著者の弘中さんは数学者でありフィールズ賞を獲得した人だ。フィールズ賞といえば数学界においてはノーベル賞なみに権威のある賞だが、ノーベル賞ほどは騒がれないようだ。おまけに4年に1度で、対象年齢が40歳以下の若い数学者に与えられるなど結構制約が多い。賞金もノーベル賞に比べるとずっと安い。ちなみにノーベル賞には数学部門はないので純数学者は受賞しにくい。経済学でさえ出来た(厳密にはノーベル賞ではないが)のに、科学の女王足る数学部門がないのはなんとも不思議なことだ。
弘中さんとは出身県が同じで、大学も学部は違うが同じということで、勝手に親近感を抱いている。おまけに私の出身県にある国立大の学長も務められている。本書は1982年10月に刊行された「学問の発見」(佼成出版社)の写真等の一部を変更したうえで、講談社ブルーバックスの1冊として初版が2018年7月に刊行された。
本書に書かれているのは、広中さんの学問論・人生論、広中さんの取り組んだ数学の分野そして広中さんの半生。これから学問の道を志す若者などには、いろいろと参考になりそうなことが書かれている。
一つだけ紹介しよう。どのうように勉強すればいいのかという問いに対する広中さんの答えだ。
「まずは自分で考えてみること」(p3)
書いてある本を探すのではなくて、まずは自分で考えるのだ。(p4)
ところが今の教育はこの反対をいっているように思う。例えばアニメなどで学生が勉強会をしている場面では、「ここはこの公式にあてはめて」なんて言っているのが良い証拠だ。数学は公式に当てはめればいいと思っている人は結構多いのだろう。難関大の学生や出身の芸能人がクイズ大会に出て、知識を披露しているのを時折目にする。これは単に覚えていることをいかに早く思い出せるかを競っているのだろう。考えるという要素はどこにも見当たらない。
ともあれ知的活動というものに興味がある人には示唆に富んでいる本だと思う。
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