文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

経済学は学問のガラパゴスか

2010-01-24 13:18:35 | 経済学
 最近、ツイッター上で、経済学で使う専門用語について議論されており、私もかなり自分の見解を述べさせてもらった。しかし、ツイッターでのつぶやきは断片的かつ瞬間的なものであり、必ずしも自分の言いたいことが言い尽くされているとは言えないので、まとめとして、私の言いたいことをブログ記事に書いてみよう。

 経済は、社会を動かす重要なファクターであり、関心を持っている者は多い。しかし、経済の動きを理解するためには、ある程度の経済学についての知識が必要であろう。

 だが、経済学は、これだけ多くの人間が興味を持っているにも関わらず、ガラパゴス化して、自分たちの世界に閉じこもっているのではないか。

 それを端的に表すのが、あの経済学専門の用語である。例えば、「限界○○」と言う言葉を経済学では良く使う。知らない人は何だろうと思うだろうが、実はこれは、数学で言う微分とほぼ同等の概念なのである。また経済学では、「内生変数」と「外政変数」という言葉を使う。これは、経済モデルの中で変数として考えるものと、モデルでは所与のものとして考えるものを表しているが、理工学で普通に使う変数とパラメータのことなのだ。更には、グラフのx軸とy軸の使い方が通常と逆ということもある。

 これらの、経済学独特の用語の使い方は、慣れてしまえばそれまでとは言っても、経済学に興味を持ってこれから学ぼうとする人には一種の参入障壁となってしまう。学問はどんどん学際的になり、経済学にも心理学や物理学などのアプローチ法がどんどん入っている。ここらで、ガラパゴス化を見直すべきときではないだろうか。

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インフレターゲットは有効か

2010-01-03 13:01:56 | 経済学
 産経新聞の田村秀男氏が、「インフレターゲット」を提案している。

【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 脱デフレ待ったなし(産経新聞) - goo ニュース

 彼に限らず、最近は「インフレターゲット」を叫ぶ声を良く聞くが、実効性には疑問を持っている。

 田村氏は、「インフレ目標達成の具体策として、日銀が政府短期証券や国債を市場から買い上げ、巨額の資金を金融機関に注入するのに合わせて政府が国債を新規発行する。」ことを提案している。確かに、景気刺激策としての財政支出に見合った国債の発行は必要であろう。(これも無条件に賛成という訳ではないが)しかし、インフレターゲットのために、大量のマネーを供給すると言うのはどうだろう。

 経済成長には実質と名目がある。仮に通貨供給量を増やしてインフレに誘導したとしても、実態が伴わなければ、名目値のみを押し上げてしまい、実質の経済成長にはつながらないだろう。

 要するに因果関係の考え方が逆なのである。経済が成長するから、これに伴ってインフレが起こるのだ。しかしインフレを起こせば経済が成長すると言う保証はどこにもない。そう言うと、良く他所の国のことを引き合いに出す人がいるが、社会構造が違う(経済モデルのパラメータが異なる)のに同じ結果が得られるという保証はない。経済システムのような非線形システムは、パラメータが少し変われば、解がまったく違う挙動を示す場合がある。

 ケインズによれば、利子率が下がり過ぎると人は消費も投資もしなくなり、どのようなケインズ政策も有効性を失うということである。すべての元凶は、現在のあまりにも低すぎる金利だ。まず、これを改善することを第一に考えるべきだろう。

(補足)
 何も今すぐ金利を上げろという非現実なことを言っているわけではないので念のため。しかし、上記のケインズの言葉を念頭に置いておくのそうでないのとでは、とるべき道が違ってくるだろう。要は失策は繰り返すなということだ。


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池田信夫氏の「生産性格差デフレ」記事に対するコメント

2010-01-02 18:02:06 | 経済学
 池田信夫氏は自分のブログ「池田信夫 blog part2」の「生産性格差デフレ」と言う記事で次のように述べている。

「このように大きな生産性の格差がある一方で賃金が均一だと、衰退産業はコストが圧迫されて退出し、労働人口が成長産業に移動して、全部門で限界生産性は均等化するはずだからである。しかし日本では労働市場を通じた生産性の均等化メカニズムが機能しないため、20年にわたって過剰雇用と賃金の抑制が続いている。」

