墓標都市 (創元SF文庫) | |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
・キャリー・パテル、(訳)細美遙子
時代は未来。本書中にはその正体は描かれていないが、「大惨事」により旧文明が滅んで数百年。人々は地下に都市を作って生活しているという設定だ。そんな地下都市のひとつであるリコレッタがこの作品の舞台である。
リコレッタを牛耳っているのが、少数の評議会のメンバー。この街は、ホワイトネイルと呼ばれる者たちが幅を利かす階級社会でもあった。
このリコレッタで、歴史学者のカーヒルが殺害されたのをきっかけに、連続殺人事件が発生する。これを調べるのが市警察の女性捜査官であるマローンとその相棒の新人捜査官サンダーだ。しかしなぜか評議会は協力的ではない。
面白いのは、この都市の市警察は、独自に動いているのではなく、評議会との請負契約により操作をするというところ。しかし、日本では請負契約というのはきちんとした定義があり、仕事を完成させなければならない。だからきちんと捜査ができなければ、契約違反ということになるのだが、元の言葉がどうなのか気になるところだ。私なら委任契約くらいにしておくのだが。
そしてこの作品中で大きな役割を果たすのが、「洗濯女」のジェーン・リン。皆さん、「洗濯女」という言葉からどんな女性を連想するだろうか。腕が丸太のように太くて、力強いというようなものだと思う。ところがこのジェーン、若くてチャーミングな女性なのである。カバー裏には「洗濯娘」という言葉が使われていたが、まだそちらの方が、ジェーンのイメージに近いと思う。
ところで、この作品は三部作の最初の作品になるようだ。そのせいか、あまりSF小説という雰囲気がしないのだ。人々が地下都市で暮らしているという設定も余り活かされていない。地上が地獄のようで人間が暮らせないというのならともかく、既に「大惨事」から何百年も経っており、地上には農村が広がっているようなのだ。それなら、人間が地下で暮らす必然性はないと思うのだが、続く巻では、この設定が活きてくるのだろうか。
☆☆☆
※初出は、「本が好き!」です。