・越川慎司
「働き方改革」という言葉をよく聞くが、あまりうまくいったという話は聞いたことはない。それはおそらく上から押し付けの改革が多いことによるのではないだろうか。本書は、個人が「生産性」を向上させながら「働きがい」を感じるようになるヒントになるだろう。
日本人は「社畜」という言葉があるように、長時間労働が揶揄されている反面、それが一種の美学のように思われているのではないか。会社自体に問題があるブラック企業の場合も多いのだろうが、従業員同士で足を引っ張りあっていることもあると思う。
<「早く帰社することは推奨されているけれど、同僚の目が気になって先に帰ることができない」というような声を聞くことがあります。>(p24)
「あります」とあるが、実はこれがダラダラ残業が行われる一番の理由ではないかと思う。日本人は「横見の意識」が強い。先輩や同僚が残業をしていると、自分の仕事に区切りがついていてもなかなか帰れない人間が多いのである。
私が現役管理職の時は、誰がどの程度の仕事をしているかを把握できるので、ダラダラ残業をするような人間は能力が不足していると評価していた。同じ仕事を与えても人より時間をかけないとできない人間は確かにいる。
自分が、ダラダラ残業をするだけならともかく、仕事をさっさと片づけて早く帰る人の悪口をいったりするのだ。仕事はチームワークだとかいう一見もっともな理屈を自分の能力不足の隠れ蓑にして、他人の足を引っ張る。だからいくら自分の仕事が早く終わっても帰り難くなる。また、さっさと帰らずにそんな同僚・先輩の仕事を手伝うようにいうビジネス書も結構読んだが、いったいなにを言っているのやら。
これが管理職に見る目が無いと、ダラダラ残業をしていても「彼はいつも遅くまでがんばっている」と180度違うんじゃないかという評価をしてしまうかもしれない。また、「あんたは能力不足」だとはなかなか言いにくいところがあるだろう。こういう時には割り切って、自分に仕事が無ければさっさと帰るようにすればかなり残業は減るものと思う。
もちろん、上が無茶なノルマを押し付けてくるような場合もあるだろうが、こういった労働者側の問題も、日本で生産性が低い理由の一つであることは間違いないだろう。そんな風土が職場にあると、いくら上から働き改革なんて言ってもうまくいくわけはない。
そういった意味で次の主張には賛成だ。
<働く時間数で評価される時代は終わりました。歳をとれば自動的に給与が上がる仕組みも有名無実化し、深夜残業をしても成果が出なければ、効率の悪い社員というレッテルが貼られます。汗をかいていることをアピールしても評価されません。>(p43)
出来の悪い管理職や経営者はよく「汗をかけ」というが、私など「汗をかいても臭いだけだと思う」。同じかくなら体でなく頭に汗をかけといいたい。
また、なぜこんなことをやっているのか摩訶不思議なのだが、前例踏襲でやっているような仕事も結構あるのではないだろうか。
一例を挙げると、私が現役会社員の時に、業務替えで、そんなものが回ってきた。データを役員向けに整備する仕事だが、やるのに数日程度かかっていた。しかし、実際に利用状況を調査すると、まったく使われていないことが判明したのだ。当時の上司と相談してきっぱり止めたのだが、どこからもクレームはつかなかった。
こういったものを一つ一つつぶしていくだけでも大分身軽になると思う。くだらない仕事を削り余った時間を本質的なものに向ける。これこそが本来の働き方改革だろう。
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※初出は、
「風竜胆の書評」です。