文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

ユートピア

2021-08-31 08:44:35 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 舞台は、人口7000人の太平洋を望む小さな港町鼻岬町。ここが近隣の市に合併されず単独の町として残っているのは、町内に日本有数の食品加工会社・八海水産(以下ハッスイと呼ぶ。なお、ハッスイは八海水産通称である)の国内最大工場を有しているからだ。しかし、ハッスイの売り上げは年々落ちて、露骨な人員整理も行われ、次に閉鎖されるのはこの工場だという噂もある。

 そして、ここには、「鼻岬ユートピア商店街」という寂れた商店街がある。また「岬タウン」という造成地も。実は私の故郷も、今は近隣の市と合併してしまったが、元々は人口が鼻岬町と同じくらいの単独町制を引いていた。しかし鼻岬町とは違って、町の中心部に商店街などはない。昔はあったのだが、歯が抜けるように1件1件なくなっていき、今では昔からの店はひとつも残っていない。人口7000人の町と言えばそんなものだ。おそらく鼻岬町に商店街が残っているのはハッスイの影響が大きいのだろう。

 この町には3種類の人々がいる。岬タウンに移住してきた芸術家たち。ハッスイの社宅に住む転勤族。そしていわゆる地の人。ハッスイで働いている人がいる場合もある。

 最初は、15年ぶりに開かれる商店街祭りの企画を話し合うところから始まる。ここだけ読めば色々な人々が力を合わせて、町づくりに奮闘している日常を描いた作品かと思うかもしれない。しかしそこはイヤミスの女王湊かなえさん。読み進めるにつれて次第にイヤミスの世界に引き込まれていく。そして明らかになる意外な真実。いかにも湊さんらしい作品と言えるだろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 33 旅絵師

2021-08-29 10:08:06 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 半七捕物帳には、半七が活躍してないものがいくつか入っているが、この作品では、捕物さえ出てこない。半七老人が私に幕府隠密について説明しているのある。

 隠密となるのは、江戸城内の吹上の御庭番で、御庭番はさして重い役ではなかったが、隠密の役は将軍が自ら言い渡すので、非常に重かったらしい。

 勿論、侍の姿で入り込むわけには行きませんから、いざという時には何に化けるか、どの人もふだんから考えているんです。手さきの器用なものは何かの職人になる。遊芸の出来る者は芸人になる。勝負事の好きなものは博奕打になる。おべんちゃらの巧い奴は旅商人になる。碁打ちになる、俳諧師になる。梅川の浄瑠璃じゃあないが、あるいは順礼、古手買、節季候にまで身をやつす工夫くふうを子供の時から考えていた位です。

 子供の頃から、どんなコスプレをすればいいかと考えているって・・・。

 そして、話に出てくるのは、奥州のある藩の代替わりに派遣された隠密の話。旅絵師の山崎澹山と名乗っているが、実は、吹上御庭番の間宮鉄次郎。彼が旅の途中で助けた、城下の町に穀屋の店を持っている千倉屋伝兵衛の娘おげんに懐かれる。

 実は、千倉屋にはある秘密があった。御庭番とはどのようなものだったか、ある程度分かるのではないだろうか。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 69 白蝶怪

2021-08-27 09:34:47 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話は、半七捕物帳に入っているが半七は出てこない。代わりに出てくるのが、半七の親分で、その後半七の養父となった吉五郎親分である。またいつも半七老人から岡っ引き時代の話を聞いている「わたし」も最後に少し出てくるだけで、この点他の話とはかなり構成が違う。

 事件が起きたのが文化9年というから、1812年のことだ。江戸城の御賄組の娘である、お北とお勝と言う二人の娘が、歌留多の会から夜道を帰る時、正月の寒空の中を舞う白い蝶を目撃する。更には、二人は体調を崩し、お北の方は回復したものの、お勝は寝付いてしまう。そしてやはり白い蝶を目撃したお勝の父親である黒沼伝兵衛が変死してしまう。このままでは黒沼家は断絶。そこで急遽親類の家から婿養子を迎えて家を継がせることにした。しかしこの養子に来た幸之助と言う男を巡って更なる事件が起きる。

 最初はスリラー仕立てだったものが、終わってみれば、完全なミステリーに仕上がってるのは、このシリーズによくあるつくりだ。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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ゴーストハント6

2021-08-25 12:17:27 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

「十二国記」などで知られる小野不由美さんによる、シリーズ6巻目となる本作。今回の舞台は能登だ。能登で高級老舗料亭を営む吉見家。この家では代替わりの度に多くの死者を出すという。

このシリーズはヒロイン役の女子高生谷山麻衣がアルバイトをしている渋谷サイキックリサーチ(SPR)の面々が、協力者といっしょに、怪奇な事件に挑むというもの。渋谷サイキックリサーチというから、渋谷にあるのだろうと、調べてみると渋谷区道玄坂にあるという設定のようだ。しかし所長の名前も渋谷一也だから、もしかすると所長の名前からきているのかな。それとも地名と所長の名前の両方?

