文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

君待秋ラは透きとおる

2019-07-05 21:35:51 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
君待秋ラは透きとおる
詠坂 雄二
KADOKAWA

 

 本書は、「匿技」という一種の超能力を持った人たちの物語。タイトルの君待秋ラというのは、ヒロインの名前で、何でも透明にする「匿技」を持っている。そして彼女に頭部を透明にされると、光が旨く網膜に入らないため、目が見えなくなる。彼女には君待春トという全盲の双子の弟がおり、秋ラは彼が目が見えないのは自分のせいではないかと悩んでいる。

 そんな彼女が所属することになった「日本特別技能振興会」。そこには、「匿技」を持った「匿技士」が所属しており、君待は10年ぶりの「匿技士」ということになる。この「匿技」というのは色々なものがあり、彼女の同僚となる麻楠均などは、なんと鉄筋を生成するというなんだかよく分からないものだ。このほかに、猫に変化したり、空間を切り取ったりと色々な力を持った「匿技士」が登場する。

 この振興会の設立に関わったのは、戦後の混乱期に烈女と呼ばれた汐見とき。ところが、彼女が天寿を全うし、その遺体を狙って何者かが襲撃してくる。果たしてその正体は。

 本書の特徴としては、「匿技」に対して一応の物理学的な理屈をつけているところだろうか。いろいろ突っ込もうとすれば可能なのだが、多くのこの手の作品が問答無用で超能力や異能力を出しているものよりはいいのかもしれない。

 しかし、この作品の本質は、おそらく秋ラと春トの姉弟愛にあるのではないだろうか。色々な疑問を残しながらも、結局は収まるところに収まったという感じだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

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僕には家事妖精なメイドがいます

2019-06-21 09:15:55 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
僕には家事妖精なメイドがいます (美少女文庫)
青橋由高
フランス書院

 主人公は臼木英太郎という男子高校生。色々事情があって、祖父の持ち物である洋館に引っ越してきた。なんとその洋館はシルキーという家事妖精付き。この家にある暖炉についてイギリスからやってきたらしい。それも超絶美女で出るところは出ておりスタイル抜群。

 シルキーとは、イングランドに伝わる家事をやってくれる妖精のことだ。絹のドレスを着ているのでシルキーと呼ばれる。

 そのシルキーの名は茶野絹葉。イギリスから来ているのにどうしてそんな名前なんだろうというツッコミはさておいて、英太郎は、「お絹さん」と呼ぶ。もう完全に、イギリスから来た感じではないような気がするが、気のせいか。

 絹葉は、家事妖精なので、家事全般はもちろん、英太郎のお世話も行う。もちろん夜のお世話まで。

 英太郎は絹葉に一目ぼれ、絹葉も英太郎のことが大好きに。2人が出会ったときは、絹葉はちょっとツンのようだったがあっという間にデレ状態になってしまう。その後は、何につけてもとにかく2人いちゃいちゃ(笑)。

 いや、こんな妖精付の家に住んでみたいという人は結構多いんじゃないかな。いくら人外でもこんなに可愛らしければ構わないんでは。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ダーティペアの大冒険

2019-05-26 10:05:34 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
ダーティペアの大冒険 (角川文庫 緑 544-1)
高千穂 遥
KADOKAWA

 みなさんはダーティペアを知っているかな。昔女子プロレスで似たような名前があったことを覚えている人は多いのではないだろうか。実は作者は大のプロレスファンで、そこからインスパイアされたらしい。


 とはいっても、この作品はプロレス関係ではなく、スペースオペラ。ケイとユリという二人の美少女が宇宙を舞台に大活躍いや大暴れするというものだ。なぜかこの第一巻は、ハヤカワ版と角川版があり、私の読んだのは角川版。でも最初に読んだのは、SFマガジンに掲載されたもの。ヒロイン二人のなんともハチャメチャぶりに一遍に引き込まれた。

 そして彼女たちが所属するのがWWWA。といっても女子プロレスの団体ではない。世界福祉事業協会(Worlds Welfare Work Associatiron)という銀河連合の付属機関なのである。彼女たちはそこのトラブル・コンサルタント略してトラコン。強大な権限を持ち、人類に関するあらゆるトラブル解決のために働くのである。

 彼女たちの正式なコードネームは、「ラブリーエンジェル」。しかし、彼女たちの行くところ屍の山が築かれる(彼女たちの責任ではないが)ので、ダーティペアと呼ばれている。

 この巻で彼女たちが訪れるのが、惑星グングル(ダーティペアの大冒険)と惑星ラメール(田舎者殺人事件)。期待にたがわず、いろいろやらかした結果、なんと後者では星一つ火の海にしてしまった。そしてこの2作の間に、惑星グングルでやらかしたことを部長に怒られ、酒場でくだを巻いている様子(酒場にて)が挿入されている。

 まあ、まじめに取ればかなり悲惨なのだが、二人のおバカ加減がなんとも面白く、それほど悲惨さは感じられない。もうハチャメチャでとにかく痛快なのだ。

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

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書評:吸血鬼メイドさんは甘やかしたい

2019-03-02 09:18:38 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
吸血鬼メイドさんは甘やかしたい (美少女文庫)
クリエーター情報なし
フランス書院

・ちょきんぎょ。

 主人公の総士は、放浪癖のある母親の湊から手紙をもらい、ある洋館にやってくる。そこに待っていたのは、シルヴァと名乗る銀髪巨乳の美少女メイド。

 実はその美少女はタイトルから分かるように吸血鬼なのだが、別にホラー話ではない。美少女文庫の一冊であることから想像できるように、総士はシルヴァのご主人様となって二人でラブラブイチャイチャ。シルヴァは吸血鬼なので人間に比べるとはるかに寿命が長い。なんと500年も守ってきた純潔を総士に捧げて、ラブラブ度はもはや天井知らず。

