2018年に亡くなられた内田康夫さんの代表作といえば浅見光彦シリーズなのだが、このシリーズによく登場しているキャラクターがいる。それは吉田須美子(愛称須美ちゃん)、浅見家住み込みのお手伝いさんだ。浅見家の当主は兄の陽一郎であり、次男の光彦はしがないフリーのルポライター。この光彦が名探偵役となり数々の難事件を解決していくというのが浅見光彦シリーズなのだが、兄の陽一郎が警察庁刑事局長と言う設定なので、最初は光彦を犯人扱いしていた警察が見事な手のひら返しをするシーンがなんとも面白いのである。
それにしてもいくら兄の陽一郎が警察庁刑事局長とはいえ公務員である。だから陽一郎の給料だけでは、とても住み込みのお手伝いさんを雇うことは無理だろう。おそらく浅見家はかなりの資産家なのだろうと思う。
それはさておき、本編の方では殺人事件が当然のように起こるのだが、「浅見光彦シリーズ番外」と銘打ったこの作品では殺人事件は起こらない。本書で描かれているのは、須美ちゃんと生花店の店主である小松原育代との交流を通じた優しい謎。
収録されているのは次の4編、すなわち「花を買う男」「風の吹く街」「鳥が見る夢」「月も笑う夜」である。どれもハートウォーミングな物語と言えるだろう。
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