10:24:35 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 お馴染み銭形平次シリーズである。事件は、神田鍋町の呉服屋翁屋の支配人孫六が殺されたというもの。そして死に際に「よその人だ、あの男だ」という言葉を残す。孫六は暮れの支払いのためにかき集めた1000両を蔵に仕舞っていた。この金が狙われたという訳である。でもこの金がないと支払いができないので、店がつぶれるかもしれない。

 この作品にも、へっぽこ探偵役の岡っ引きが出てくる。八五郎に言わせれば三河島のおびんずる野郎という金太という岡っ引きだ。ちなみに、びんずるというのは、お釈迦様の弟子で十六羅漢の第一である賓頭盧尊者のことである。日本ではなで仏として有名である。

 ちょっと脱線したが、この金太、へっぽこ中のへっぽこだろう。何しろ犯人が外に逃げた形跡がないのに、普段孫六と仲が悪いというだけで、大した証拠もなく町内の万屋茂兵衛を縛るくらいだ。今だったら裁判所が絶対に逮捕状を出さないレベルである。しかしこの金太、よくクビにならないな。いくら江戸時代でも、こんなむちゃくちゃをやっていれば、十手目召し上げのうえ何か罰がありそうなものだと思うのだが。

 平次は最初はこの店の若主人・半次郎を犯人と見ていた。この半次郎道楽者で先代の主人(親)から潮来に追いやられていたのだ。それを先代が死んだときに孫六が呼び戻して家督を継がさせたという。平次は自分の考えに固執することなく、証拠と推理により事件を解き明かすのだ。しかし最後はの真犯人をつきとめる。もっともこの半次郎にも大きな道義的責任があるのだが。

 最後に平次の名言?が来る。

「思いつめる女より、思いつめさせる男の方が罪が深い。八、お前なんかもつまらない罪をつくるんじゃないぜ」


 いや八五郎君、そんな心配はまずないと思う。まあ平次も揶揄っているんだろうが。

 この話でもやはり銭を投げるシーンはないが、犯人はちゃんとつかまえている。さすがにこれでは平次も同情の余地はなかったのだろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 213 一と目千両

2023-09-26 10:09:39 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも銭形平次シリーズのうちの一つだ。タイトルの一と目千両というのは、一と目見ることに千両の値打ちがあるという美女を例えたものだ。もちろんこの話を持ってきたのはおなじみ八五郎。東両国で人気の見せ物軽業の小屋に出ているお夢というのが、ものすごく美人で一と目見れば千両の価値があるのに、それがたったの木戸銭の十六文で見ることができるというのだ。

 ところが、このお夢が殺されそうになる。お夢が寝ていると、顔の上に二階から大火鉢が投げられたというのだ。おまけにその火鉢には煮えたぎる鉄瓶が掛けられていた。

 幸いお夢は風邪気味で布団を深くかぶって寝ていたので、軽いやけどだけで済んだとのことだが。

 この事件に興味を引かれた平次は、行ってみようという。これは平次には珍しいことだ。何しろものすごい無精者。その平次が自分から動こうというのである。これには八五郎、思わず「しめたツ」

 今度は、お夢と二枚看板であるお鈴という娘が狙われる。お鈴は美人ではないが17歳の可愛らしい娘である。お鈴は軽業専門で、張り渡された綱の上で飛んだり跳ねたりするのだが、綱の結び目のところに抜身の匕首が挟んであり、お鈴が軽業をすると切れるようになっていた。おかげでお鈴は右足を折ってしまい、直っても生涯曲芸は出来ないかもしれないという。

 この事件を平次は解き明かすのだが、実はお夢の事件とお鈴の事件は別の犯人によるものであった。この話を読むと「外面如菩薩内心如夜叉」という言葉が頭に浮かんだ。

 さてこの話の顛末だが、平次は誰も縛らなかった。犯人に同情したわけではない。今の刑事ドラマなら、絶対に逮捕しているのだろうが、平次は罰を天に任せたのだ。そして犯人の一人は行方知れず、一人は物乞いに落ちぶれ、しっかり罰を受けている。銭形平次にはこういった話が多い。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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化け者手本