 「限界生産性が均等化するはず」というのは、文章では分かりにくいので、数式に起こして見れば次のようなことだろう。

 簡単のために2つの産業だけが存在するモデルを仮定し、それぞれの生産性をFA(x)、FA(y)とする。ここで、x,yはそれぞれの産業への労働投入量である。ここでも説明を簡単にするため、変数は労働投入量だけであると仮定している。

 全生産性をF(x,y)とすれば、

 F(x,y)=FA(x)+FA(y)

 これが、

 x+y=c(cは定数:労働力のトータルが一定)

の条件のもとで、最大となるには、

 F(x,y)-λ(x+y-c)

 をx,yで偏微分したものを0と置くと

 ∂F/∂x=∂FA/∂x-λ=0

 ∂F/∂y=∂FB/∂y-λ=0

 であるから結局

 ∂FA/∂x=∂FB/∂y=λ

 となり、二つの産業の限界生産性が均等化するときに、もっとも全体の生産性が高いことになる。

 しかし、池田氏の主張には次のような仮定が含まれていることに注意しなけらばならない。

 まず、両産業の労働の質が均一であることである。x+y=cといった計算ができるのは、労働力自体が均一でなければありえない。しかし、メーカーの労働者と散髪職人が簡単に、互いの労働を交換できるだろうか。

 もうひとつ大きな仮定は、成長産業が存在するということである。しかし、自分の産業が沈みかけた船の場合、成長産業があれば、そこに労働需要があるだろうから、当然労働者は新しい船に乗りたいと思うだろう。労働市場の硬直性といっても、自発的な転職の自由がないわけではないのだ。現時点で、いったいどの船に乗れと言うのか。

 それに、労働市場の硬直性を妨げているのは、解雇規制や賃金の硬直性などではなく、むしろ企業の採用における新卒偏重の慣習の方が大きいのだと思う。雇用の流動化を高めるには、ここを改善すべきだと思うのだが。

(補足)
 上に示したような計算手法は、他の分野でも良くつかわれる。例えば電気工学で言えば、火力発電所の燃料費を最小にするためには、どのような運転をすればよいかなどが計算できる。ちなみに、難易度で言えば、第二種電気主任技術者試験(電験2種)程度である。

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増税による政府支出増は経済対策となりえるか

2009-12-28 22:22:03 | 経済学
 竹中正治氏が日経ビジネスONLINEに、もう鳩山首相をあきらめる?と言う記事を投稿していた。

 要約すれば、Yを国民所得、Cを消費、Iを投資、Gを政府支出、Tを税収とすれば、

 Y=C+I+G

 C=0.8(Y-T)(0.8は限界消費性向)

だから、結局Yは
 
 Y=5I+5G-4T

と表されるため、例えば、10兆円の増税をしても、結局差引10兆円ほど国民所得は増えるので、増税して、その分政府支出を増やせば景気対策になると言う主張である。

 しかし、この議論は大切な事を無視している。それは、増税をすれば、消費者の購買意欲がシュリンクして、それは結局はIの減少分としてYに効いてくるのだ。また、政府支出自体が、民間の投資をシュリンクさせるということもある。政府支出に関係なくIが不変と言う仮定には無理があるだろう。結局増税による政府支出増は有効な経済対策とはならないのである。

(追伸)
・現在記事のこの部分は、日経ビジネスONLINEにログインしないと見られない。
・この混乱の原因は、学生に乗数効果を説明するためのIを一定としたモデルで、そのまま、現実経済を説明しようとしていることだろう。モデルには、それぞれ適用できる範囲というものがある。現実を説明できないモデルで、無理に現実を説明しようとするのは、モデルというものに対する理解が不足しているのではないかと思われる。

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成長戦略はサプライサイドだけで決まるのか

2009-12-20 19:23:46 | 経済学
 池田信夫氏が彼のブログで「成長戦略の考え方*」と言う記事を載せているが、この記事を読んで、次のような疑問が湧いた。

 記事では、コブ・ダグラス型の生産関数

 Y=K^α*L1^(-α)

