文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

学問の発見

2025-02-09 09:39:21 | 書評:学術教養(科学・工学)

 著者の弘中さんは数学者でありフィールズ賞を獲得した人だ。フィールズ賞といえば数学界においてはノーベル賞なみに権威のある賞だが、ノーベル賞ほどは騒がれないようだ。おまけに4年に1度で、対象年齢が40歳以下の若い数学者に与えられるなど結構制約が多い。賞金もノーベル賞に比べるとずっと安い。ちなみにノーベル賞には数学部門はないので純数学者は受賞しにくい。経済学でさえ出来た(厳密にはノーベル賞ではないが)のに、科学の女王足る数学部門がないのはなんとも不思議なことだ。

 弘中さんとは出身県が同じで、大学も学部は違うが同じということで、勝手に親近感を抱いている。おまけに私の出身県にある国立大の学長も務められている。本書は1982年10月に刊行された「学問の発見」(佼成出版社)の写真等の一部を変更したうえで、講談社ブルーバックスの1冊として初版が2018年7月に刊行された。

 本書に書かれているのは、広中さんの学問論・人生論、広中さんの取り組んだ数学の分野そして広中さんの半生。これから学問の道を志す若者などには、いろいろと参考になりそうなことが書かれている。

 一つだけ紹介しよう。どのうように勉強すればいいのかという問いに対する広中さんの答えだ。
「まずは自分で考えてみること」(p3)
書いてある本を探すのではなくて、まずは自分で考えるのだ。(p4)


 ところが今の教育はこの反対をいっているように思う。例えばアニメなどで学生が勉強会をしている場面では、「ここはこの公式にあてはめて」なんて言っているのが良い証拠だ。数学は公式に当てはめればいいと思っている人は結構多いのだろう。難関大の学生や出身の芸能人がクイズ大会に出て、知識を披露しているのを時折目にする。これは単に覚えていることをいかに早く思い出せるかを競っているのだろう。考えるという要素はどこにも見当たらない。

 ともあれ知的活動というものに興味がある人には示唆に富んでいる本だと思う。
☆☆☆☆









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人類の起源

2025-01-30 17:27:37 | 書評:学術教養(科学・工学)

 本書は、人類化石の古代DNAを解析することによりいかに現生人類が地球に広がってきたかを示したものである。現生人類とはホモ・サピエンスのことだ。人類とはホモ属のことである。かってはいろいろなホモ属が存在していた。しかし今では、ホモ属はサピエンス種一つしか残っていない。考えてみればこれは不思議なことだ。なぜホモ属には1種類しか存在しないのか。もしかしたらどこかにサピエンス種以外の人類が生き残っているかもしれない。

 ちなみにホモ・サピエンスというのは18世紀の生物学者であるカール・フォン・リンネによる命名法でホモが属名でサピエンスが種名だという。言葉の意味としては「賢い人」になるらしい。

 人類の化石からもDNAが抽出できるというのは驚きだが、これにはDNAを増幅するPCR法が重要な役割を果たしている。そう新形コロナで有名になったあのPCR法である。この方法は、微量なDNAを増幅するもので、古代DNA研究という新たな学問分野を生み出すことになったという。

 ホモ・サピエンスはネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス)と交雑していたというのは割と知られているが、本書ではそれに加えてデニソワ人との交雑を取り上げている。デニソワ人とは、シベリア西部のアルタイ地方にある洞窟で。この洞窟少なくともはホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人と3種の人類が利用していたという。デニソワ人というのはあまりなじみがないかもしれないが、2010年に発見された指の骨と臼歯のDNAだけで新種とされた最初の人類だそうだ。

 これらのDNAを解析することにより人類がどう分布を広げていったかシナリオが書けるとうのは極めて興味深い。

「我々はどこから来たのか、我々は何者か。我々はどこに行くのか。」は有名なポール・ゴーギャンの絵のタイトルであり、本書の終章のタイトルにもなっている。果たして進化人類学はこの疑問に答えてくれるのであろうか。
☆☆☆☆




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

知っておきたい地球科学 ービッグバンから大地変動まで

2024-07-06 13:31:46 | 書評:学術教養(科学・工学)