2023-09-17 15:46:52 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 舞台は文政年間の江戸。主人公は田村魚之助(ととのすけ)という元女形。元というのは、数年前に贔屓の客に足を切られて、第一線から退いているためである。そしてその相棒が藤九郎(信天翁)という鳥屋。基本は、主としてこの二人が、怪奇な事件に挑むというストーリーである。つまり魚之助をホームズに例えるなら、藤九郎はワトソンといったところか。なお、鳥屋とは、鳥専門の江戸時代におけるペットショップのようなものである。

 こう書けば、普通のミステリーのようだが、二人が解き明かすのは、怪異の絡んだ事件。ミステリーよりは、ホラー要素の方が強いだろう。

 事件の方は、江戸一番の芝居小屋中村座の座元から小屋で起こった事件の調査を頼まれる。芝居が跳ねたあと、客席に死体が転がっていたというのだ。その死体は首がおられたあげく、死後に両耳に棒が差し込まれていたという。そして、こんどは口の中に鈴が入れられた死体が見つかる。果たして犯人は。

 今でこそ、歌舞伎はなんだか高尚なもののように思われているが、この時代の芝居は庶民の楽しみであった。でも風紀を乱すということで、為政者による規制のために、男しか舞台には上がれなかった。しかし、芝居には女役がつきもの。そこで男が女役をやるようになった。これを女形という。ただ当時は、ホルモン療法も性的合手術もなかったので、女形の人たちには女性より女性らしくなるために、色々な苦労があったようだ。

 当時のお化粧は、よく時代劇でみるように白塗りが基本だったので、元の顔がどうであれ結構ごまかせたんだろう。しかし、あの白塗りで美女とか言われても現代人の目から見ると違和感ありありなのだが。江戸時代の人はあれが美女に見えていたのだろうか。

 ためになったのは、名前だけは知っているお軽、勘平が忠臣蔵と関係があったこと。そして、助六が曾我兄弟の仇討物語と関係があること。これは知らなかった。

 またこれにも違和感がある。メルヒオール馬吉だ。長崎遊女とオランダ人との間に生まれたという設定だが、自分のことを「める」と呼んでいるのである。人から呼ばれるのなら分かるが、いい大人が自分のことを「める」なんて呼ばないだろう。「あっし」とか「馬吉」と言うと思うのだが。それに吉原の人気花魁の名前が蜥蜴なのだ。さすがにこんな名前は付けないと言う気がするが、もしかすると本当にいたのだろうか。

 タイトルに「化け物」とあるように、この作品では「化け物」が大きな役割を果たす。そして「化け物」とは人がなるもの。そういったメッセージが込められているように思える。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 194 小便組貞女

2023-09-07 10:49:57 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 江戸時代は、妾は社会的に認知された職業だった。それも、給金も待遇もよかったので人気の職業であった。しかし中には不心得者もいたようで、わざと寝小便をして、お払い箱になり、支度金をせしめる連中がいたようだ。どんな美女でも寝小便をされると、特殊な性癖がある人でない限りは、百年の恋も冷めるというもの。こういった女たちを小便組といっていたらしい。

 さて事件の方であるが、若松屋という浅草三間町の材木屋の裏の路地で御朱印の傅次郎という悪が殺された。なぜ、「御朱印の」と名乗っているかというと、傅次郎の唯一の自慢が、御朱印船に乗ったことがあるということだからだ。

 この若松屋には小便組の一人「お扇」という妾がいた。若松屋の主人敬三郎は、2年前に本妻を亡くし、何かと不自由だというので、「お扇」を妾として雇い入れたのだ。若松屋には、傅次郎が殺される前から、嫌がらせのような出来事が続いていた。そして事件が起きてからは「お扇」も行方知れずになっていた。

 これに乗り出したのがお馴染み三輪の万七。もちろん迷探偵役としてだ(笑)。万七は最初お扇を犯人と決めつけていたが、実際にお縄にしたのはお扇の妹のお篠。もちろん誤認逮捕である。これに乗り出して、見事に事件の真相を暴いたのが平次という訳だ。しかし本当に悪いのは傅次郎とばかり、あえて真犯人をつかまえようとせず、評判のいいお扇を妾から本妻にするように勧める始末。平次は事件の真相次第では、見て見ぬふりをするというところがある。何がなんでも犯人をお縄にして手柄を挙げようというタイプではない。この辺りが平次の一番の魅力だろう。なお、この話でも投げ銭は行わない。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 022 名馬罪あり

