文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:サイン会の死(本の町の殺人2)

2014-01-29 20:45:10 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
サイン会の死 (本の町の殺人2) (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 ミステリー専門の書店「ハブント・ゴット・ア・クルー」の店主・トリシアが、殺人事件の謎に挑むというコージーミステリー。「本の町の殺人」の続編となる「サイン会の死」(ローナ・バレット/大友香奈子:創元推理文庫)だ。

 物語の舞台は、ニューハンプシャー州にある田舎町ストーナム。古書と専門書の書店が集まる読書家の聖地という設定である。トリシアの店に、サイン会のために呼んだベストセラー作家・ゾウイがトイレで殺される。おかげで、保安官の許可があるまで店を開けられないはめに。ところが、トリシアは女保安官のウェンディとは馬が合わず、なかなか許可が出そうにない。このまままでは、経営の危機に。ということで、トリシアは事件を調べ始めることになるのだが、なんとゾウイに盗作疑惑が浮かんでくる。さらには、作家の姪、キンバリーが襲われ、瀕死の重症に。

 そこで、トリシアが名探偵ぶりを発揮して、見事に事件を解決といきたいところだが、この人どうも詰めが甘い。なかなかいいところまで真相には迫っていたのだが、もう少しで、無実の人間を犯人にしてしまうような迷探偵ぶりだ。結局、せっかくの推理も、最後に見事にひっくり返ってしまう。

 真犯人は、ちょっとサイコなところのある人物だったが、これだと、あまり動機というものが重要でなくなってくるので、犯人を意外なところから、簡単に引っ張り出せてしまう。私は、あまり好きではない。本作は一応ミステリーなのだが、事件の謎解きよりは、ストーナムの人間関係の方が面白いだろうと思う。

 最後は、色々な事が大小全て片付き、なんとなくハッピーエンドになった感じだ。トリシアと姉のアンジェリカとはこれまであまり良い関係ではなかったようだが、この事件を通じて姉妹の絆が深まる。酷い目にあったキンバリーだが、結局恋人を得たうえに作家デビューもできそうだ。アンジェリカも念願の料理本が出版されるようだし、菓子職人のニッキも母親との再会を果たした。おまけに、町を悩ませていたカナダガンの糞問題も解決しそうである。

 この作品では、基本的に女性が中心で、男は脇役を演じている。そのせいかストーリーはなかなか軽快でとても読みやすい。ただ、イラストは少し残念な感じがあるが。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。
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書評:食べてのほほん

2014-01-28 19:21:26 | 書評:その他
食べてのほほん: 食のことばで四季めぐり
クリエーター情報なし
明治書院


 春夏秋冬と、四季折々の食材を描いた歳時記、「食べてのほほん」(村山尚子:明治書院)。

 本書は、日本農業新聞に掲載したものをベースに加筆したものだそうだ。紹介されている各食材について、それぞれ見開き2ページで解説するというのが基本構成となっている。面白いのは、タイトルが、その食材に関係のあることわざや慣用句になっているところだ。そして、その言葉に関する解説や食材に関する蘊蓄を織り込んだエッセイが本文として続く。このエッセイがなんとも楽しいのである。おまけに、各食材毎に描かれているイラストも、ほのぼのとした感じで、タイトルの「のほほん」という響きに良く合っており、イラストだけ眺めていても、なんだか楽しくなってくる。

 取り上げられている食材は、諺や慣用表現に使われるくらいだから、特に変わったものはない。どれもおなじみのものである。必ずしもその季節でなければ、食べられないというわけでもない。しかし、食べるならやっぱりこの季節が一番と言ってもよいものばかりだろう。

 それにしても、食材に関する言い回しにも案外と知らない言葉があるものである。本書は、楽しみながら、そのような諺や慣用表現に詳しくなるだけでなく、その食材に関する豆知識もつくという優れものだ。今は、食材にも、昔ほどの季節感がなくなってきているが、本書を参考に、四季折々の旬の味を楽しみたいものである。

☆☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。
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書評:夜のフロスト