 地球科学というとなんだかかっこいい気がするが、高校の理科の課目で言えば地学である。この地学、いまの高校生には人気が無いようで、かって行われた調査によれば履修率が10%以下であるらしい。その大きな原因は、大学入試の受験科目になっていないからだと著者は言う。

 私は少し違う意見だ。一番の原因は文科省がやたら選択科目を増やしたことにあると思う。要するに地学を履修しなくても高校を卒業できるのだ。

 私は工学部で電気工学を学んだ。私が受験した大学では、工学部の理科受験科目は物理と化学が指定されていた。それでも地学は履修している。私たちのころは、高校理科では地学が必修だったので、文理に関係なく1年の時はこの科目を履修していた。私の通っていた高校は1学年120人位しかいない、田舎の公立校だったが、全員が地学を学んでいたのである。

 地学に関することはスケールが大きく、ロマンがある。私自身も大学・大学院修士と電気工学を学んだが、地学のロマンに魅かれて秋田大学の通信教育で地球科学を勉強した。

 本書を読むと、私が通信教育で勉強したことも多い。もちろん本書は一般向けに書かれているが、本書を先に読んでおけばもっと通信教育の理解が進んだと思う。地球科学の入門書としてぜひ読んでいただきたい1冊である。
☆☆☆☆













コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今年からは手作り派 やさしい梅しごと

2024-05-17 11:00:29 | 書評:学術教養(科学・工学)



「梅しごと」というのはあまり聞きなれない人もいるかもしれないが(私も知らなかった)、梅が旬なときに、梅を使った保存食を手作りすることのようだ(p12)

 梅を使ったもので連想するのは、なんと言っても梅干し。次に保存食というのか、健康食品というのか、嗜好品というのか梅酒だ。その他梅シロップや梅を使ったレシピも収められている。

 梅干しや梅酒といえば甕や大きなガラス瓶がないといけないと思うのだが、何と梅干しは、ジッパー付きの保存袋があればいいし、梅酒を作るにも必ずしも大瓶が無くても大丈夫だという。後者は何となく分かる気がするが、前者についてはまさに目から鱗である。

 また梅酒を作るときに留意することは酒税法との関係だ。使える酒はアルコール度数が20度以上で酒税が課税済の者に限られる。また、米、麦、アワ、トウモロコシ、ブドウなどは漬け込むこと自体が違法になる。もちろん家庭で漬け込んだものを販売してもいけない。(p84)

 梅には熟していない青梅と完熟梅がある。梅干しは完熟梅が向いているようだが、梅シロップや梅酒は青梅でも完熟梅でもいいらしい。興味がある人はぜひ両方使って、梅シロップや梅酒を作って、味の違いを確かめて欲しい。

 私自身は料理はほとんどしないのだが、それでも本書の通りにやれば簡単に梅しごとができそうだ。これから梅が出てくるだろうからぜひやってみることをお勧めしたい。
☆☆☆☆










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界一やさしい!微生物図鑑

2024-05-14 10:30:50 | 書評:学術教養(科学・工学)

 一口に微生物といっても、我々にとって有益なものもあり、有害なものもある。要はいろいろ種類があるということだ。本書は、その微生物を擬人化したイラストで紹介したものである。

 本書では微生物を細菌、古細菌、真菌、ウィルスに分けている。ウィルスを微生物といってもいいかは微妙なところであるが、

「ウィルスは微生物よりさらに小さい」(p16)
と言った記述もあるので、本書にはインフルエンザウィルスやコロナウィルスなどが出てくるものの、別扱いにはなっているようだ。

 細菌や古細菌は原核生物と呼ばれ、細胞が原始的な構造をしており、細胞核を持っておらず遺伝子は細胞内内にあるが、真核生物は細胞核を持ち、その中に遺伝子を持っているものだ。カビやキノコなどは真菌と呼ばれており、真核生物に含まれる。

 古細菌については名前は出てくるがその説明はほとんどない。これは、「細菌」と名前についているが「細菌」ではなく、細菌、真核生物と共に生物界を三分する存在である。古細菌の例としてメタン菌がある。

