文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

鬼棲む国出雲

2024-10-28 22:47:50 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)


 高田嵩史さんの「古事記異聞」と名付けられたこのシリーズ。舞台は出雲だが、出雲といっても、今の出雲市だけではない。要するに島根県の東半分、昔で言う出雲の国ということである。

 主人公は東京麹町にあると言う設定の日枝山王大大学院に新学期から通う橘樹雅(たちばなみやび)という女子学生。実は彼女就職希望だったのだが、志望する会社は全滅。一流企業に入って、エリートサラリーマンと恋に落ちと頭の中に描いていた夢は儚くも崩れ、大学院に進むことになった。

 彼女は民俗学に興味を持ち、民族学の研究室を主宰する水野教授の研究室に入るのだが、肝心の水野教授はサバティカルイヤーで長期休暇中。研究室を任されている准教授の御子神伶二や助教の並木祥子は一癖も二癖もありそうな変人である。それでもめげずに研究テーマの出雲を取材するために旅立つのだが、そこで事件に巻き込まれる。

 古代の出来事と現在の事件をクロスオーバーさせるという手法は、他の高田作品と同様。でも彼女と事件がクロスオーバーするのは全体の7割近くである。これはさすがに遅すぎるのではないか。まあ、古代史の謎が色々提示されるのは面白いと思うのだが。
☆☆☆☆










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半七捕物帳 46 十五夜御用心

2024-10-17 19:23:33 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 この話も他の話と同じく、半七老人が、目明し時代の思い出話を作家の「私」に聞かせるという形のものだ。今回話されるのは虚無僧の話。舞台は本所押上村にあった竜濤寺という荒れ果てた古寺。そこにある古井戸からなんと4人もの死体が見つかった。内訳は謎の虚無僧二人に、その寺の住職と納所。不思議なことにその死体には疵が無かった。

 我らが半七親分が解き明かすのは、事件の謎と4人の死因。そして4人の正体。ヒントは彼らの話に出てきた「諏訪神社」と言う名前。「諏訪大社」ではない。「諏訪神社」だ。ただし、通称は「〇〇大社」らしいのでちょっとややこしい。そしてその寺に関係すると思われる2人の女。

 もちろん半七親分は、その謎を解き明かして、事件を解決に導く。副題の「十五夜御用心」とは、犯人の一人が、細工された木魚に自分の甥を助けようと思って入れた注意を促す文から。もっとも、この文には誰も気がつかなかったようで、結局半七らによって発見され、事件にはあまり関係はなかったかな。そういった意味で、これを副題とするのはどうかと思う。
☆☆☆










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銭形平次捕物控 183 盗まれた十手

2024-10-11 09:38:14 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 毎度おなじみの「銭形平次捕物控」である。盗まれたのは平次の十手だが、直接盗まれたという訳ではない。ガラッパチ」が平次から借りたものを盗まれたのである。

 この話の迷探偵役は、いつものように三輪の万七ではなく、ガラッ八が勤めている。万七も出てくるが、敵役としてである。ガラッ八が迷探偵というのは、思い込みで、無実の人間を犯人扱いしたというところだ。そして万七が敵役というのは、平次の十手を本人に返さずに、わざわざ奉行に届けているところである。おかげで万七は面目を失うようなものを盗られたのだが、平次は易しいので、それをこっそり返すことになった。

 さて話の方だが、平次とガラッ八は兩國橋で身投げしようとしていた一人の男を救う。水右衛門というその男は、領主の大久保加賀守の屋敷に年貢筋100両を届けに行く途中で掏られたというのだ。ここからが迷探偵ガラッ八の出番。水右衛門から聞いた話によると、掏ったのは一枚絵のお時に違いないと言って、彼女の貯めていた100両を水右衛門に渡してしまった。一枚絵のお時は元掏りで、その二つ名は某の描いた一枚絵の美女に似ているという噂からだ。今は足を洗ってささやかな小間物屋を開いている美女だ。

 もちろんこの事件には裏があった。それにまんまとだまされたのが平次と八五郎という訳だ。そう平次も珍しいことにまんまと騙されたのだ。お時は意趣返しに八五郎の十手を盗んだのだが、実はそれが平次から貸してもらっていた十手だったというわけである。

