文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

四谷怪談異説

2024-10-31 11:21:56 | 書評:その他

 四谷怪談といえば、鶴屋南北の作品のうち有名なものの一つだろう。実は鶴屋南北というのは、歌舞伎狂言の作者で襲名するものだったようだ。だから5人の鶴屋南北がいるが、この南北は4代目。通常鶴屋南北と言えば、この4代目を指すらしい。

 四谷怪談は、怪談物として有名だ。不誠実な夫・田宮伊衛門によって殺されたお岩さんが亡霊となって伊右衛門に祟りをなし、遂には田宮の家を亡ぼしてしまうというのが一般の人が知っている話だろう。そして、そんなお岩さんを祀ったのがお岩稲荷と言われている。

 しかしこれには異説がある。下町派すなわち町人派の唱えるのは怪談なのだが、山の手派すなわち武家派によって唱えられていたのは一種の美談。この話においては、伊右衛門もお岩さんもハッピーエンドになっている。そしてお岩稲荷は、お岩さんが信心していたお稲荷さんで、この話を聞きつけて自分も拝ませて欲しいという人が増えた結果が今のお岩稲荷になったというものだ。

 怪談か美談か。今となってはまず分からないが、どんな話にも真反対の説がある。自分の立場や物の見方などを反映していることが多い。くれぐれも片方の話だけを聞いて、それを鵜呑みにすることがないようにご用心、ご用心。
☆☆☆












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鬼棲む国出雲

2024-10-28 22:47:50 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)


 高田嵩史さんの「古事記異聞」と名付けられたこのシリーズ。舞台は出雲だが、出雲といっても、今の出雲市だけではない。要するに島根県の東半分、昔で言う出雲の国ということである。

 主人公は東京麹町にあると言う設定の日枝山王大大学院に新学期から通う橘樹雅(たちばなみやび)という女子学生。実は彼女就職希望だったのだが、志望する会社は全滅。一流企業に入って、エリートサラリーマンと恋に落ちと頭の中に描いていた夢は儚くも崩れ、大学院に進むことになった。

 彼女は民俗学に興味を持ち、民族学の研究室を主宰する水野教授の研究室に入るのだが、肝心の水野教授はサバティカルイヤーで長期休暇中。研究室を任されている准教授の御子神伶二や助教の並木祥子は一癖も二癖もありそうな変人である。それでもめげずに研究テーマの出雲を取材するために旅立つのだが、そこで事件に巻き込まれる。

 古代の出来事と現在の事件をクロスオーバーさせるという手法は、他の高田作品と同様。でも彼女と事件がクロスオーバーするのは全体の7割近くである。これはさすがに遅すぎるのではないか。まあ、古代史の謎が色々提示されるのは面白いと思うのだが。
☆☆☆☆










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あばばばば

2024-10-25 13:29:30 | 書評:小説(その他)

 「あばばばば」、何とも変わったタイトルである。芥川は時折ヘンな作品を書くので、これもそんなものだろうと思って読んでみた。

 内容は「保吉(やすきち)シリーズと呼ばれるもののひとつらしい。名字の方は出てこないので分からない・このネーミングに時代を感じるのは私だけだろうか。だって「保吉」だよ「や・す・き・ち」。今時こんな名前を付ける親はまずいないだろう。(いたらゴメン)

 ところで、内容の方だが、保吉は海軍の学校へ教師として赴任してきた。海軍の学校としかないのだが、海軍兵学校のことだろうか。

 作品の舞台となっているのは、安吉が通勤の途中で寄っている店。タバコ、缶詰、ココア、マッチと色々なものを売っているようなので、よろず屋(某時代劇スターのことではないよ)のようなものだったのだろう。よろず屋というと今の若い人は分からないかもしれないが、色々なものを売っている店。今で言えばコンビニのようなものだと思ってもらえば当たらずといえども遠からずといったところか。

 ここの勘定台に若い娘が座るようになった。この娘、なんとも初々しいのだ。商品知識はいまひとつだし、妙におどおどしている。ある日この娘が見えなくなる。次に見たときは、赤子を抱いていた。タイトルの「あばばばば」と言うのはご想像の通り、赤子をあやす言葉だ。それも顔も赤らめず、人前にでも恥じずにだ。

 私は最初この話を読んで、BLものではないが「やおい」という言葉を連想した。すなわち山なし、落ちなし、意味なしである しかし最後の方を読んで「母は強し」と言いたいのだろうと思った。
☆☆












