文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

銭形平次捕物控 180 罠

2023-06-26 14:05:22 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 銭形平次というと、テレビドラマでは毎回投げ銭をしているので、いつも銭を投げているイメージがあるが、原作を読んでみると、たまに投げ銭をすることもあるが、多くの話では、銭は投げていない。この話でも、投げ銭の場面はない。

 さて事件の方だが、六本木の大黒屋清兵衛のせがれ清五郎が殺された。大黒屋清兵衛というのは、香具師(やし)から身を起こし、今では地主や高利貸を営んでおり、土地の顔役になっている男だ。

 この大黒屋清兵衛のところに、恩や義理のある香具師仲間の大親分星野屋駒次郎の忘れ形見のお北、お吉という二人の娘が掛り人として暮らしていた。本来なら、この二人の娘はお客様扱いで大切にされるはずだが、姉のお北が美人だったため、清兵衛の女房のお杉が嫉妬し、今では女中以下の待遇をされているという。

 とことで清五郎の殺され方だが、二人の寝ている二階の窓の下で、修復用の足場の真下で、胴から首へ長脇差で貫かれていたという。

 平次は、このままでは、姉のお北が大黒屋の家のあたりを縄張りにしている中ノ橋の金太という岡っ引きに縛られてしまうという妹のお吉の訴えで事件を調べ始めるのだが、いつも通り腰が重い。平次は岡っ引きのくせにかなりの出不精で、なかなか腰を上げないのだ。しかし、可愛らしい娘の訴えに思い腰を上げたという訳である。

 ところで銭形平次で迷探偵役というのは、テレビドラマではもっぱら、三ノ輪の万七の役割だが、この話では、中ノ橋の金太というわけである。

 そうこうしているうちに、大黒屋清兵衛も殺されるのだが、平次は、見事に事件の謎を解き明かす。平次の特徴は、「真犯人はおまえだ」とか「真犯人を捕まえるのが俺の仕事だ」とかいうような、いかにも今の刑事ものの登場人物が言いそうなセリフを言わないことだろう。どこまでやるかは彼なりの美意識があるようで、この作品でも、ほどほどのところで事件から手を引いている。刑事ものやミステリーの多くでは、たとえどんな訳があろうと真犯人を捕まえるのだが、平次は事件の真相は解き明かすものの、事情次第では見逃したりする。これも平次の魅力だろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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甦る殺人者: 天久鷹央の事件カルテ

2023-05-27 08:55:36 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 現役の医師でもある著者による医療ミステリー。天医会総合病院副院長兼統括診断部長である天久鷹央が名探偵役を務めている。ちなみに鷹央は、中学生にも見えるくらいの童顔だが、本人は立派な大人のレディだと言っている。御年28歳のアラサー女子なのだが、それを指摘すると怒ること怒ること(笑)。

 今回の事件だが若い女性を狙う連続絞殺魔事件だ。4年前に犯行を繰り返していたが、その後なりを潜め、最近また犯行を繰り返すようになった。犯行現場に残されたDNAから同一犯人であると推測された。

 犯行現場から採取されたDNAにより、辻章介(旧姓春日)と言う男の兄弟であることが推定された。しかし、彼の唯一の兄弟は4年前に亡くなった春日広大だけ。母親が変な新興宗教に凝っていて、教祖は死者を蘇らせることができるという。そして、他に兄弟がいたという記録は全く見つからない。果たして、辻には、記録に残っていない兄弟がいるのか? それとも本当に死者が蘇ったのか?