 ひとつ改善を望みたいことがある。各微生物には擬人化されたイラストは掲載されているが、顕微鏡などで見たその真の姿が必ずしも掲載されていないのだ(掲載されているものもある。)。まさか微生物がイラストのような姿をしていると思う人はいないだろうが(除く小さい子)、一応図鑑と銘打っているからには、ぜひとも入れて欲しいと思う。

☆☆☆☆














コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モグラは生きている──飼育・調査にみる謎の生態

2023-11-12 10:04:38 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 モグラの名前を知らない人はそうそういないだろうが、通常は地中に住んでいるので、実際に見た人は少ないのではないだろうか。私は田舎育ちなので、実際に本物のモグラを見たことがある。調べてみると、モグラにも何種類かあるらしく、私の見たモグラがどれになるのかはよく分からない。

 本書によれば日本には6種のモグラと、2種類の近縁のヒミズがいるという。ただし北海道にはいないようだ。また、子供の頃はモグラ自体は見えなくても、モグラが地中にいることが分かるというのは、そう珍しいことではなかった。畑の土がモグラによって掘られているのをよく見かけたからだ。

 本書は一言で言えば、モグラを飼育した時の監察日記のようなものだ。もちろん、小学生が夏休みの宿題でやるようなものではない。専門家によるモグラの生態の紹介である。調べてみると、著者は動物商勤務のあとフリーのカメラマンとなった人で、動物をテーマにした著書が多い。

 本書には時折モグラやヒミズの死体が道に転がっているのを見ることがあると書かれている。原因不明という。死ななくてもかなり弱っていることもある。私ももうウン十年も前の小学生の頃、家の裏でモグラがぐったりしていたのを見かけた。死んでいると思ってつい触ってしまったが、まだ生きていたようである。噛まれたのか前足でやられたのか、手が血だらけになってしまった。そしてモグラはどこかに。もし見かけても、絶対に素手で触ってはいけない。

 モグラは結構可愛いので見つけると触りたくなる。だが野生動物なので、歯や爪はかなり鋭く危険なことを忘れてはならないのだ。それに鳥獣保護法もあるので、場合によっては逮捕されるリスクもある。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

秘められた真序小倉百人一首 1000年の歴史ミステリー これこそ真の小倉百人一首か?

2023-10-27 10:29:24 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 タイトルにある真序とは真の順序という意味である。百人一首を正しい順番順に並べれば、全体で壮大な100行詩を形作っている。前半の60首と後半の40首では主題が変わっており、前者は遠島にある天皇を思い、後者は式子内親王に対する追慕を表しているというのが著者の主張である。

 そうなのかと思って改めて各歌を読んでみると、正直良く分からないと言ったところだ。確かに並べられた歌を読むと同じような題材や言葉を扱ったものが多い。しかし百人一首の時代は歌は重要な教養であった。本歌取りといったような技法もあり、古今の歌に通じていることは、やんごとない人達にとっては大前提である。だから、同じような題材や言葉が出てきてもそれほど不思議ではないだろう。

 著者の略歴を見ると、学科こそ違うが、同じ大学・大学院の学部、研究科の大先輩である。確かにむやみやたらと覚えるよりは、何らかの法則性を見出して覚えた方が覚えやすいのは確かだ。だから著者の方法はいかにも理系人らしいと思った。実は私も高校時代は百人一首を全部覚えていたはずだが、今読み返してみると、こんな歌あったかなあと思うものもけっこうある。もし、当時このような方法を知っていたら、今でもすべてを覚えていたのだろうか。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

虫への愛が止まらない

2023-10-23 12:30:37 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 いわゆる「虫」というのは、狭義と広義の意味がある。狭義の意味とは「昆虫」であるが広義の意味とは昆虫を含む小さな生き物全般である(ただし、明らかに爬虫類や両生類などに分類されるものは除く)本書では広義の意味で「虫」という言葉を使っている。だから、クモやサソリ、ムカデやゲジゲジやナメクジ、デンデンムシと言ったようなものも含まれている。