 この所長、麻衣より1つ年上で、麻衣は「ナル」と言うニックネームを献上。「ナルシスト」だからと言う理由だ。他の人も「ナル」と呼んでいるが、こちらは本名の愛称から来ているようである。

 しかし、このナル君、そうそうに憑依されてしまい、途中まで戦線離脱。代わりに活躍したのが、あまり役に立ってないと思われていた松崎綾子(巫女)。見た感じケバイねーちゃんだが、大病院のお嬢様で面倒見もいい。彼女の能力にはある制限があり、どこでも発揮できるわけではなかったのだ。しかし、条件さえ満たせば、なかなか強力な力を発揮する。

 いきなり6巻から読み始めると、設定で分からないところがあるかもしれない。そういえば、最初の頃のコミックス版を幾つか持っていたことを思い出して、先にそちらを読み、予備知識を仕入れていく。本当は小説版の第1巻から読んでいけばいいのだが、時間のない人でコミカライズ版がある作品はこの方法を勧めたい。副次効果として、登場人物がコミックス版に出てくる人物の顔になって、小説の内容に沿って動いてくれるので、こういう読み方もいいのかもしれない。

 怪奇事件を扱っている割には、語り口が面白いし、登場人物も個性的で魅力的である。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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放送大学2021年度1学期成績発表

2021-08-20 10:03:42 | 放送大学関係

 すっかり忘れていたが、今日は10時から全科生の1学期履修科目の成績発表があった。履修していたのは、「生物の進化と多様化の科学(’17)」と「レジリエンスの諸相(’18)」の2科目だが、システムWAKABAで確認すると、どちらもⒶ で合格だった。これで、4単位ゲットが確定した。来期も自コース科目を4単位登録したし、全部合格すれば卒業に必要な単位数の半分を得たことになる。このペースで行くと来年度末には卒業になるが、7回目の卒業となるため、制度上もう全科生として入学できるコースがなくなる。今後の方向性としては3つ。

1.選科生、科目履修生として続ける。運よく、改組などで、入学できる新コースができればそちらに鞍替えする。

2.他大学の通信制に入学する。

3.今やっている秋田大学の通信教育に専念する。場合によってはコースを増やすことも考える。

 

 

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医学のつばさ

2021-08-20 09:21:11 | 書評:小説(SF/ファンタジー)

 

 医師でもある著者による「医学のたまご」、「医学のひよこ」に続く「中学生医学生」シリーズの完結編! 中学生医学生と言うのは、中学生である主人公の曾根崎薫が、「全国統一潜在能力試験」で、一位となったため、東城大学医学部の特待生としてダブルスチューデントをしているという設定だからだ。もっとも薫が1位になったのは、問題を作ったのが父親で、実験台になった彼が問題を知っていたからである。つまり、限りなくカンニングに近いのである。

 この三部作は、「いのち」となずけた人間にそっくりな巨大生物を扱っている。突然出現した洞窟で見つけたたまごから孵った「いのち」。その身長は3mもある。人間そっくりだけど明らかに人間ではない。ついでに言うと、雄雌を区別できるような生殖器もついてないらしい。

 首相案件で自衛隊により、文科省の実験動物となった「いのち」。なぜか文科省の連中は「いのち」のことを「こころ」と呼んでいる。本作は、その「いのち」を奪還するというのが主な内容だ。その過程で、「いのち」の正体や意外な能力なども明らかになる。

 文体はユーモラスだ。例えばこんな具合である。

<いのち>は床に尻をついて座っている。くまのプーさんみたいだ。ハチミツを舐めていないのが不自然なくらいだ。(p194)



このシリーズ、元々児童向けの作品として書かれたようだ。だから、ある程度以上の歳の人には向かないかもしれない。

 ただ、「中学生医学生」などの設定の必要性には疑問がある。飛び級もありの世界だ。中学生なんかやらせないで、いっそ身分を大学生にしたらどうか。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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白魔法師は支援職ではありません※支援もできて、本(ぶつり)で殴る攻撃職です