2014-01-25 09:49:40 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
夜のフロスト (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 イギリスきっての名探偵と言えば、なんといってもシャーロックホームズだが、もう一人気になる人物を見つけた。それが、R・D・ウィングフィールドの描く、デントン警察署のフロスト警部だ。しかし、彼を名探偵と言って良いものかどうか・・・。

 その人物像は、かなり面白い。かなり後退した頭髪に、くたびれてよれよれの服装。押収品はくすねるわ、経費の領収書は偽造するわ、取り調べでは容疑者者を平気で騙すわと、びっくりするようないいかげんさなのだ。おまけに、下品な下ネタジョークの連発。しかし、なぜか勲章持ちで、それが時にフロストを救うことになる。論理よりは、勘で動くタイプであり、他の名探偵のように、整然とした推理を展開してくれる訳でもない。しかし、とても人間臭い、不思議な魅力を持っている。

 本作、「夜のフロスト」(東京創元社)では、流感で署員の欠勤が相次いでいるのに、連続老女殺害事件、少女誘拐殺人事件など、これでもかというくらい、次から次に、重大事件が連続し、皆がアップアップの状態だ。やっと容疑者を確保したと思ったら、出てくるのは、まったく別の犯罪で、人員不足の中、現場は疲労困憊。

 ところが、デントン警察署の署長というのが自分の点数稼ぎばかりするような人物。無能なくせに、威張りちらすわ、権力者にはおべっかはつかうわで、管理者としては失格。もちろん人望はない。しかし、これがフロストと対比を成して、彼の魅力を引き出す効果を上げている。

 いいかげんだが、人間臭くて、自分の点数には拘らないフロストは、署員の間では、意外に人気があるようだ。偽造がばれて突き返された経費の領収書を、署員が総出でフロストのために偽造し直しているシーンはなんとも笑える(良い子は、絶対に真似をしてはいけませんよ)。

 ところで、この作品ではフロストと組まされることになったギルモア。部長刑事に昇進したばかりで、放っの強い青二才だが、きっとフロストに振り回されているうちに、刑事としての大切なものを掴むのだろうと思っていたがさにあらん。あまりの激務ぶりのため、嫁が自分にかまってもらえないことに起こって家出してしまい散々だ。でも、あまりめげているようにも見えず、自由を謳歌しているようだ。もしかすると、彼もだんだんとフロストのようになっていくのだろうか。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。

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書評:秘密の京都

2014-01-21 09:53:20 | 書評:その他
秘密の京都 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社


 生粋の京都人である、入江敦彦氏による京都散歩案内、「秘密の京都」(新潮文庫)。

 私は、学生時代の6年間は、住民票登録もちゃんと行っていた正式の京都市民だったし、社会人になってからも何度も京都を訪れている。しかし、それでも京都からは、まだ知らない興味深いことがいくらでも湧いてくるようだ。

 それでは、生まれながらの京都人なら、京都のことを隅々まで知っているかというと案外そうでもないようだ。著者によれば、基本的に京都人は京都に詳しいが、その知識は、散歩する範囲にかぎられることも多いという。しかし、本書では、他の人より散歩の範囲が少し広いと言う著者が、京都の主要な部分をほぼカバーして、散歩をする際の立ち寄りところを案内してくれる。

 著者が、立ち寄りどころを紹介するときの蘊蓄がなかなか興味深い。例えば、京都には、通称寺と呼ばれるものが多い。これが寺社の正式名称を言うと、近所の住人でも分からないらしいので、蛸薬師とか蚕の社と呼ばなければならないのだ。その数がなんと百十数箇所もあり、宗派を越えてそ連合した「通称寺の会」を作っていると言う。いかにも京都らしい現象ではないか。また、有名な化野念仏寺の石仏群は、明治36年に、近隣から出土したものを集めて作られた、比較的新しいものだということも、本書を読んで初めて知った。

 本書では、洛北、洛西、洛中、洛東、洛南に分けて、散歩中に見逃せないものが、歴史や言い伝えなどに関する蘊蓄と共に紹介されている。これらを読むと、まだまだ京都には未知のことが多いと言うことを実感してしまう。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。