 ところで、平次の十手だが、房が付いているという設定だが、実際には岡っ引きの十手には房はついていない。平次も岡っ引気には変わりはないので、十手に房はついていないはずだ。それにしても平次は何のお咎めもなかったのだろうか。一応事件は解決したが、十手を盗まれたということに何のお咎めもないとは思われない。でもその辺りがこの作品には書かれていないのでよく分からない。

 この話にも平次お得意の投げ銭は出てこない。平次=投げ銭と思っている人は、認識を新たにして欲しい。投げ銭の出てくる話もあるが、むしろ少数派である、テレビドラマの旅に事件ごとに銭を投げているわけではない。貧乏暮らしの場面が良く出てくるので、あまり銭を投げると、お静さんに怒られるんだろうな。
☆☆☆☆
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須美ちゃんは名探偵!?

2024-07-28 19:04:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)


 2018年に亡くなられた内田康夫さんの代表作といえば浅見光彦シリーズなのだが、このシリーズによく登場しているキャラクターがいる。それは吉田須美子(愛称須美ちゃん)、浅見家住み込みのお手伝いさんだ。浅見家の当主は兄の陽一郎であり、次男の光彦はしがないフリーのルポライター。この光彦が名探偵役となり数々の難事件を解決していくというのが浅見光彦シリーズなのだが、兄の陽一郎が警察庁刑事局長と言う設定なので、最初は光彦を犯人扱いしていた警察が見事な手のひら返しをするシーンがなんとも面白いのである。

 それにしてもいくら兄の陽一郎が警察庁刑事局長とはいえ公務員である。だから陽一郎の給料だけでは、とても住み込みのお手伝いさんを雇うことは無理だろう。おそらく浅見家はかなりの資産家なのだろうと思う。

 それはさておき、本編の方では殺人事件が当然のように起こるのだが、「浅見光彦シリーズ番外」と銘打ったこの作品では殺人事件は起こらない。本書で描かれているのは、須美ちゃんと生花店の店主である小松原育代との交流を通じた優しい謎。

 収録されているのは次の4編、すなわち「花を買う男」「風の吹く街」「鳥が見る夢」「月も笑う夜」である。どれもハートウォーミングな物語と言えるだろう。
☆☆☆☆








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羅針盤の殺意 天久鷹央の推理カルテ

2024-06-05 10:01:10 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)


 本書は、名医というより名探偵と言った方が相応しい?天医会総合病院の副院長兼統括診断部長の若き女医・鷹央先生の活躍する「推理カルテ」シリーズの一つ。本書に収められているのは、次の三作。すなわち「禁断の果実」、「七色の猫」、「遺された挑戦状」である。このうち最後の「遺された挑戦状」が本書の半分以上を占めており、2つの短編と1つの中編というのが相応しいだろう。

 この「遺された挑戦状」では鷹央の学生時代の師匠だった人が出てくる。当時の帝都大総合病院の教授で今は御子神記念病院の院長である御子神氷魚という人物だ。鷹央は、診断の技術は神がかっていると言っていいほど天才的であるが、対人関係はさっぱりだ。前々からそのような設定ではないかと思っていたが、本書にはその辺りがはっきり書かれている。鷹央は「かってはアスペルガー症候群と呼ばれ、今は自閉症スペクトラム障害のひとつとされている特性を持っている」(pp37-38)とある。そして氷魚も同じような特性を持っているのだ。その氷魚が、不審な死を遂げる。これに挑戦するのが鷹央先生という訳だ。これは主として「遺された挑戦状」で扱われているが、「禁断の果実」では毎年定期的に肝炎を起こす高校生の話、「七色の猫」では、身体に色を塗られた猫の謎。

 作者は現役の医師でもある。だから医学的知識は豊富である。これをうまく活かした医学ミステリーではないかと思う。
☆☆☆☆








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ホーンテッド・キャンパス 黒い影が揺れる

2024-01-25 17:34:11 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 このシリーズももう21巻目。この出版不況の中で21巻も出版されるというのだから、如何に人気が高いか分かるというものだ。第1巻が出版されたのが2013年1月だから、それからもう10年以上も人気シリーズであり続けたことになる。