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神眼の勇者1,2

2024-10-21 09:33:12 | 書評:その他



 これも異世界転移ものだ。主人公は丸太真というニートの青年。なぜか突然アステナという女神に召喚され、マナステシアという異世界へ行ってしまう。ところがこの女神様とんでもないビッチ。自分で召喚したくせに、就社や英雄の素質がないとばかりに、クズ呼ばわりして異世界のどこかにポイされてしまう。でも捨てる神あれば拾う神あり。老婆に扮していた別の女神さまに新設にしたことから、使途になることを勧められ、神眼の力を与えられる。

 なんとか最初の街までたどりついたのはいいが、その街はゾンビに汚染され生き残りはわずかに5人。しかも2人は双子の胎児。そのうちのひとりはなんと大魔女の転生者。ただし、殆どの魔法は忘れているらしい。

 真の使う武器がなんとも面白い。なまえからなんと丸太なのだ。剣や槍の才能はないようだが、丸太を持てば最強。おまけにルースという丸太匠(ログマスター)に師事して丸太道をブラッシュアップしたり、神眼がレベルアップして、眼からビームを出したりともうシッチャカメッチャカ。

 ところでアステナの使途と言う勇者。さすがにビッチ女神の使途だけあり、とんでもないクズ。

 不思議なのは、真の丸太。別に女神が与えた訳ではないのに、どうしてあんなに強い。それに言葉で苦労しているシーンもないし、もしかすると異世界ものによくある転移特典か?
☆☆☆☆
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インド工科大学マミ先生のノープロブレムじゃないインド体験記

2024-10-19 10:03:32 | 書評:学術・教養(人文・社会他)

 語り手は山田真美さん。インド工科大学ハイデラバード校の客員准教授だという。インド工科大学といえば理系の大学としてブイブイ言わしているというイメージがある。対して山田さんは、明治大学経済学部で学士を高野山大学で修士をお茶の水女子大で博士を取ったという文系の人だ。博士論文のテーマは「カウラ事件の研究」である。カウラ事件というのは第2次大戦中にオーストラリアのカウラにあった捕虜収容所から日本軍捕虜が脱走した事件だ。なぜそんな人がインド工科大学で教鞭をとるのだろうか。実はインド工科大学は学部こそバリバリの理系なのだが、大学院レベルでは文系研究もおこなわれているそうだ。

 山田さんは、ひょんなことからインドと縁ができた。しかし、山田さんの紹介するインドはまさに異世界。例えば、サーバントを雇うように町内会長が言って来たり、フロアの半分を占める隣のテレビ番組制作会社の内装工事でアパートの壁をぶち壊されたり。この時の対応が面白い。向こうは全く悪びれずに笑いながら来週までに直すのでノープロブラムと言ったが、さすがに頭にきた山田さんが、自分が東洋武術の達人で、5分以内に直さないと実力行使に出ると言うと、先方は真っ青になりあっという間に壁が直されたらしい。実は山田さん、少林寺拳法は習ったことがあるものの、達人というのはハッタリである。日本人にありがちな謙遜も所による。異文化の人を相手にするときはハッタリも大事だということを教えてくれる。

 また、ジープを盗まれて保険金を請求したときのこと。警察の担当官からは袖の下を要求されるし、保険の担当者からは保険金が下りた例を見たことがないと言われたり。この時は、保険の担当者に新聞に載せてもらうと脅したら保険金は無事下りたという。それでも1年超かかったらしい。この保険会社の男は「ヤマダさんのところは保険が下りていいなあ」と言ったというからあきれたものだ。コンプライアンスって何?それって食べれるの?と言った感じか。

 インドと言えば悪名高いカースト制度。カーストを越えた結婚はものすごく困難だ。そもそも結婚相手を親が探すのは当たり前。インドでは家族関係は日本よりずっと濃いし、家族と見做す範囲もずっと広い。

 この他、日本ではまず考えられないような出来事がいっぱい。でもどこか憎めないインドがそこにある。最後にこれだけは言っておきたい。インドで「ノープロブレム(問題ない)」と言われたら、問題ありありということのようだ。
☆☆☆☆