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放送大学から次学期の科目登録案内が来た

2014-01-18 08:25:59 | 放送大学関係
 放送大学から、H26年1学期の科目登録案内が来ていた。ここはもう3回卒業して、現在は「人間と文化」コースに全科履修生として在籍している。現在履修中の科目の単位を取れば、後15単位でまたしても卒業だ。

 放送授業の方には、自専攻の科目には興味があるものが残り少なくなっているので、ある程度は面接で取りたいのだが、今回は「人間と文化」関係の科目に食指が動くようなものがない。次に再入学するときのことも考えて、とりあえずまだ卒業していないコースの科目から選んでおくか・・・ とりあえず、色々悩み仲である。



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書評:ヒラノ教授の論文必勝法

2014-01-12 10:42:37 | 書評:学術教養(科学・工学)
ヒラノ教授の論文必勝法 教科書が教えてくれない裏事情 (中公新書ラクレ)
クリエーター情報なし
中央公論新社


 我が国における金融工学の先駆者である、東工大名誉教授の今野浩さんが描く、論文にまつわる悲喜こもごもを描いた、「ヒラノ教授の論文必勝法」(中公新書ラクレ)。ここで言う論文とは、入試などで課される小論文のようなものではなく、きちんとした査読のある学術論文のことだ。

 今野さんがこの本を書こうと思った理由は、40年に渡ってアメリカ流の”Publish or Perish”文化(論文を書くか滅ぶか)の中で過ごして来た自分には、他の人には書けない何かがあるだろうと思ったからということだそうだ。実際に、結構作文技術以外の裏話のようなものも多く書かれている。

 まず興味深いのは、学問ごとのカルチャーの違いだ。理系研究者の業績は、査読付きジャーナルにいくつ論文を発表したか、他の研究者から論文を何回引用されたかということで表される。しかし、日本の文系研究者は、論文より著書に重点を置く傾向にあり、教科書の翻訳、一般読者向けの読み物や商業誌に乗せた文章まで業績としてカウントしていたという。

 ところで、査読付きの論文とは、論文をそのジャーナルに掲載する前に、レフリーと呼ばれる研究者が論文を読んで、修正を求めたり、掲載の可否を判断するという仕組みがある論文のことだ。これにも、学問ごとのカルチャーがあるようで、工学系は、論文を書くのが大変なことが分かっているので、なるべく通す方向で査読を行う傾向が強いのに対して、あまり論文を書く習慣の無い経済学系は、やたらと細かい修正を求めてくるらしい。これは、海外でも同じ傾向にあり、ファイナンス理論の大家であるフィッシャー・ブラックでさえ、レフリーがごちゃごちゃ言うので論文を書くのがいやになったと、MITの教授から、ゴールドマン・サックス社に転身している。また、若いB級の研究者が懇親会の席で、AAA級の研究者であるアローの論文をリジェクトしてやったと自慢していたこともあったという。日本では、これに査読付きジャーナルが少ないことも加わり、論文を殆ど書かない経済学者が大勢いるというから驚きである。

 著者のように、学際的な分野の研究者は、どのジャーナルに投稿するかということも大変らしい。そのジャーナルの趣旨に合わなければ掲載されないし、経済学系のジャーナルに投稿すると細かな修正を何度も求められる。学者生活というのもなかなか大変なようだ。

 本書には、このような査読付きジャーナルに論文を投稿するときの心構えやノウハウが多く詰まっている。研究者を目指す人は一読しておいた方が良いだろうし、そうでない一般の読者が読んでも十分に面白いだろう。ところで、ひとつだけ気がついたことを注意したい。著者は、特許について、異議申し立てができる(p178)と書かれているが、実はこの制度はずっと前に廃止され、現在は無効審判に一本化されている。やはり、こういうところは、きちんと編集者が査読しなければいけないだろうと思う。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。


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書評:四国遍路

2014-01-11 08:16:40 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
四国遍路 (岩波新書)
クリエーター情報なし
岩波書店