2023-09-01 11:13:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 銭形平次と言えば、その卓越した推理力で難事件をバッサバッサと解決していく名探偵というイメージがあるのだが、どうも碁だけは、下手の横好きのようで、子分の八五郎にも負けるくらいなのである。八五郎に碁の才能があるかどうかはよく分からないが、

「・・・手前などは、だらしのあるのは碁だけだらう」

と、一応平次に言わせている。

 ある日この二人は碁で、もし平次が負けたら1日親分子分を交代するという賭けをした。そんな平次のところに客が来た。十八九の武家風の娘で8000石の大身の旗本、大場石見の用人相澤半之丞の娘だという。

 大場家には、家宝ともいえる東照宮からの御墨附があった。しかし房州にある領地で苛斂誅求の訴えがあったため、一旦若年寄預かりとなり長期間留め置かれたが、この度返却されることになった。それを受取りに行ったのが、相澤半之丞という訳である。タイトルに「名馬」とあるが、この時に乗ったのが、大の馬好きである主人・大場石見が貸してくれた東雲という名馬である。ところが、相澤半之丞は生まれつきの馬嫌い。見事に落馬したうえ、大事な御墨附の入った文箱もいつの間にかすり替わっていた。このままでは大場家は改易になる。実は大場石見は、本来の大場家当主ではなく、本来の当主の後見人だったはずが、家督を譲らなかった。そして悪政で領民から恨みを買っていた。

 平次はこの事件を見事に解決して、大場家の家督を本来の当主に戻し、石見を失脚させる。平次の魅力は、今の刑事ドラマのように何が何でも犯人をつかまえるようなものではなく、その背景まで考慮して、落ち着くところに落ち着かせるというところだろう。もちろんこの話でも平次は銭を投げない。それにしても八五郎と1日親分・子分を交代したはずが、とてもそうとは思えないところがなんとも面白い。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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天久鷹央の推理カルテⅢ: 密室のパラノイア

2023-08-26 16:22:46 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 現役の医師による医療ミステリーの第3弾。収録されているのは中短編の3つの話。ヒロインは天久鷹央という天才的な診断技術を持つ女医。天医会総合病院副院長兼統括診断部長である。本人曰く27歳のレディらしい。ただものすごく不器用かつ人付き合いが大の苦手なので、彼女をサポートしてくれる人材が不可欠。その役割をするのが、純正医大から派遣されている小鳥遊優(ちなみに慎重180㎝のごっつい男)。鷹央は傍若無人だが、姉の真鶴には頭が上がらない。

 この巻に収録されているのは3つの中短編。もっともどこまでが短編でどこからが中編になるのかはよく分からない。調べてみるとおおよその目安はあるが、色々と変動があり、明確なものはないらしい。そこで私の感覚で分けると2つの短編と1つの中編ということだろうか。収められているのは次の3つ。「閃光の中へ」、「拒絶する肌」、「密室で溺れる男」である。このうち3つ目の作品が334頁で構成された本書の半分以上を占めており、最初の2つが70頁程度である。

〇閃光の中へ
 線路に飛び込んで自殺を図ったとされる木村真冬は「呪いの動画」を双子の姉の真夏と視ていた。

〇拒絶する肌
 銀行に勤める岡崎雅恵は、女子校育ち。男性に触れられると体に異常が出るという。

〇密室で溺れる男
 鷹央と小鳥遊のコンビが解消の危機に。その原因が小鳥遊の先輩になる桑田清司が殺人の最有力容疑者となったので診療ができなくなり、その代わりに小鳥遊が純正医大に呼び戻されることになったからだ。事件は、清司の鼻つまみ者の兄・大樹が密室で溺死したというもの。その部屋には水気は一切なかった。

 いずれも、著者の医学知識を活用して、うまく医学ミステリーに落とし込んでいる。あまり、その方面に詳しくない人でも、こういった可能性もあることを知っておけば、レアケースと言えども、万が一の場合には役立つのではないだろうか。最初の二つは、鷹央の研修医時代の指導医だった精神科部長の黒田女史が関わっている。鷹央は研修医時代に、歯に衣着せぬ勢いで、黒田の間違いを正したことから、二人の関係は最悪のようだ。しかし、患者の目線で視れば、誰かのメンツより、正しい診断をしてくれる方が大切だろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 179 お登世の恋人