 このシリーズ、著者の強みを活かして、病理的な種明かしがつきものだ。かなり特殊な病気もあり、恐らく読者も初めて聞いたというものも多いだろうと思う。かなり医学に詳しくないと推理は難しいのではないだろうか。だからミステリーを読んで、謎解きを趣味にしている人にはちょっとつらいかもしれない。でも、こういう病気もあるんだと知れて、なかなか興味深い。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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幻影の手術室: 天久鷹央の事件カルテ

2023-05-09 11:53:07 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 現役の医師でもある著者の天久鷹央シリーズの一つ。この巻では、小鳥遊の天敵?の研修医、鴻ノ池舞がもう少しで逮捕されるところだった。

 舞が清話総合病院で虫垂炎の手術をしたのだ。なぜ、舞が自分が働いている天医会総合病院にかからなかったかというと、もし婦人科系の病気だったときに、知り合いに婦人科の診察を受けるのが恥ずかしかったらしい。天真爛漫、傍若無人に見える舞だが、そういった感情はあるようだ。普通は虫垂炎の手術は、日本では普通腰椎麻酔で行われるが、穿孔して、腹腔内が汚染されている可能性もあるということで全身麻酔で行われた。

 ところが、その手術が行われた第八手術室で、麻酔科医の湯浅春也が殺される。手術室には湯浅と舞しかいなかった。そして湯浅が殺される直前透明人間と格闘しているような姿がモニターに映されていた。湯浅はなぜか舞に筋弛緩剤を投与しようとしていた。

 舞が犯人とされたのは、湯浅と舞以外に手術室には誰もいなかったこと。湯浅が舞の元彼だったこと、そして舞が血だらけのメスを持っていたころからだ。しかし、全身麻酔から覚めたばかりの患者が、果たして殺人なんかできるだろうか。

 日本のミステリーには一つのパターンがある。警察が頓珍漢な決めつけをして誤認逮捕をするか、しようとする。専門家に意見を聞けばいいのに、プライドばかり高く、思い込みだけで無茶苦茶なストーリーを作って、無実の人間を罪に落とそうとする。そういったとき、正義の味方の名探偵役が現れ、見事事件を解決に導くのである。その名探偵役が鷹央と小鳥遊という訳だ。もちろん舞は無実。

 面白いのは、事件を捜査するため、小鳥遊が天医会をクビになって、スパイとして清和総合病院に送り込まれること。いつも鷹央に振り回されている小鳥遊だが、お守りも大変だねえ。まあ頑張れとしか言いようがないが(笑)。

 著者の持ち味である医療知識を取り入れた、医療ミステリーだろう。ミステリーマニアには、トリックを推理するのが楽しみと言う人がいる。でも、余程医療関係の知識がないとこのシリーズに出てくるようなトリックは見抜けないのではないだろうか。裏を返せば、そういうこともあるのかといい刺激になると思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 21 蝶合戦

2023-04-03 13:25:42 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話も半七捕物帳に収録されているものだ。他の作品と同じように、明治になって、半七老人が、語り手である「私」に、思い出語りをするという形式になっている。

 この話の冒頭にこんな文が出てくるのだが、それならお伊勢参りに行った人なんかは、もう江戸っ子ではないということかな(笑)。

<江戸っ子は他国の土を踏まないのを一種の誇りとしているので、大体に旅嫌いである>

 それはさておき、今でも変な宗教がはびこったりしているが、江戸時代にも、しばしばばやり神というものが現れた。当時の人々は迷信深かったので、あの神様や仏様はご利益があるという噂が広がれば、それを求めて参拝者がひきもきらずという状態になったらしい。まあ、その根底には、自分がご利益にあやかりたいという欲があったのだが。

 ところでタイトルにある蝶合戦だが、他にも雀合戦、蛙合戦、蛍合戦というのがあるらしい。蝶の場合は詳細に書いてあり、これから判断すると、別に蝶が合戦をする訳ではなく、話を読むと白い蝶の大量発生のことらしい。しかし、誰かが「合戦」というと、当時の人はそう呼ぶようになるのだろう。

 小さな生物は、なぜか大量に発生することがある。代表的なのはバッタが大量発生する蝗害だろう。私も子供のころ、ノコギリカミキリの大量発生を見たことがある。

 先にも行ったが、昔の人は迷信深い。だから蝶合戦のような常には見られないような現象が生じると、大災厄の前触れではないかと思ってしまう。しかし、終わってみると、まったく蝶合戦は関係がなく、単に破戒坊主と、色ボケした女たちの話だった。
☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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天久鷹央の推理カルテII―ファントムの病棟―