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半七捕物帳 46 十五夜御用心

2024-10-17 19:23:33 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 この話も他の話と同じく、半七老人が、目明し時代の思い出話を作家の「私」に聞かせるという形のものだ。今回話されるのは虚無僧の話。舞台は本所押上村にあった竜濤寺という荒れ果てた古寺。そこにある古井戸からなんと4人もの死体が見つかった。内訳は謎の虚無僧二人に、その寺の住職と納所。不思議なことにその死体には疵が無かった。

 我らが半七親分が解き明かすのは、事件の謎と4人の死因。そして4人の正体。ヒントは彼らの話に出てきた「諏訪神社」と言う名前。「諏訪大社」ではない。「諏訪神社」だ。ただし、通称は「〇〇大社」らしいのでちょっとややこしい。そしてその寺に関係すると思われる2人の女。

 もちろん半七親分は、その謎を解き明かして、事件を解決に導く。副題の「十五夜御用心」とは、犯人の一人が、細工された木魚に自分の甥を助けようと思って入れた注意を促す文から。もっとも、この文には誰も気がつかなかったようで、結局半七らによって発見され、事件にはあまり関係はなかったかな。そういった意味で、これを副題とするのはどうかと思う。
☆☆☆










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広電宮島線もっと魅力発見!

2024-10-15 17:24:30 | 書評:学術・教養(人文・社会他)

 広電と言えば、各地で廃線となった路線を走っていた電車を走らせており、動く路面電車の博物館としても全国的に有名だ。路面電車というのは街中の軌道線を走っている、俗に言うチンチン電車というやつだ。我が懐かしの京都市電も走っている。この会社の持っている鉄道線が宮島線である。鉄道線というのは、要するに専用の線路である。もっとも軌道線から鉄道線への直通になっているものが多いので、あまり鉄道というイメージはないかもしれない。広島に住んでいる人なら一度は広電に乗ったことがあるだろう。

 著者の中田さんは、2022年に退職するまで、35年間宮島線の運転士を努めた方だ。私も昔宮島線沿線に住んでいたことがあるので、宮島線も何度も乗った。本書はこの宮島線沿線の見どころを紹介したものだ。昔の宮島線沿線がどうだったかもわかり、極めて興味深い。

 この今の沿線案内も興味深いが、更に100年前の沿線案内を復刻して収録しているので、昔の姿もうかがえる。本書を持って、今の沿線を回ってみるのも面白いと思う。
☆☆☆☆








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銭形平次捕物控 183 盗まれた十手

2024-10-11 09:38:14 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 毎度おなじみの「銭形平次捕物控」である。盗まれたのは平次の十手だが、直接盗まれたという訳ではない。ガラッパチ」が平次から借りたものを盗まれたのである。

 この話の迷探偵役は、いつものように三輪の万七ではなく、ガラッ八が勤めている。万七も出てくるが、敵役としてである。ガラッ八が迷探偵というのは、思い込みで、無実の人間を犯人扱いしたというところだ。そして万七が敵役というのは、平次の十手を本人に返さずに、わざわざ奉行に届けているところである。おかげで万七は面目を失うようなものを盗られたのだが、平次は易しいので、それをこっそり返すことになった。

 さて話の方だが、平次とガラッ八は兩國橋で身投げしようとしていた一人の男を救う。水右衛門というその男は、領主の大久保加賀守の屋敷に年貢筋100両を届けに行く途中で掏られたというのだ。ここからが迷探偵ガラッ八の出番。水右衛門から聞いた話によると、掏ったのは一枚絵のお時に違いないと言って、彼女の貯めていた100両を水右衛門に渡してしまった。一枚絵のお時は元掏りで、その二つ名は某の描いた一枚絵の美女に似ているという噂からだ。今は足を洗ってささやかな小間物屋を開いている美女だ。

 もちろんこの事件には裏があった。それにまんまとだまされたのが平次と八五郎という訳だ。そう平次も珍しいことにまんまと騙されたのだ。お時は意趣返しに八五郎の十手を盗んだのだが、実はそれが平次から貸してもらっていた十手だったというわけである。

 ところで、平次の十手だが、房が付いているという設定だが、実際には岡っ引きの十手には房はついていない。平次も岡っ引気には変わりはないので、十手に房はついていないはずだ。それにしても平次は何のお咎めもなかったのだろうか。一応事件は解決したが、十手を盗まれたということに何のお咎めもないとは思われない。でもその辺りがこの作品には書かれていないのでよく分からない。