 私もかなりの虫好きであり、子供の頃は昆虫博士になりたいと思っていたのだが、著者とは大分方向性が違うようだ。なにしろ、毒グモやサソリ,ハチなどの毒を持つものは、どんな具合か試そうと、自分からかまれたり刺されたりしているのである。さすがにそんな真似はできない。帯の写真にあるようにサソリを顔に這わせたりなんかは絶対に無理である。
 
 男の子にはクワガタ好きな子が多い。もちろんカブトムシ派もいるが、多くの子はクワガタの方がかっこよくて強いと思っているのではないだろうか(体格的なものを考えると日本で普通に見られるやつなら絶対にカブトムシの方が強い。)。それでは世界最強のクワガタは何かというのを著者は調べるのだが、その方法がぶっ飛んでいる。何しろ自分の指を挟ませてみて、その感触で決めるのだから。ちなみに、本書では、最強のクワガタは、アフリカのタランドゥスオオツヤクワガタだそうだ。

 もちろん食べ比べたりもしている。多くの虫は頭に「虫にしてはうまい」という言葉が付くが、シロスジカミキリの幼虫とソフトシェルセミは本当にうまいらしい。後者は、羽化直後の真っ白なセミのことだ。

 このように、とてもマネをしようという気にはならないのだが、怖いもの見たさで次は何をやってくれるんだろうという期待を持って本書を読むことができた。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家庭でできる病気と害虫の防除 (別冊NHK趣味の園芸)

2023-08-22 15:36:24 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 発行年が1995年と、かなり古い本になるが、実家の本棚にあった一冊。ただ園芸をやっている時に目にする病気や害虫といったものは、それだけ新種があるとは思えないので、本書に書かれているくらいの知識があれば、殆どは対応できるだろう。もっとも、本書が発行された後に、海外から入ってきたものもあるかもしれないが。

 さて、本書の構成があるが、代表的な病気や害虫を挙げ、病気の場合はその治療法、予防法を、害虫の場合は駆除法、予防法を紹介している。また、植物名別の索引もついているので、自分が育てている植物がどんな病気や害虫に気を付ければいいかも分かるものと思う。もっとも、病気の場合はモザイク病のように治療法のないものもあるが。

 園芸が趣味の人にとっては病気や害虫のないことが一番好ましいが、運、不運というものもある。いつ病気や害虫に侵されるか分からないのである。しかし、本書を良く読んでおけば、そのような場合にも慌てることがないであろうし、これは病気や虫による害だと気が付いて、早めに対処ができる者と思う。治療法の無いような病気でも、早めに対処しておけば、被害を拡大させないこともできるかもしれないのである。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行

2023-07-24 13:57:33 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 著者は、日本における数理計画法や金融工学の権威である。調べてみたら昨年鬼籍に入っておられた。亡くなられていたのが全くといっていいほど報道されなかったので、全然知らなかった。芸能人なら結構報道するのに、こういった人はよほど有名でないと報道されないようだ。こういうところからも、わが国の理系人の扱いが伺える。日本が科学技術立国としてやっていくつもりなら、もっと理系人の待遇を良くしないと、頭脳流出がどんどん進んでいくだろう。

 さて本書は、工学部の語り部を自任する今野さんの自伝的小説だ。今野さんは電力中央研究所、筑波大学、東京工大、中央大を歴任しているが、本書で扱われているのは、筑波大学の助教授(現准教授。当時は准教授という役職は日本の大学にはなかった。)時代の話である。登場人物はヒラノ教授となっているが、そのまま今野さんの事だと思えば良い。

 ヒラノ助教授は、パデュー大学のアンドリューウィンストン教授に客員教授として招かれて4か月ほどその大学で教えることになった。筑波大学の状況にうんざりしていたヒラノ助教授にとっては、渡りに船だったらしい。ただ教授として招かれたはずが、結局准教授になったらしい。

 アメリカの大学事情が良く分かる。ヒラノ准教授は、世話になったユダヤ系の人々をものすごく好意的に描いているが、その一方でアメリカ大統領となるレーガンは大嫌いだったようだ。また、IBMのウォルフ博士には国際数理計画法シンポジウムの開催地のことで一杯食わされたのを、ずっと根に持っていたらしい。その他興味深いエピソードや思わず笑ってしまうようなエピソードなどが満載である。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする