生活文化の地理学 | |
小口 千明,清水 克志 | |
古今書院 |
本書は一言で言えば、日本各地の生活文化を紹介したものだ。本書を刊行した目的を本文から抜き出してみよう。
<数値化が難しかったり定量分析に向きにくかったりする人文現象を、地理学の「守備範囲ではない」と決めつけて等閑視するのではなく、地域に生きる人びとの性質や多様性に着目し、その分析方法を模索することにより、そこから地域形成や地域変化を説明できないか。そうすることにより、隣接諸分野にはない地理学研究の独自性を主張できるのではないか。
本書は、以上のような問題意識にもとづき、地理学の立場から地域に生きる人びと、いわば庶民の生活文化をとらえることを目的としている。>(p1)
ということで、本書は、食べる~食文化~、暮らす~生活と環境~、集う~観光~、遊ぶ~非日常の空間~の4つの観点から、14の章と8つのコラムによって構成されている。
興味深かったものをいくつか、紹介しよう。
〇第4章 在来小蜜柑から温州蜜柑への転換(豊田紘子・伊藤大生)
江戸時代は現在のように温州蜜柑中心ではなく、実が小さく種のある小蜜柑が好まれていたようだ。これは「子種あり」と縁起物とされていたからだという。ただ温州蜜柑は江戸時代のはじめに鹿児島県において突然変異でできたものだという。温州蜜柑が広がっていく過程をシミュレーションすれば面白いと思う。
〇第7章 山梨県丹波山村にみる山村の生活文化(清水克志・加藤晴美)
ジャガイモと言えば、メークインが男爵芋が有名だが、日本各地には在来種ジャガイモというものがあるらしい。もちろんジャガイモ自体のルーツは海外にあるが、在来種ジャガイモは、地元の農家が何代にもわたって種芋を繋いできたものだという。要するに地域野菜のジャガイモ版といったところか。おそらく今日まで続いてきたことには、何らかの理由があるのだろう。もっと特産品であることをPRしてもいいのではないかと思う。
〇第9章 世界遺産飛騨白川村における地域イメージの形成とその変容(加藤晴美)
今でこそ世界遺産として日本の原風景のような扱いをされているが、白川村は明治・大正期、好奇の目で見られていた。大家族制で、結婚できるのは、戸主や家督を継ぐ嫡男のみ。それ以外の傍系家族は分家独立や法的な婚姻が許されなかった。だから「ヨバイ」による事実婚が普通であり、中には複数男性の子供を産んだ女性もいたと。「ヨバイ」自体はかっての日本では広く見られた風習だが、いったい白川村では何が違うのかが知りたかった。
このように、なかなか興味深い内容なのだが、出てくる話題を見ると、本州のことばかりなのだ。著者の出身地を眺めてみると、みんな本州である。俗に「北は北海道から南は沖縄まで」と言うが、日本には色々な風俗がある。もっと今回出ていないような地域の話題を入れてもいいのではないかと思う。
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