 この話にも平次お得意の投げ銭は出てこない。平次=投げ銭と思っている人は、認識を新たにして欲しい。投げ銭の出てくる話もあるが、むしろ少数派である、テレビドラマの旅に事件ごとに銭を投げているわけではない。貧乏暮らしの場面が良く出てくるので、あまり銭を投げると、お静さんに怒られるんだろうな。
☆☆☆☆
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ポイントギフター《経験値分配能力者》の異世界最強ソロライフ

2024-10-10 23:44:24 | 書評:その他

 この作品は異世界ものでよくある追放ものだ。この手のものは、強欲なリーダーにより主人公は追放される。でも主人公は特異な能力を持っており、この恩恵を失った彼を追放した連中はどんどん落ちぶれていく。要するに1種の「ざまあもの」でもあるのだ。

 主人公はフィルドという少年。彼は、ポイントギフターという能力を持っていた。これはパーティにいるだけで経験値が倍以上に膨らみ、増加させた経験値は本人の好きなように分配できるというもの。

 誰もがうらやむような能力だが、彼が属していたギルドが悪かった。「栄光の光」という超ブラックギルド(この作品ではギルドとは、冒険者ギルドや傭兵ギルドといった大きな組織ではなく、他の作品で言うクランに近いもののようだ。)その構成員はフィルドのおかげで強くなったことを認識せず、もう十分強くなったからフィルドはいらないといって、彼を追放する。

 ところが、フィルドは貸したポイントを引きはがし、どんどんレベルアップしていく。そうポイントギフターは、経験値を与えるギフターではなく、経験値を貸すレンダーだったのだ。一方「栄光の光」の方はどんどん落ちぶれていくのだ。

 ここからいくつか教訓が得られると思う。まずその力は本当に自分の力で手に入れたのかそれとも他人の協力があったのものかをよく考えてみる必要がある。他人の協力が必要なら、もしその人がいなくなったらと考えておかなくてはいけない。これがリスク管理と言うものだ。次に他の人の能力を十分に理解しておく必要があるということだ。「栄光の光」の連中はポイントギフターという能力を十分に理解していなかった。もし理解していればもっとギルド内で優遇していたし、間違っても追放したりはしない。
☆☆☆☆











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かんかん橋をわたって1~3

2024-10-07 11:14:23 | 書評:小説(その他)


 この作品は一口で言うと、姑の陰湿な嫁いびりを描いたものだ。

 舞台は、桃坂町という架空の街。そこは桃太郎側とその支流の山瀬川によって川東(かわっと)、川南(かーなみ)、山背の三つの地域に分けられていた。かんかん橋は正式には桃坂橋というようだが、川東と川南を繋ぐ橋である。

 主人公は渋沢萌という女性。かんかん橋を渡って夫の早菜男に川南から川東に嫁いで来た。最初は姑の不二子を、美人で頭がよくて優しいと思っていた。実は不二子は、「川東いちのおこんじょう」と呼ばれる陰湿な姑だった。「おこんじょう」とは「いじわる」と言った意味で、その二つ名の通り、陰湿ないやがらせを萌に行う。しかし、町の一地区いちといわれても「微妙だな・・・」という感じだ。どうせなら世界一せめて日本一を目指さんかい。まあ、そのくらいになれば犯罪になってしまうかもしれないが。

 そして呆れたことに川東には「嫁姑番付」というのがあり、渋沢家は4位らしい。「嫁姑番付」というのは、いかに姑による嫁いびりがひどいかを順番づけたもののようだ。しかし、不二子はどう見ても美人で頭がよくて優しいとは思えない。むしろ意地悪さが顔に出ており、先行きを感じさせる。この辺りは漫画家はよく描いている。

 川東の姑たちの小狡いところは、「嫁姑番付」というのは川南の話だと男たちに信じ込ませていることだろう。それは萌の夫の早菜男さえも。要するに川東の男たちはアホばかりなのだ。

 桃坂町のある県ははっきり描かれていないが、「おこんじょう」という言い方と萌の「からっ風育ちの女」という発言から群馬県ではないかと思われる。

 作品からは昭和の香りがプンプンする。いまどき、そんなに嫁姑の同居率は高くないだろうし、不二子のやっているいじめは夫にはっきり言うはずである。そこで別居するならいいが、もし夫が姑をかばうようなら十分な離婚理由になると思う。今なら証拠を残す方法はいくらでもあるし。
☆☆☆☆

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