舞台は、人口7000人の太平洋を望む小さな港町鼻岬町。ここが近隣の市に合併されず単独の町として残っているのは、町内に日本有数の食品加工会社・八海水産(以下ハッスイと呼ぶ。なお、ハッスイは八海水産通称である)の国内最大工場を有しているからだ。しかし、ハッスイの売り上げは年々落ちて、露骨な人員整理も行われ、次に閉鎖されるのはこの工場だという噂もある。
そして、ここには、「鼻岬ユートピア商店街」という寂れた商店街がある。また「岬タウン」という造成地も。実は私の故郷も、今は近隣の市と合併してしまったが、元々は人口が鼻岬町と同じくらいの単独町制を引いていた。しかし鼻岬町とは違って、町の中心部に商店街などはない。昔はあったのだが、歯が抜けるように1件1件なくなっていき、今では昔からの店はひとつも残っていない。人口7000人の町と言えばそんなものだ。おそらく鼻岬町に商店街が残っているのはハッスイの影響が大きいのだろう。
この町には3種類の人々がいる。岬タウンに移住してきた芸術家たち。ハッスイの社宅に住む転勤族。そしていわゆる地の人。ハッスイで働いている人がいる場合もある。
最初は、15年ぶりに開かれる商店街祭りの企画を話し合うところから始まる。ここだけ読めば色々な人々が力を合わせて、町づくりに奮闘している日常を描いた作品かと思うかもしれない。しかしそこはイヤミスの女王湊かなえさん。読み進めるにつれて次第にイヤミスの世界に引き込まれていく。そして明らかになる意外な真実。いかにも湊さんらしい作品と言えるだろう。
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