を変形した単位労働あたりの生産量を表す式

 y=f(k)=k^α・・・(1)

をまず紹介している。

 そして、資本の増分Δkは

Δk=sy-(n+d)k・・・(2)

となるので、Δk=0となる点以上に需要は増やすことができないと述べられている。

 しかし、コブ・ダグラス型の生産関数は、その名の通り、資本と労働をつぎ込んだらこれだけ生産できるというものである。池田氏は、これには、需要は入っていないと言っているが、元々生産力を表す式なので需要の入っていないのは当たり前ではないだろうか。

 また、ここではYは所得とされているが、Yは生産可能な量であり、これを需要側の変数である所得とどうして言えるのだろう。


 更にsy=(n+d)kで表される点についても、生産関数に需要が入っていない以上、「生産はそれ以上増やすことができない」と言うのならまだしも、「成長率は資本・労働市場の均衡条件k0で決まり、需要はそれ以上増やすことができないのだ」とどうして言えるのだろうか。それにこの式は、単に単位労働当りの資本が増えないという条件であるというだけにも見えるのだが。また、この点がstableであるとどうして言えるのだろうか?

 一部経済学者?にだけしか通用しない論理では、いくら理系の素養があっても、理解不能であろう。普通の経済学を学んだ人の見解も聞いてみたいものである。


(補足)
y=f(k)=k^αが収穫逓減の曲線になるということは、単位労働あたりの生産量が、単位労働あたりの資本の低減関数になるということで、これは、たとえばいくら機械を入れても、扱える台数は限度があるのできわめて当然のことといえよう。コブ・ダグラス型の生産関数ともっともらしい名前がついてはいるが、定性的には当たり前のことを言っているにすぎない。ただ定量的にどうかはよく分からない。

(n+d)kは資本の減少というのは、少し説明が必要だろう。
まず、資本の減損率をdとすれば、dkは資本滅耗による寄与を表す。
また、人口成長率をnとすれば、この割合で労働が投下されると仮定(これも無理があると思うのだが)するとその時のkをk’と置くと
k’=K/{L(1+n)}となる。ここで1/(1+n)をテイラー展開(補足欄参照)して、1次までの近似をとれば、k’=K/L*(1-n)=k(1-n)であるから、結局人口成長に対応する必要資本量は-nkとなる。これは、人間をつぎ込めば、機械は少なくても済むということだろう。理屈としてはそうなのだが、人口が増えたらそれを労働を投入という仮定はどうなんだろう。
いずれにしても、「(n+d)kは資本の減少(正確にいうと人口成長に対応する必要資本量)」と池田氏が言っている( )内は明らかな誤りだろう。
また、nを無視すれば、この式が表すのは、資本が滅耗する範囲で投資をするということで、通常の企業がよくやっている、減価償却の範囲内で設備投資をやるということだ。これが続く間は、経済の成長はないだろう。

テイラー展開は、経済学専攻の者には難しいかもしれないが、⊿xが十分に小さい時
f(x+⊿x)≒f(x)+f'(x)⊿x+・・・(’は微分を表す)
と近似できるというものだ。よって、nが十分小さければ
1/(1+n)≒1-n
と近似できる。

経済学会の重鎮である宇沢弘文氏は、その著書「経済学の考え方」で、「サプライサイドの経済学」について、「市場機構の果たす役割に対する宗教的帰依感をもつものである」とばっさり切り捨てておられる。


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菅直人氏と竹中平蔵氏の論争に思う

2009-12-19 13:59:26 | 経済学
 bobbyさんから、池田信夫氏の記事「「需要か供給か」という不毛な論争」について、どう評価するかとコメントをいただいた。せっかくなので少し、評価と言うよりは、エッセイと言った感じで思ったことを述べて見たいと思う。

 確かに、菅直人氏と竹中平蔵氏の論争はかみ合っていない。それはおそらく、二人の価値観が違うので、頭の中で描く経済モデルが違うのではないだろうか。経済モデルは、そもそもがそれぞれの価値観を反映したものである。だから、何に重点を置くかによって、モデル自体が違ってくるのだろう。だから、お互いに違う価値観を持っていれば永久に話はかみ合わない。

 私が良く引き合いに出す、電気工学で使う等価回路を例にとろう。等価回路とは、解析がしやすいように、実際の回路を簡単にモデル化したものだ。しかし、現実の回路は同じでも、高周波の領域と低周波の領域では等価回路は違ってくる。経済も同様に、複雑な経済実態をそのまま扱うことは困難なので、単純にモデル化するのだ。しかし、電気工学の場合とはことなり、現在の経済状態にどのようなモデルを使えばよいのかは、色々な理屈付けはできても、結局はやってもみなければ分からないということだろう。それは、いくら理論を展開しても、数学で美しく体系づけても同じことなのである。

 この実験ができないという特性が、経済議論に多くの船頭を作り出し、お互いに考えているモデルが違うということを意識せずに、延々と不毛の議論を繰り返す原因となっているのだろう。

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なぜタバコの大幅増税を見送るのか?

2009-12-05 08:36:59 | 経済学
 政府は昨日、2010年税制改革で、消費の落ち込みによる税減収を避けるために、厚生労働省が求めた大幅引き上げを見送り1本3円前後の引き上げ方向で調整に入ったとのことだ。

 しかし、本当に値上げをすると税収が落ち込むのだろうか。少し検討してみよう。

 価格値上げと消費量の減少の関係は、価格弾力性で表せる。ここで、消費量の変化率を⊿y、価格の変化率を⊿xとすれば、価格弾力性eは、次のように表せる。

  e=-⊿y/⊿x 

 ∴⊿y=-e⊿x

  ⊿y=(y-y0)/y0 、 ⊿x=(x-x0)/x0 (y0、x0は、y、xの現在の値)なので、これを代入して整理すると次式となる。

 y=ey0(1-x/x0)+y0 ・・・ (1)


 また、売り上げの増加分をzとすれば、

 z=xy-x0y0 ・・・ (2)

 である。


 (1)式を(2)式に代入して整理すれば、次式となる。

 z=-(ey0/x0)x^2+(1+e)y0x-x0y0 ・・・(3)


 zは、xに関する二次関数なので、zが最大値をとるxの値は、中学校の数学でも解けるが、ここでは、zをxで微分してそれを0とおくと、

 dz/dx=-2(ey0/x0)x+(1+e)y0=0

であるから、結局、

 x=x0×(1+e)/(2e) ・・・(4)

となる。

 (4)式を見ると

 (1+e)/(2e)>1 ・・・ (5)

ならば、x0<xでzは最大値をとるため、値上げをすると売り上げが増え、今より税収は増えることとなる。e≧0であることに注意して、(5)式を書きかえれば、

 1>e≧0 ・・・(6)

が、値上げをして、売り上げが増える条件である。

 さて、ここで問題になるのは、価格弾力性の実際の値である。上の考察では、簡単のために、eは定数と仮定している。実際には、価格が上がるにつれ、消費量の落ち込みは、大きくなると考えるのが自然なのだが、ここでは大体の感じが分かればいいので定数としておく。

 タバコのように、習慣性のあるものは、価格弾力性は小さいと考えらるが、ネットで調べるてみると0.2~0.7位までの幅がある。

 e=0.2の場合(4)式は、

 x=3x0

となり、タバコの価格が今の3倍、すなわち900円になれば、もっとも売り上げが増えることになる。

 e=0.7の場合(4)式は、

 x=1.21x0

となり、タバコ価格が今の1.21倍になったときに、売り上げが最大となる。この値だと、大体今考えられているように1本3円程度の値上げとなるのだが、e=0.7というのは、タバコの価格弾力性が結構大きい場合である。だが、タバコのように常習性のあるものは、値上げ幅が相当大きくないと、それだけの価格弾力性があるというのは考えにくいだろう。

 注意すべきは、上記の議論は、どこで、売り上げが最大となるかについて述べているということである。単に今より売り上げを増やせばよいのなら、1>eが確保できれば良いので、少々増税しても、税収は今より増えることになる。 

