探偵の鑑定II (講談社文庫) | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |
・松岡圭祐
本作を一言で表せば、前巻で暴力団・獅靱会に拉致された凜田莉子の奪回戦である。獅靱会が莉子を誘拐したのは、密輸品の鑑定をさせるため。彼女にいうことを聞かせるために、海水淡水化プラントを建設するという名目で波照間島に獅靱会の息のかかった連中を送り込み、島の人々は事実上の人質状態に。
莉子を救い出そうとするのが、須磨社長や桐嶋そして紗崎玲奈や峰森琴葉といった須磨リサーチの面々。これに加えて、直接の戦闘に加わる訳ではないが、「水鏡推理」の水鏡瑞希、「特等添乗員α」の浅倉絢奈もそれぞれの持味を活かして参戦している。
否応なしに、バイオレンスの支配する世界へ引きずりこまれた莉子だが、松岡作品には、こういった世界にぴったりのヒロインがいる。千里眼の岬美由紀だ。なにしろ、友人救出のために本物の戦場にも乗り込むような人物だ。なぜ彼女を登場させなかったのか?また、雨森華蓮が参戦していなかったのも残念。
ところで、会社を首になってしまった小笠原君。色男だったのに、この巻ではどんどんやさぐれていっている。最後に莉子との関係は意外な展開に。
一度は、玲奈の住むバイオレンスの世界に引きずりこまれた莉子だが、結局は玲奈を日の当たる世界に連れて戻ってきた。そして莉子の優しさは、獅靱会会長の孫娘で敵である亜芽里の心までも救ったのだ。最後はみんなそれぞれの道に。
これで、「万能鑑定士Q」シリーズも「探偵の探偵」シリーズは終了のようで、少し寂しい。二人が新たな場所で活躍することは、もうないのだろうか。ただ、凜田莉子は、これから最後の事件に挑むようだ。もしかすると泣きの一回があるかと期待してしまうのだが。
☆☆☆☆☆
※本記事は書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。