 「大師は弘法にとられ」という言葉がある。仏教界には、過去より「○○大師」と呼ばれる人が多く存在するが、単に「お大師さま」といえば、それは弘法大師空海しかあり得ない。四国には、この空海ゆかりの札所が八十八か所あり、それらを巡りあるくことを「遍路」と呼んでいる。

 「四国遍路」(辰濃和男:岩波新書)は、著者が、この八十八か所を実際に歩いて回ったときの体験を連作エッセイとして綴ったものだ。著者は、元朝日新聞の記者で、44歳の時に、お遍路の記事を書くために初遍路を体験したそうだ。この初遍路の結願の時に、60歳になったら、また四国を回ろうと決めたのだが、なかなか思うようにはならない。しかし、衰えていく体力を考えて、68歳の時に、遂に2度目の遍路を決意した。

 といっても、全部で千数百キロの行程である。最近は、自動車や交通機関を使って回る人も多いが、徒歩で回るとなると、やはり一般の人には難しい。著者も全6回に分けて、のべ71日をかけて四国を歩いている。

 正式なお遍路は、白装束で、金剛杖と呼ばれる杖をついて回る。かっては、お遍路は、死出の旅路でもあった。実際に、多くの人たちが、お遍路の途中で倒れ、葬られている。白装束は死出の旅路の支度。金剛杖は、倒れたときの卒塔婆代りなのだ。しかし、金剛杖は弘法大師の分身でもある。何かを抱えた人が、弘法大師と同行二人、光を求めて、八十八か所を彷徨う姿は、物悲しい。

 もちろん、現代のお遍路は、昔とはかなり様子が変わっている。やはり今でも、何かを抱えてお遍路をする人はいるのだが、観光目的で札所を回る人も多い。観光バスから、団体でどどっと押し寄せてくるお遍路さんもよく見られる風景だ。しかし、私はこれで良いと思う。回る目的は、一人ひとり違うのだ。それぞれにあったスタイルのお遍路さんがあってもよいのではないか。ただ、四国遍路の本当の魅力は、実際に歩いてみないと分からないかもしれない。

 本書には、行く先々で受けたお接待のことや、出会った人々のことなど、歩き遍路ならではの出来事が沢山描かれている。八十八か所を回ってみたいと考えている人には、参考になることが多いだろう。実は私も各県にまたがり、全体の四分の一程度は回ったことがある。歩き遍路となるとよほどの覚悟がいるが、交通機関を使ってでも、また機会があれば回ってみたいものだ。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。


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放送大学の単位認定試験の受験票が来た

2014-01-10 20:44:25 | 放送大学関係
 今日家に帰ると、放送大学の単位認定試験の受験票が届いていた。受験は、「舞台芸術への招待」と「日本の物語文学」の2科目だが、後者の方は、持ち込み可の試験なので、少し気が楽になる。

 本当は、そんなことではいけないのだが、やはり負担が減るというのは助かる。試験は2月1日。それまでに、どれだけ準備ができるか。
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書評:哲学する心

2014-01-07 08:19:56 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
哲学する心 (講談社学術文庫 (1539))
クリエーター情報なし
講談社


 闘う哲学者、梅原猛さんの「哲学する心」(講談社学術文庫)。著者が、新聞や雑誌に掲載したものを集めたものだが、タイトルから受けるような難しい内容ではなく、エッセイ集といったようなものである。

 講談社学術文庫に入ったのは2002年だが、単行本として出されたのは1968年である。この少し前から、梅原さんは、闘う哲学者としての本領を発揮して、多くの人と論争を始めたようである。これが、そのすぐ後に出版された「隠された十字架」や「水底の歌」などの論争に繋がっていくのだ。

 梅原さんの哲学に対する基本スタンスは、哲学とは、過去の学説や概念について考えることではなく、人類は今の世界をどう生きるべきかを、じぶんの頭で考えることだというものである。だから当時の日本の哲学者に対してはかなり手厳しい。例えば、こうだ。

