ヨレヨレの服装、がさつで下品で、何ともいい加減な勤務態度。何か喋れば、下ネタ満載。これが我らのフロスト警部だ。そのフロスト警部がデビューしたのが本書、
「クリスマスのフロスト」(R・D・ウィングフィールド/芹澤恵:創元者推理文庫)。
彼が勤務するのは、ロンドンから70マイル以上も離れた田舎町デントンにある警察署。ロンドン警察を束ねる警察長は、フロストのことを高く評価しているようだが、直属の上司で、上昇志向の権化のような警察署長・マレットとの相性は最悪。そんな彼の元に、警察長の甥にあたるクライヴ・バーナードという刑事が配属になる。
クライヴは、本来ならアレンという別の警部の下につくことになっていたのだが、アレンが倒れたため、急きょフロストが面倒を見ることになったのだ。このクライヴがフロストにひっぱりまわされて、散々な目にあうというのがこの作品の面白さの一つだ。なにしろ捜査に入ると家に帰してもらえない。ある警察官の言を借りれば、「ほかの人間には家があるということがわかっていない」ということのようだ。そのうえ、クライヴが美人婦警とこれから一戦を始めようという大事な時に、事件の捜査に連れ出されてしまうのである。
今回の事件は、幼女失踪事件から始まる。美しい娼婦、ジョーン・アップルヒルの娘、8歳のトレーシーが行方不明に。これをフロストとクライヴのコンビが追い求めるというのが、この作品の本筋となるストーリーだ。ところが、捜査をするうちに、本筋とは関係ない検案中の事件が、ラッキーとも言えるような形で解決されていく。これが、この作品のもう一つの面白いところだ。
捜査の過程で付随して出て来た事件の中で一番大きなのが、32年前の現金強奪事件。最後は、こちらの方が本筋の事件のようになり、フロストの生死にまで大きく関わるようになってくる。
フロストは上昇志向など無縁なので、解決した事件を他の警察官の手柄にしてやることもある。また、本人もかなりいい加減なのだが、他人のいい加減さにも鷹揚だ。だから署員からは人望がある。しかし、事務処理が大の苦手で、それが時折フロストをピンチに陥れる。今回も部下の超過勤務の申請を忘れていたりで、あわや大問題になるところだった。これが三つめの面白いところだろう。しかし、上昇志向一辺倒のマレット署長なんかと対比すれば、どちらが上司として好ましいかは一目瞭然だろう(超過勤務の申請を忘れるというのは困るがw)。
この作品では、フロストが生死の境を彷徨う場面で終わっているが、しぶといのがフロストの持ち味。次の作品が出ているのだがら、この最大のピンチはなんとか切り抜けたようである。
ところで、作中に、フロストがふざけて他の警官に「カンチョー」をする場面があるが、「カンチョー」は、世界共通なのだろうか(笑)。
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