2023-08-16 09:38:47 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この作品も、銭形平次シリーズのひとつだ。ただし、テレビドラマのように銭は投げない。いや銭を投げるときもあるのだが、圧倒的に投げない作品の方が多いのである。この作品でも銭は投げていない。ドラマでは銭を投げる方に注意が行っているが。むしろ前面に出ているのは平次の推理力。そうこの作品は江戸時代を舞台とした、名探偵の物語なのだ。それに、平次は貧乏なので、銭を投げることに抵抗があるんだろう(笑)

 さて、事件の方だが、本所御船蔵前で老舗の煙草問屋を営んでいる常陸屋久左衛門が、自分の部屋で不思議な殺され方をする。この辺りは平次の縄張りではないが、石原の利助親分の娘であるお品に要請されて乗り出したという訳だ。平次と利助の間にはいろいろあったようだが、結構お品に頼まれて乗り出すことも多い。平次は女性に甘いのか? ちなみに、常陸屋はその名の通り、水戸藩御用達の煙草問屋である。

 夜は、常陸屋では厳重な戸締りをしているので、怪しいのは内部の人間である。お登世というのは、二十歳前後の常陸屋の可愛らしい一人娘だ。果たしてそのお登世の恋人が、同事件に絡んでくるのか。その人物とはいったい誰か。そして、事件の真相はいかに。

 平次は、これらの謎を見事に解き明かすのだが、驚くのは八五郎の強さ。テレビドラマの林家珍平さん(初めの頃は佐々十郎さんがやっていたようだが)のイメージからは、とても強そうには見えないのだが、この作品にこういう記述がある。犯人に攫われたお登世と、それを助けようとしたお登世の恋人が犯人と戦っている場面だ。

幸ひ驅け付けた八五郎が間に合つて、その猛烈な戰鬪力を役立たせ



 要するにテレビドラマのイメージから、原作を判断してはいけないということだろう。銭をあまり投げないこととか、八五郎は実は強かったといったような、ドラマと原作の違いを楽しむのも面白いと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホーンテッド・キャンパス

2023-08-08 10:10:31 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 このシリーズは、これまで21巻ほど発行され、映画化やコミカライズも行われているという人気作品だ。これはその1巻目にあたる作品。ヒロインは灘こよみという、整いすぎるほどの容姿の美少女。あえて難点を挙げれば、目が悪いためいつも眉間にしわが寄っているというところだろうか。このシリーズの売り上げには、表紙イラストのこよみの可愛らしさもかなり寄与しているように思える。ただし、さすがにイラストのこよみには眉間のしわは描かれてはいないのだが。

 この物語は、彼女の高校時代の先輩に当たる八神森司とこよみとのラブコメを縦糸に、心霊オカルト事件を横糸にして織りなされる心霊オカルトラブコメとでも呼べば良いのだろうか。舞台は、名前からしていかにも北国らしい雪越大学。この大学、モデルは作者の出身地にある新潟大学だろうか。シリーズの中で、医歯学系のキャンパスが分かれているような設定だったことからもそれが伺える。

 1浪したために、大学ではこよみと同級生になった森司(ただしこよみは高校時代からの習慣で、相変わらず八神先輩と呼んでいる)は、こよみが所属しているオカルト研究会(通称オカ研)に入ることになる。このオカ研に、学生たちがオカルティックな話を持ち込んできて、これをオカ研のみんなが解決していくというエピソードを積み重ねながら、森司とこよみが次第にいい関係になっていくというのが基本的な内容だ。

 傍から見ていると、こよみは明らかに森司に好意を持っているのだが、草食系で自分に自信のない森司は、頑なまでに自分の片思いだと思い込んでいる。このちぐはぐさが作品の面白さのひとつでもある。

 オカ研部員には霊を祓う力はない。ただ「視える」だけなのだ。おまけに、オカ研のメンバー5名中、「視える人」は、森司ともうひとり黒沼泉水の二人だけ。それではどうやって霊の起こした事件を解決できるのか。彼らは霊の話を聞いて、霊がこの世にひっかかっている原因を解決していくのである。

 この第1巻に収録されている5つのエピソードをざっと紹介しよう。①引っ越しても、引っ越しても壁に若い女の顔が浮かんでくるという男子学生の話、②繰り返し同じ夢を見るという男子学生の話、③女子学生二人が住み始めた格安のヤバい物件で起きる怪奇現象の話、④自分と同じ容姿の人間を見るという男子学生の話、⑤中学生の妹が、友人自殺以来引きこもりになっているという話といったようなものだ。いずれも、人間の「思い」や「妄念」の哀しさ、怖さを描き出しているような話だ。なかには、怖いのは霊ではなく人間だというようなものも見受けられる。