<日本の哲学者の仕事は、みずから思索するというより、ヨーロッパ産の哲学の解釈と紹介をすることなのだ。哲学会という学会で、一つだけ質問してはならないことがある。それは、あなたの説は何ですかという問いである。>(P16)

 梅原さんも、我が国の多くのインテリ達と同様に、西洋思想の崇拝から始めたそうだ。しかし、それは絶望の思想。梅原さんは結局、「笑いの哲学」の研究に行き着く。哲学の心理は、深淵なアカデミズムの中にだけあるのではない。もっと日常的なものにもあるというのだ。だから、梅原さんにとっては、余暇だって、哲学の対象になるし、パチンコの中にだって哲学はある。

 そして、そこから仏像の持つ神秘的な微笑に行き当たり、仏教の研究に入る。梅原さんは、西洋では、東洋や仏教を見直しているのに、あいわらず日本だけが、自国の文化について無知だと嘆く。ヨーロッパが近代になってやっと気付き始めたことが、仏教の中には、ちゃんとかくれているというのだ。

 最初に述べたように、色々なところで発表したエッセイを集めたものなので、必ずしも体系だっている訳ではないが、それでも梅原さんの思想の変遷が分かり、極めて興味深い。梅原ファンなら必読の一冊だろう。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。

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書評:フラテイの暗号

2014-01-06 19:44:17 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
フラテイの暗号 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 アイスランドのブレイザフィヨルズル湾に浮かぶフラテイ島を舞台にした、アイスランド・ミステリー、「フラテイの暗号」(ヴィクトル・アルナル・インゴウルフソン/北川和代:創元社文庫)。時は1960年。作中では、ラジオのニュースにソ連のフルシチョフ首相に関することが流れたりと、さりげなくその時代を演出している。

 フラテイ島に住む少年ノンニは、祖父、父と共に、アザラシ猟に訪れた無人島ケーティルセイ島で死体を発見する。死体のポケットには、フラテイの書のオリジナル写本に記せられていた献辞の言葉と意味不明の言葉が記されたメモがあった。一体この人物は、何物なのか。

 島の牧師は、去年、フラテイの書の舞台を旅していた、コペンハーゲン大のロン教授ではないかと言う。教授は、フラテイの暗号と呼ばれる謎を解こうとしていたようだ。彼は、どうやってケーティルセイ島に渡ったのか?更には、レイキャヴィークから来た新聞記者が墓地で異様な死に方をしているのが発見される。

 ここで、フラテイの書とは、北欧に伝わる伝承を集めたもので、実際に存在しているものだ。しかしこの本に何か秘密が隠されていると言う訳ではない。表題の「フラテイの暗号」というのが、この作品のオリジナルの部分で、本の内容から作られたクイズのようなものと思えば良い。二人の男が死んだ事件については、その異様な死に方にも関わらず、真相は意外にあっけないものだった。この暗号を解くことこそが、本作の一番の見せ場になるのだ。

 暗号というのは、クイズを解いていって、出てきた文字を、ある規則に従って並べ替えると詩の一節が出てくるというものだ。元々日本語で書かれているものならともかく、本書は外国語からの翻訳である。訳者のあとがきを読むと、ドイツ語からの翻訳だそうだが、日本語に直してもちゃんと意味が通るようにするのは大変だっただろうと思う。しかし、訳者は、これを見事に成し遂げている。この翻訳の妙を味わうだけでも、本書を読む価値があるだろう。

 また、時代は少し昔にしても、この本からは、日本から遥かに離れたアイスランド社会の様子が色々と窺える。例えば、アイスランドの宗教だが、作中に「牧師」が出てくるので、プロテスタントが主流なんだなということが推察できる。調べてみると、ルター派が多いようだ。その他にも、地区長や教会の会衆代表という社会的な制度があったり、アザラシやウミウを食用としていたり、セグロカモメの卵でケーキを焼いたりと、興味深い事が沢山見られる。こういった民俗的な方面に興味がある方にもお勧めである。

☆☆☆☆

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