 内容は、雪国にある雪越大のオカルト研究会(以下オカ研)のみんなが怪異な事件に挑むというもの。本巻に収録されているのは次の短編。「ショコラな恋人たち」、「あなたのマグネット」、「かどわかしの山」の3つだ。オカ研部員の中には、3人ほどいわゆる「視える人」がいる。ただし、彼らは視えるだけで、浄霊するような力はない。

 そんな彼らがどうやって、怪異な事件を解決するのかというと、そういった現象が起きる原因を調査して、もし認識が間違っていればこれを正すのである。以下に収録されている話を簡単に紹介すると、

〇ショコラな恋人たち
 ショコラトリー&カフェー「KUKKA」に起きる不気味な事件。明らかになった事実を通じて、クズのような男たちの存在が分かる。

〇あなたのマグネット
 八神森司と鈴木瑠依は、元銀行支店長の大河内鉄朗を助ける。彼は霊を引き付ける体質だったが、亡き妻が守っていた。

〇かどわかしの山
 雪越大OBの香月朔(はじめ)は30年前に行方不明になった伯父を探そうとして、オカ研に相談を持ち掛けた。伯父は46年前、婚約者の井桁鏡子といっしょに実家近くの鷺羽山に行ったが、鏡子はそれっきり行方不明。伯父は保護されたが、それ以来おかしくなってしまい、とうとう30年前に行方不明になってしまった。そして最後にはとんでもない真実が明らかになる。

 そしてもうひとつのこの物語のキモは、八神森司と灘こよみのラブコメである。高校の同窓生で先輩・後輩の間柄なのだが、森司は1浪して雪越大に入り、こよみは現役で入ったので、大学では同級生なのだが、なぜかこよみは森司のことを先輩と呼ぶ。登場人物の紹介に二人は「両片思い中」と書かれていたが、正にその通り。要するにヘタレということである。オカ研部員たちも二人が好き合っているのは知っているので温かい目で見ているが、やっと手を繋いだり、森司がこよみの額にキスしたりという仲になったようだ。思えば長かったなあ。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 306 地中の富

2023-12-10 09:24:58 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 今回の話は、インチキ修験者の話だ。名前を大膳坊覺方という。火事と喧嘩は江戸の華という位、昔の江戸は火事が多かった。銀行制度もない。だからお宝があれば地中に埋めて隠したはずだ。金なら錆びることはないので、地中に埋めて小判などを隠すのはそれなりに理にかなっているといえる。金持ちの大町人は、財産を地中に隠したに違いない。だから江戸の街の地中には、沢山の金が埋まっているはずだ。

 そこで出てきたのがを大膳坊覺方という怪しげな修験者。なにしろ、金がかくしてあれば分かるという触れ込みである。事実これまでもたくさんの金を掘り出した実績があるらしい。おまけに出た金の1/3は大膳坊覺方の取り分で、彼はそれをすべて貧しい人々への施しにするという。

 今回の事件の舞台は、傳馬町にある両替屋の越前屋。なんと大膳坊は1万両の金があるというのだ。うさん臭さを感じた平次だが、この事件は八五郎に任せる。八五郎に手柄を立てさせてやろうという親心だ。

 結果は、大膳坊と越前屋の内儀が殺されるといったものだ。しかし、大膳坊はインチキながら、最初に金を掘り当てたときに、どんなトリックを使ったのかよく分からない。人が掘ったのか、それとも自分で掘ったのか?

 もうひとつ、なんだかこの話はホームズの「赤毛クラブ」を連想してしまったのは考えすぎか。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 171 偽八五郎

2023-11-10 10:46:24 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 


 この話にも八五郎の容姿が出てくるが他の作品と矛盾している。「銭形平次捕物控 015 怪伝白い鼠には、思いもよらぬ大男――しかも、あまり人相のよくないと書かれている。でもこの作品には、少し柄は小さいが、三十前後の面長な良い男で――ウフ、その邊は八五郎にそつくりだな―と書かれている。いったい八五郎は大柄なのか、小柄なのかはっきりして欲しい。まあ、良い男ではないというのは平次が笑っていることから推察できるのだが。