2021-08-16 11:50:32 | 書評:小説(SF/ファンタジー)

 

 白魔導師(本作では白魔法師)といえば、回復役として、よくファンタジーや異世界ものによくでてくるが、後方支援の専門職としてお馴染みだろう。しかし、本作に出てくる白魔法師は、そんな既成概念を根本からひっくり返してくれる。なにしろ、白魔法の魔導書が武器になり、魔導書でモンスターを殴り飛ばすのだから。

 主人公はノエルと言う少年。ダンジョンの氾濫で、あふれ出した魔物に家族を殺され、天涯孤独の身。しかし、冒険者パーティ「深夜の狼」のみんなに助けられ、孤児院に預けられることになる。

 この世界では、適正職業に就くための儀式を経て、適正職業につくことになる。その適正職業とは、赤、青、茶、緑、白の魔法師の5つ。どうして適正職業がみんな魔法師なのかはよくわからない。その中でも、白魔法師は外れ職業と見なされていた。他の職業でも適性があれば使えるヒールで大抵何とかなるし、白魔法師になると、攻撃魔法が覚えられなくなるからだ。ノエルが白魔法士になった理由は単純明快、それしか適性が無かったからだ。

 孤児院を卒業したノエルは冒険者養成学校に入るが、そこからノエルの快進撃が始まる。白魔法師が魔法でなく、物理で攻撃する。それも本で殴るというのが、なんとも斬新で面白い。

☆☆☆☆

 

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今日から放送大学科目登録

2021-08-15 15:39:20 | 放送大学関係

 今日から、放送大学2021年度2学期の科目登録開始だ。1学期に履修した科目4単位分(2科目)は、裏技で合格していることを確認した。2学期新たに登録したのは、「社会調査の基礎(’19)」と「生活経済学(’20)」である。

 コロナ下なので、どうなるかわからないため、面接授業は今回も登録せず。一応はワクチンの接種が終わっているものの、効果は100%ではないので、「君子危うきに近寄らず」だ。

 

 

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田舎ぐらしの若美さん(1)

2021-08-14 08:02:34 | 書評:その他

 

 この作品は、主人公の地院家若美が、群馬県の片田舎にある我妻村で農業に精出す話のようだ。この若美さん、最初は、バイクの後ろに乗って登場するのだが、えらくケバイ姉ちゃんが出て来たなと思ったが、実は兄ちゃんだった。そういえば、表紙を良く見ると上は隠していない。

 ジャンルとしては、「格闘ギャグBLコミック」ということだが、「BL」と言う部分を見逃していたようだ。一応断っておくが、私は「BL」には全く興味はない(←ここ重要)。でも笑いながら読んでしまったよ。一応読んだものはレビューを書くのが私の方針。

 さて、若美さんが我妻村に住むようになったきっかけは、赤木武尊と言う美少年を助けたことによる。武尊は、野生の猿に餌をやっている、いかにもチンピラと言った連中を注意して逆に絡まれていたのだ。彼に「若美さんみたいな人と農業できたら・・・凄く・・・楽しいなあっ・・・て」と言われて、すっかりその気になった若美さん。でも、どうして、二人で褌一丁で農業しているところを妄想する?

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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神話と地球物理学

2021-08-11 10:16:53 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書は、夏目漱石の弟子として有名な物理学者の寺田寅彦さんのエッセイを収めたものだ。寺田さんによれば、神話の中にその国々の気候風土の特徴が濃厚に印銘されているという。例えば、速須佐之男命に関する神話は火山活動を連想するものが多いという。

 「批評理論入門」(廣野由美子:中公新書)と言う本がある。メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」を色々な観点から、解説したものだ。その中に面白いものがある。その中に、「マルクス主義批評」や「ポストコロニアル批評」と言うものが紹介されている。しかし、若干19歳のメアリ・シェリーが、そんな観点から「フランケンシュタイン」を書いた可能性は、それだけ大きくはないものと思われる。

 本書は、神話を地球物理学的に解釈しており、なかなか面白い。もちろん、神話を作った人が、そのような考えを持っていたかどうかは分からない。しかし、国語の入試問題を著者が解こうとしたら分からなかったという笑い話があるように、読んだ人が、それぞれの人生経験に重ねて解釈していけばいいと思う。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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