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 014 たぬき囃子

2023-07-16 11:58:31 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 江戸では不思議な泥棒が出没していた。大家の雨戸を、切破って盗みを働くのだ。この盗人、とうとう6件目で殺人を犯した。被害者は、本所番場町の両替、井筒屋清兵衛。しかし本所は石原の利助という岡っ引きの縄張り。最初平次は遠慮していたのだが、利助の一人娘のお品の頼みで、事件に乗り出すことになる。現場を見て平次は、番頭に、雨戸に大穴が鋸であけられているのに、誰も気が付かなかったのかと問うと、昨夜は狸囃子がひどくてなかなか寝付けなかったからとの答え。
 
 本所七不思議といわれるものがあり、狸囃子もその一つだ。狸囃子というのは、太鼓と笛で馬鹿囃子そっくりだが、あちらと思えばこちらから聞こえ、遠いような、近いような、どこから聞こえるのかはっきりしない現象らしい。

 しかし平次、石原の利助の子分10人ばかり狩り集めて、狸狩りをやっているが、引き揚げるときに、一人1分渡している。1分といえば1/4両である。10人いれば2.5両になる。庶民は一生小判をみることがなかったことも多いらしいから、結構な金額だ。そもそも平次は貧乏暮らしのはず。よくそんな金があったものだ。きっとお静さんの着物が何枚も質屋に・・(以下略)・・・。

 狸囃子の謎を平次は解いて事件を解決するのだが、もちろん本物の狸がやっているわけではない。平次は狸囃子の謎を解き明かして、犯人を特定する。さすがは平次である。

 この話でも平次のトレードマークによる投げ銭の場面は出てこない。利助の子分に渡した金が結構でかかったので、ビタ銭といえど節約したのかな?

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 180 罠

2023-06-26 14:05:22 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 銭形平次というと、テレビドラマでは毎回投げ銭をしているので、いつも銭を投げているイメージがあるが、原作を読んでみると、たまに投げ銭をすることもあるが、多くの話では、銭は投げていない。この話でも、投げ銭の場面はない。

 さて事件の方だが、六本木の大黒屋清兵衛のせがれ清五郎が殺された。大黒屋清兵衛というのは、香具師(やし)から身を起こし、今では地主や高利貸を営んでおり、土地の顔役になっている男だ。

 この大黒屋清兵衛のところに、恩や義理のある香具師仲間の大親分星野屋駒次郎の忘れ形見のお北、お吉という二人の娘が掛り人として暮らしていた。本来なら、この二人の娘はお客様扱いで大切にされるはずだが、姉のお北が美人だったため、清兵衛の女房のお杉が嫉妬し、今では女中以下の待遇をされているという。

 とことで清五郎の殺され方だが、二人の寝ている二階の窓の下で、修復用の足場の真下で、胴から首へ長脇差で貫かれていたという。

 平次は、このままでは、姉のお北が大黒屋の家のあたりを縄張りにしている中ノ橋の金太という岡っ引きに縛られてしまうという妹のお吉の訴えで事件を調べ始めるのだが、いつも通り腰が重い。平次は岡っ引きのくせにかなりの出不精で、なかなか腰を上げないのだ。しかし、可愛らしい娘の訴えに思い腰を上げたという訳である。

 ところで銭形平次で迷探偵役というのは、テレビドラマではもっぱら、三ノ輪の万七の役割だが、この話では、中ノ橋の金太というわけである。

 そうこうしているうちに、大黒屋清兵衛も殺されるのだが、平次は、見事に事件の謎を解き明かす。平次の特徴は、「真犯人はおまえだ」とか「真犯人を捕まえるのが俺の仕事だ」とかいうような、いかにも今の刑事ものの登場人物が言いそうなセリフを言わないことだろう。どこまでやるかは彼なりの美意識があるようで、この作品でも、ほどほどのところで事件から手を引いている。刑事ものやミステリーの多くでは、たとえどんな訳があろうと真犯人を捕まえるのだが、平次は事件の真相は解き明かすものの、事情次第では見逃したりする。これも平次の魅力だろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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