 以上の考察を踏まえると、いずれにしても、3円前後という上げ幅はあまりにも小さいのではないだろうかと思う。まだまだ値上げしても売り上げの減少など起りそうにない。嫌煙家の立場からは、もっと大幅に増税することにより、世の中からタバコの煙を少しでも減らすとともに、タバコの吸い切りやシケモク拾いが一般的になることにより、街の美観が保たれるようになることを願っているのだが。


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貨幣供給よりは貨幣需要の創出策が必要

2009-12-03 19:44:44 | 経済学
 日銀は昨日5兆9000億円、今日も5兆3600億円と、短期金融市場に大量の通貨供給を行った。やや長めの期間の金利低下を促して景気を下支えする方針のようだが、どの程度の効果があるかは疑問である。

 今は金利はほぼ極限まで低下しており、「流動性の罠」とも言える状態になっているのではないか。このような中で、いくら金融市場に通貨を供給しても、実態経済は動かず、行き場を失った通貨は投機に回ってしまいかねない。

 経済学には、「セイの法則」というのがある。「供給はそれ自体の需要を創造する」というものだ。しかし、これが変だというのは素人でも分かるだろう。いくら供給しても需要が無ければ無駄である。おなかいっぱいになっているのに、どんどん料理を出されても食べられないのと同じことだ。有効需要の原理により、このセイの法則を否定したのがケインズであった。

 本日財務省が発表した7~9月法人企業統計によれば、設備投資額は前年同期より24.8%減であり、四半期ベースで10期連続であり、減少率は過去最悪だそうだ。実体経済がこれでは、いくら通貨の供給をしても行き場が無い。

 マーケティングの考え方に、プッシュ戦略とプル戦略というものがある。金融緩和は例えて言えばプッシュ戦略に当たるであろう。金融システムの重要さを否定するつもりは無いし、あえて通貨供給によりプッシュすることが必要である場合もあるだろう。しかし、金融だけで経済の回復はできない。今本当に必要なのはプル戦略の方なのだ。将来性のある分野で実体経済の方を刺激して、貨幣需要を創出する方策が何よりも必要なのである。


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解雇自由に関する私の意見(まとめ)

2009-10-31 12:05:45 | 経済学
 先般から、解雇規制撤廃に関する私の意見について、色々コメントをいただいているが、どうもエモーショナルな反応が目立ち、趣旨が理解されてないようなので、簡単にまとめてみる。

 私の主張は、レトリックとして多少ののデコレーションが付いているものの、要旨は以下の通り極めてシンプルなものだ。

【大前提】
・市場の力関係は重要と供給のバランスで決まる。需要が少なく供給の多い場合には、売り手の交渉力は相対的に弱くなる。

【小前提】
・不況期には、需要そのものが少ない。解雇を自由にしても、それは労働重要そのものを増やす訳ではなく、解雇された者と新卒者で、決まった分量のパイを奪い合う結果になり、総体として供給超過の状況に変わりはない。

【結論】
・よって、解雇自由は失業率改善のための処方箋にはならず、かえって労働者を疲弊させる。

 労働需要をどうして増やすかといったことは、また別の問題ではあるが、私の意見は、「少なくとも解雇自由は、特に不況期においては効果がなく、かえって状況が悪くなりますよ」といっているだけなのである。何も難しい理屈を言っているわけではない。論理的に考えればそうなるというだけのことであり、これだけ単純な論理構成が理解されないのは不思議でもあり、残念でもある。

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bobbyさんのコメントに対する見解

2009-10-30 22:06:31 | 経済学
 しばらく、所用により家をあけていたが、帰ってきたら、Bobbyさんからたくさんコメントをいただいていたが、あまりにも長くなりそうなので、新たな記事の形で、私なりの見解を示しておこう。

【bobbyさんからのコメント1】
コメント表題と同じタイトルのTBを入れさせて頂きました。要点は、労働者の流動性を高めるには、解雇規制緩和で労働者を「押す」よりも、企業自ら転職市場を作って「引っ張る」方が、労働者へ与える心理的な安心感が高いので、流動性を高めやすいという事です。

【私の見解】
私も、新卒偏重は改める方が、企業の中に多様性を与え、成長のための活力になるのではないかと思います。しかし、問題となるのは、労働市場での重要です。需要超過の場合はうまくいくでしょうが、需要のないところに市場だけあっても、それは、既卒者と新卒者が同じパイを奪いあうだけなので、需要と供給の関係により、より悪い条件での再就職となることでしょう。