2023-03-25 09:50:21 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は、天久鷹央シリーズの第二弾となる。主人公は、天才的な診断能力を持つ女医天久鷹央だ。何しろ27歳にして、東京都東久留米市にある天医会総合病院の副院長兼統括診断部長なのだ。ただし父親がこの病院の理事長で、叔父の大鷲が院長なのだが、叔父とは敵対関係にある。

 診断能力は天才的なのだが、人の感情や場の空気を読み取るのが大の苦手。そしてこれも天才的なくらい不器用である。だから部下の小鳥遊(たかなし)がついていないと患者の処置もできない。童顔で体も小さいことから、子供から「子供の先生」と呼ばれることもある。真鶴という美人の姉がおり(天医会総合病院の事務長をやっている)、鷹央のことをなにかと心配しているが、鷹央は姉のことが苦手なようだ。

 敬語が使えないので、人からは傍若無人と思われているが、案外メンタルは弱く、仲の良い子供の患者の死で落ち込んだりする。

 この巻に収録されているのは以下の3編。
〇甘い毒
 事故を起こしたトラック運転手の香川は、コーラを飲んだ後意識が遠のいたので、何等かの毒物が入っていると主張するが、毒物は一切検出されなかった。

〇吸血鬼症候群
 天医会総合病院の近くにある療養型の倉田病院で、輸血用の血液が盗まれるという事件が連続する。

〇天使の舞い降りる夜
 小児科に入院している悪ガキ3人組が、退院を目前にしてそろって容態が急変する。彼らの容態が変わったのは、病棟に「天使」が現れるようになってからだという。

 著者は現役の医師である。ミステリー仕立てなのだが、謎解きを行うにはかなりの医学知識がないと無理だろう。そういった意味で、著者が医師であるというアドバンテージをよく活かした作品だと思う。

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 265 美しき鎌いたち

2023-03-21 09:03:23 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 お馴染み銭形平次のシリーズの一つだ。今回の事件の舞台は両国の軽業小屋。そこで大人気の綱渡り太夫のつばめという娘が、綱が切れて落下する。幸いその時は打ち身位で済んだが、今度は座頭の天童太郎が殺された。実は天童は、先の座頭でつばめの父親である久米の仙八の仇であり、一座を自分のものにしていた。果たして事件の犯人は誰か。

 出不精の平次だが、今回は気軽に出張っている。やはり美人が怪我をするというのが琴線に触れたのか。

 銭形平次の十八番のような投げ銭の場面は今回もなし。平次は見事に事件の真相を見抜くものの、犯人を縛ろうとはしない。平時には、死んだ人間が悪人だったような場合には、わざと真相を明らかにしないようなところがある。これが、「俺は刑事なので犯人を捕まえるのが仕事だ!」とばかり、事件の背景を全く考慮せずに、同情の余地がいっぱいの犯人でも逮捕してしまうという最近の刑事ものとは一線を画するところだろうと思う。そして平次が、手を引くと事件は完全に迷宮に入ってしまうのだ。こんな感じだ。

「八、もう歸らうよ、町役人に知らせて、明日の朝でも檢視をするんだね」
 興味を失つたやうに死骸を見捨てゝ、さつさと外へ出るのです。
「親分、下手人は?」
「知るものか、鎌いたちか何んかだらう」


投げ銭よりも何よりも、これが一番の平次の魅力だろうと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 167 毒酒

2023-03-15 09:27:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 

 

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秋期限定栗きんとん事件 <下>

2023-03-06 09:03:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 著者による「小市民シリーズ」の第3弾の解決篇。小鳩常悟朗と小佐内ゆきの小市民を目指すコンビが活躍する学園ミステリーである。ここでは二人は互恵関係を解消して、それぞれ彼女、彼氏ができている。小鳩君は、仲丸 十希子と言う同級生だが、小佐内さんは、瓜野高彦という一つ年下の彼氏だ。

 でも、どうもどちらもしっくりこなかったようで、一旦離れた二人だが、結局は元の鞘に戻ることになる。仲丸さんの場合は、本命の彼氏は別にいて、その他にも二股をかけている。そして小鳩君に対して思ったような反応をしてくれない。小鳩君評して「糠に釘」。

 そして、小山内さんの方は、もっとすごい。瓜野君は自信家だが、それをミスリードするように導いてぺちゃんこにしているのだから。

 小鳩君によって狼に例えられている小山内さんだが、どう見ても、女狐という称号?に相応しい気がする。しかし、小山内さんの動機ってなんやねん。相手は仮にもその時は彼氏だったんだろう。

「うん、小鳩君。また一緒にいようね。たぶん、もう短い間だと思うけど」(p214)

 

(前略)お互いの美学をわかり合うには、まだもう少し時間が必要だ。でも間に合うのかな。卒業まで、あと六ヶ月(p235)


そう二人は、卒業を控えた3年生なのだ。でも結局のところ、六ヶ月と言わず一生のような気がするのだが。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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秋期限定栗きんとん事件〈上〉

2023-02-04 08:23:01 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 米澤穂信さんの「小市民シリーズ」の第3弾となる。このシリーズ「春期限定」、「夏期限定」と続いているので、「秋期限定」の次は「冬期限定」かと思ったら、11年も間をあけて、「巴里マカロンの謎」というタイトルの作品が出た。ちなみに、未だに「冬期限定」と言うタイトルの作品は出ていない。なおこの作品はシリーズの中で唯一上下巻に分かれている。

 長らく、行方不明になっていた本作だが、なんとか見つけることができたので再読してレビューしたいと思う。とりあえず、上巻のレビューとなる。

 小鳩常悟朗と小佐内ゆきの小市民コンビが活躍する一応学園ミステリーということになるだろうか。一応と書いたのは殺人事件のような大きな事件は起こらないからだ。

 この巻では二人の互恵関係は解消されており、小鳩くんには、仲丸十希子と言う彼女ができる。そして小佐内さんの方は瓜野高彦という年下の新聞部員と付き合うようになった。この瓜野くん、活動方針で新聞部長とは衝突している。また十希子さんの方も小鳩くんの他に彼氏がいるらしい。そう何股もかけているビッチのようなのだ。たしかに昔読んでるはずだが、まったく記憶に残っていない。どうも下巻で、大どんでん返しが待っているような予感。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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山内くんの呪禁の夏。

2022-12-30 11:15:35 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 主人公の山内くんは不幸体質の小学六年生の少年。住んでいた姫路のアパ―トが火事で全焼したため、兵庫県の群部にある父の実家で暮らすようになった。その時、山内くんは父親の実家があることを初めて知った。父の実家のある町には5年前から来ていたが、それは墓参りのため。なぜか父親は実家のことを山内くんには言わなかったのである。いや実家のあることを知らないと相続のときなんかに困るだろう。世の中何があるか分からないので、意図せずそんな事態になってしまうかもしれないのだ。

 その町で出会った不思議な美少年コン太。山内くんには、コン太の口から火が出ているのが見えるのである。山内くんの名前が面白い。なんと「邪鬼丸」というのだ。コン太も美少年と思いきや、実は十妙院紺という美少女。邪鬼丸と言う名前も紺が男装するのも魔除けのためらしい。そうこの辺りには呪禁師が普通に住んでいるのだ。しかし、紺の男装はまだしも邪鬼丸と言う名前はまずいと思う。テストなんかの度に邪鬼丸と書かないといけないからだ。「山内邪鬼丸くん」なんて出席をとられたりしたら、絶対に笑われるぞ。まあ、この名前なら家庭裁判所に申請すれば名前を変えられる可能性は高いと思うが。

 この巻では、なんとなく山内くんの不幸体質の原因が分かる。しかしまだまだまだ伏線が残されている。まだ読んでないが、続巻もあるので、そちらの方で、謎の解明が行われるのであろうか。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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