・石井としろう
著者は元民主党の衆議院議員で、教育行政にも関わっていたという。本書はそんな著者が、教育に関する様々な疑問にQ&A方式で答えるものだ。
ところで、私は、我が国の教育制度については、色々な思いがある。一番言いたいのは、これまで行われた教育に関する色々な改革は、改革とは呼べず、何かやらないと自分たちの存在意義がないとヘンな考えを持っている教育官僚が、ただ制度をいじくっているだけではないかということだ。
何かやったというアリバイを作りたいなら、制度を変えるのが一番目立つからだ。これは会社の人事制度なんかで良く見られることではないかと思う。人事の連中が、必要もないのに、他所でやっているからと、目標管理などを無批判に導入してしまったような覚えはないだろうか。あれは、変える必要もないのに、自分たちのアリバイ作りのために制度をいじくって喜んでいるだけだと思う。
私たちの時代には、センター試験もなかったし、ノーベル賞などに輝いている世代は、それ以前に教育を受けた世代が中心だろう。別に制度を変える必要もなかったのではないかと思う。文科省など、いらないことをせずに寝ていてくれた方がどれだけましか。制度をころころ変えて翻弄される国民はたまったものではない。
よく偏差値についての話を聞くが、私は偏差値信仰などくだらないと思っている。東京の有名私大の偏差値が高いのは、系列高校からの進学や、AO入試、推薦入試である程度の人間を確保して、残った一般枠で競争させている結果だろう。それでなくとも、受験科目数の少ない私大と多い地方の国立大を比べて、東京の有名私大の方が偏差値が高いとか言っていること自体がナンセンスだと思う。本当に偏差値の意味を理解している人間がいったいどれだけいるのだろうか。
このように自分の立ち位置をはっきりさせたうえで、本書を読んだ後のコメントを若干記しておきたい。
まず、
<学校の先生の役割は「教科指導」と「教科外指導」、大きくこの2つに分かれます。>(p19)とある。これはその通りだろうが、今は教科外指導に重点が置かれ過ぎているのではないかと思う。本来は警察や家庭の行うべきことまで、教師に押し付けているのではないのか。本来学校に望むのは「教科指導」の方だと思う。「教科外指導」の方に時間を取られるのなら、それを可能な限り無くする方向での対策が必要ではないだろうか。
PTAの活動(p26)についてはかなり参考になる。どこもそうだとは思うが、とにかく役員に立候補する人がいない。それは父兄に負担が大きすぎるからだろう。いかに工夫して、本当にやらなければならないものを厳選することにより、皆が参加しやすい活動にしていくことも考える必要があると思う。
「塾に行かなくても学力は上がる」(p35)というのはまさに同感だ。私自身塾など行ったことがない(というより、高校まで田舎暮らしだったので、そんなものはなかった(笑))。自分のことを言ってなんだが、それにも関わらず、私自身は、塾に行った大多数のものよりは学歴が上だ。塾に行くのを当たり前だと思うと、何でも人から教わればいいということになり、自分でいろいろ工夫して解決するという習慣が身につかないのではないか。
学校を国公立か私立にするのかという問い(p38)があるが、私のように田舎育ちだと、周りには公立の学校しかなかった。ただ、街では、公立だと色々な問題があり(最近はかなり改善されているようだが、私自身ある資格試験を効率の中学校で受けたことがある。荒れていると評判の学校だったが、トイレの落書きやドアの壊れ具合でなるほどと思ったものだ)、子供を私立にやりたいという父兄も多いのではないかと思う。
部活についても触れているQがある(p42)。著者は部活大好き人間のようだが、私自身は、入りたければ入ればいいし、入りたくなければ入らなくてもいいと思っている。私自身も高校では、美術部に籍だけ置いていたような覚えがあるが、運動部は最初から選択肢にもなかった。
<学力が上位の子供は、下位に位置する子たちよりも、より定期的に運動している傾向が見られました。>(p44)とある。これは図らずも著者が相関関係(著者が区別して書いているかどうかは分からないが)と書いているように、因果関係ではない。だから、運動したからと言って、成績が上がるとは限らないのである。
また、グローバル人材に関するQもある(p74)。英語を話すことができることがグローバルではないというのはその通りなのだが、その例としてノーベル賞を受賞した益川京大名誉教授を、英語ができない例として挙げているのはどうかと思う。益川さんの場合は、論文の共著者が英語ができたのでお任せできたという事情があったようだ。そもそも物理の世界では英語で論文を書かない限り認められはしないだろう。これは例外を一つ持ってきて過度の一般化を行っているのだと思う。私自身も英語を小学校でまでやる必要はないと思うが、出来ないよりは出来た方がいいのは確かである。
最後に2020年からの制度改正について書かれていること(p134)について若干のコメントをしてみよう。著者は、
<今後はAO入試の割合も増えていきます。私はすごくいい変化だと思っています。>(p134)と書いているが、これはどうだろう。これは、学力のない学生を増やすだけのようにも思えるのだが。
☆☆☆
※初出は、
「風竜胆の書評」です。