 さて、今回の事件は、江戸の下町を騒がす、良家の綺麗な女の子を狙った誘拐事件。大抵は、身分に応じた金をとって親元に戻すのだが、中には戻らない子もいた。そして、女の子を裸にして骨組みや身體を念入りに見たり、高いところから突き落したり、梁へぶら下げたりするらしい。

 その誘拐犯は、誘拐した女の子の身代金を受け取るとき平次の子分の神田の八五郎」と名乗っていたらしい。もちろん騙りだが、ヘボ探偵三輪の万七は、八五郎を疑っていたようだ。平次も八五郎をからかうネタにするくらいで、もちろん、そんなことを信じちゃいない。与力の笹野も笑って聞き流しているという。

 そのうち殺人事件が起きる。両国で人気の「足藝のお紋」の小屋の軽業師の磯五郎が柳橋の下に舫った船の中で船頭の金助とともに死体で発見されたのだ。二人は、いかにも相打ちという風であった。

 平次は、この事件を見事に解き明かすのだが、明らかになったのは驚くような真実。もちろん八五郎は犯人なんかじゃなかった。
☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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吸血鬼の原罪 天久鷹央の事件カルテ

2023-10-29 18:06:59 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 知念実希人さんによる天久鷹央シリーズの最新巻。東久留米天医会総合病院の副院長兼統括診断部部長という肩書の女医・天久鷹央が統括診断部の医師小鳥遊優と研修医の鴻ノ池舞の3人で一見不思議な事件に挑むという医療ミステリーである。ちなみに小鳥遊は空手、舞は合気道をやっており、かなり強い。仲でも舞の合気道は達人級で、小鳥遊はいつも関節技でやられているというイメージである。鷹央は天才的な診断技術を持っているが、戦闘力はさっぱりであり、他人とのコミュニケーションは苦手である。

 今回の事件は、吸血鬼による殺人。被害者は、ほぼすべての血液が抜き取られており、首筋には2つの痕跡。まるで、吸血鬼に血を吸われたように。このシリーズ、大体は珍しい病気だったというオチであり、今回の吸血鬼についても一応こういう病気だと診断がついているが、あれまだ全部の伏線を回収してないんじゃないと思ったら、もう一つ奥があった。それも鷹央が見事に解決している。

 もうひとつ、本書のテーマは外国人技能実習生制度に関する闇といったものか。本来、日本に技能を学びに来ているはずが、単なる安価な労働力とみなして違法にこき使っているのだ。こういうのは、加害者に対しては罰則を強化し、被害者には救済制度を充実させることが解決に結びつくのではないだろうか。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 015 怪伝白い鼠

2023-10-11 09:37:37 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話では珍しく平次の投げ銭の技が見られる。もうひとつ、ガラッパチこと八五郎の容姿が出てくるのだ。なんでも大男であまり人相も良くないらしい。一言で言えば結構強面な感じなのだ。私の記憶によれば、テレビドラマでお馴染みの八五郎とは大分感じが違う。

 今回事件が起こるのが本町三丁目にある糸物問屋の近江屋である。この近江屋では、主人が亡くなり、母親も死んで、今は主人の弟に当たる番頭の友二郎が支配人として店の一切を取り仕切っていた。主人の直系として、娘のお雛と四つになる弟の富太郎がいるのだが、女中のお染、下男の六兵衛といっしょに、根岸の寮で暮らしていた。ちなみにお雛には、先代の決めた重三という近江屋で手代をやっている許嫁がいる。

 この富太郎が夜中にお化けが出るという。それも決まって友二郎が泊まった時に鍵えってである。お雛の御飯に石見銀山の鼠捕りが入っていたこともあるという。その他にも色々と不審なことが起こるという。

 とりあえず八五郎が寮に泊まったが、仏壇の位牌の前に鬼女の顔が現れる。魔が悪いことに、富太郎は八五郎を見て、引付を起こして倒れてしまう。そして富太郎が行方不明になり、なぜか死体となって元の床の中にいた。

 八五郎は平次にお出ましを願うのだが、平次は事件より朝飯優先のようだ。飯を食わなきゃ、戦ができないとかのんきなことを言っている。

 それでも、平次は事件を解決してしまうのだ。平次の名推理と観察眼によるのだろう。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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