この話も、いつものように八五郎が平次のところにやってきて、二人で掛け合いを始めるところから始まる。
平次の方は今回は大分機嫌が悪いようだ。その原因と言うのが、
「盆も正月も無え野郎にはわかるめえが、今日は十月の晦日だ、先刻から何人掛け取を斷わつたと思ふ、こいつは洒落や道樂で出來る藝ぢや無えぜ」
ということらしい。平次は相変わらず貧乏暮らしのようだ。これに対する、八五郎の返答は、
「相濟みません、人の氣も知らねえやうですが、借金や掛けは拂はねえことに極めて居ると、思ひの外氣の輕いもので」
オィ、八五郎、十手を預かる者がそんなことでいいのかと思わず突っ込みそうになる。
さて、今回の事件だが、なんと八五郎が色男番附に載ったという。色男番附とは、正式には息子番附というらしい。このネーミングセンスには言いたいこともあるが、昔はこんなものだったかもしれない。これには平次ビックリ、
「色男番附? そいつは何處の國の番附だ、よもや日本ぢやあるめえ」(中略)名物の顎を二三寸切り詰めたところで、これは色男といふ人相ではありません。
でもよく聞いてみると、呼び出しとして載ったらしい。
ところがこの息子番付の東西大関が殺される。平次はあまり自分から乗り出すことはないようだが、この事件に関しては自分から乗り出していった。
この事件の謎は二つ。一つは犯行の手口。もう一つはもちろん犯人は誰かということだ。平次は見事どちらも解決する。それほど長い話ではないので、寝る前などに、割と気軽に読むことができるだろう。
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