【bobbyさんからのコメント2】
>仮に雇用規制を撤廃するとすると、経営者は一種のモラルハザードにより、経営努力をするより、安易なリストラで短期的な利益の確保に走る可能性があります。

これを経営者のモラルハザードと言うのは、資本主義の理念からいってどうかと思います。株主が企業の短期的な利益向上を求め、経営者が株主の期待に沿って、即効性の高い利益改善策として不採算部門でのレイオフを行う事は、経営者として合理的行動だと理解します。

逆に労働者が自分の生存する責任を企業に取らせよううとする現在の慣習も、香港で生活する私から見ると大変無責任に見えます。

【私の見解】
私がここで述べているのは、自分の在任中に財務諸表の数字を良くするために、将来の企業の活力を奪うような行為です。色々な思惑を持つ株主がいるのは事実ですが、株主の多くは、会社が安定的に発展して株価が上昇することを望んでいるのではないでしょうか。しかし、株主と経営者の情報の非対称性のために、経営者は必ずしも株主の意に染まないことを行う。これは、経済学で言うモラルハザードの典型的な例です。



【bobbyさんからのコメント2】
>日本の製造業では、現場レベルまで巻き込んでTQCやTPM活動の行えることが強みの一つだろうと考えます。「3年から5年」で転職しては、このような強みは構築できないのではないでしょうか。

沈没中のタイタニック号の船室で、レストランのウェイトレスのマナーを叱っても、1時間後にみんな死んでいるのなら意味がありません。

おそらく21世紀中ずっとグローバリゼーションが進行するであろう世界的環境の中で、TQCやTPM活動といっても意味があるとは思えません。企業は生き残る為に、可能で合法で合理的な事は何でもするでしょう。20年後の国内工場の作業が、ほとんどはロボットが行われていたとしても私は驚きません。

私のブログに「官僚達の夏」の教訓として書きましたが、駄目だとわかっている事は、抵抗するよりも早めに手を打つ事です。行政に何かできるとすれば、いま工場労働者を守る事よりも、工場労働者をどのように将来性のある業種へ転換させるかを、問題が深刻化する前に手を打つべきです。

【私の見解】
工場でロボットが使われているのは、今に始まったことではありません。しかし、ロボットでもほっておけばすべてやってくれる訳ではなく、それが、十分な性能を発揮し続けていくようにメンテナンスをしながら動かしていくというのが現場技術者の腕の見せ所です。
グローバル化する世界こそ、他の国と同じことをやっていては、存在価値がありません。我が国の強みはものづくりにあります。この強みを活かすことが、他の国と差別化を進めていくことに繋がります。必ずしもすべての工業がそういうわけではありませんが、ものづくりを支えているところをいかに守っていくかということも重要なことだと考えます。



○ついでにbobbyさんのブログの記事に関する見解も
【bobbyさんのブログの記事「押してもだめなら引いてみな」より】
日本では終身雇用という幻想が広く社会全体(経営者、労働者、家庭の中、裁判官、政府の官僚、政治家など)に深く浸透しています。雇用問題は、理論や制度の問題ではなく、風竜胆さんを含む多くの日本人のエモーショナルな問題になっています。こういう問題の解決は、制度を変えただけでは解決しないと思われます。この状況を改善するには、「みえざる手」に任せるのではなく、「誰か」が適当な戦略を持って雇用・労働改革を進める事が必要と思われます。

【私の見解】
まず、私が「エモーショナル」であると書かれていることは心外です。解雇規制をなくすことが、論理的におかしいと言っているつもりなのですが。自分と違う意見を「エモーショナル」と決めつけるのは単なるレッテル貼りではないでしょうか。
また、私は転職しやすい環境をつくることに対して異論を述べているわけではありません。パイの少なくなっているときに、解雇が容易にできれば、ダメな経営者は努力するより先に、安易な道を選びかねず、それが益々経済の悪化を招くだろうという極めて論理的な理屈を言っているだけなのですが、理解していただけないのは残念です。


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