 シルヴァは前の主人である吸血鬼につれられて多くの仲間と共に日本にやってきた。しかしシルヴァ以外は陰陽師に退治されて、彼女のみ屋敷に縛り付けられた。実は湊が総士を呼んだのは、シルヴァをその呪縛から解放するためだ。その方法はネタバレになるのでここには書かないが、まあ美少女文庫らしいと言えるだろう。

 シルヴァは吸血鬼という設定なのだが、とっても可愛らしい。人外美少女萌え(いるのか?)の人に薦めたい一冊。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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書評:トランクの中に行った双子

2019-02-20 12:10:27 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
トランクの中に行った双子 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・ショーニン・マグワイア、(訳)原島文世

 メインの登場人物はジャクリーン(ジャック)とジリアン(ジル)双子の姉妹。訳者あとがきを読むと、著者の前作「不思議の国の少女たち」の前日譚とも言える作品のようだ。ジャックとジルは、両親の希望通りに育つ。すなわち姉のジャックは、母親の理想の娘として可愛らしく、そして妹のジルは父の望み通り、男の子のように育った。しかしそこには二人の意思はない。二人とも両親のお人形なのだ。

 12歳のある日二人は祖母の残していったトランクを開ける。なんとそこには階段があり、「荒野」という異世界に通じていたのだ。トランクを開けると、そこに階段があるという理由はよく分からないが、なろう系でおなじみの、一種の異世界転移ものに分類されるのだろうか?

 なろう系のものでは、たいてい神様が出てきて、主人公にチート能力を与えるが、この作品では、そんなことはない。ただ姉妹は階段を降りて、別の世界に踏み込むのである。これはおそらく日本には八百万の神々が存在しているので、中にはチートな能力をくれる神もいるかもしれないということだろう。この辺りが、なんだかキリスト教のような一神教の世界との違いが表れているような気がして、極めて興味深い。

 興味深いのは、異世界において、ジャックとジルがこれまで自分が余儀なくされてきた役割とは真反対のものを選んだのだろう。ジャックはマッドサイエンティストの弟子、ジルはその世界の領主であるバンパイアの娘として。そして意外な結末。

 それまで本当の自分を抑圧されていたことにより、二人はそれまでとはまったく違う自分になることを選択したのだろう。それこそが本来の自分。この物語は「抑圧からの解放」が一つのテーマになっているように思える。

 この作品にはまだまだ続巻があるようだ。異世界ファンタジーものが好きな人に勧めたい。

☆☆☆
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書評:カエルの魔法をとく方法((株)魔法製作所)

2019-02-07 10:24:46 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
カエルの魔法をとく方法((株)魔法製作所) (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・シャンナ・スウェンドソン、(訳)今泉敦子

 シャンナ・スベンソンによる魔法製作所シリーズの"2nd season"としては3冊目にあたる本書。3冊目に関わらず、帯に「あの<(株)魔法製作所>が帰ってきた>とあるのは、前作の「魔法使いにキスを」が翻訳で出たのが2014年の3月だからだろう。だからかなり久しぶりの日本語版ということになる。

 ヒロインはケイティという(株)魔法製作所(通称MSI)に勤める女性。なんとそのCEOは、アーサー王伝説に出てくるあのマーリンなのである。ちなみに、警備の責任者はサムというガーゴイルである。MSIに勤める人間は、魔法が伝えるのが当たり前なのだが、ケイティはまったく魔法が使えない。その代わり、免疫者(イミューン)といって、自分に対してはまったく魔法が効かない体質なのである。そしてMSI内には、オーウェンという婚約者がいる。

 本書の内容を一言で表せば「潜入捜査」。ケイティが潜入するのは、MSIに敵対するコレジウムという魔法使いの秘密結社。MSI内部にもかなりコレジウムの息のかかった人間がいるようだ。彼女は、コレジウムで、ロジャーという幹部のサポートをすることになる。このロジャーという男、ケイティの評価としては、上司としては悪くないのだが、邪魔になる人間は魔法で文字通りカエルに変えてしまうというちょっとやっかいな奴だ。野心家でサイコパス。果たしてケイティの潜入捜査は成功するのか。
 
 ところで、タイトルの「カエルの魔法をとく方法」だが、なんとなく見当がつく。西洋のおとぎ話に出てくるあの方法だ。でも美女である必要はないようだ(男でも大丈夫らしい)。そして明らかになる意外な黒幕。アーサー王伝説についての多少の知識があれば一層楽しめるかもしれない。もちろんアーサー王について詳しくなくとも面白く読めるだろう。最後の戦いの場面は一気読みするくらい引き込まれる。
 
(余談)
 ケイティは登場人物欄には、マーケティング部の部長と書かれている。しかし、本文には、営業部に所属していると書かれている(p41)。この関係はよく分からない。もしかすると翻訳の関係なのだろうか。できればMSIの組織図のようなものがあればいいのだが。それに、営業部のパーティへ参加命令がかかる場面がある(p70)。アメリカの会社は、もっとドライだと思っていたが、向こうでも営業関係は体育会系?

☆☆☆☆

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シミルボンに「不死鳥少年」のレビュー掲載

2019-01-13 18:46:49 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
 「シミルボン」に石田 衣良さんの「不死鳥少年(2019/02/22刊行)」のレビューを投稿しています。
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書評:罪の終わり

2019-01-09 21:28:27 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
罪の終わり (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

・東山彰良

 舞台は22世紀後半のアメリカ。ナイチンゲールという小惑星の破片が地上に降り注ぎ、世界は、変わり果てた。キャンディ線という線が引かれ、人々の保護はその内側のみで行われ、外側に生きる人々は極端に食料が不足していたのだ。人の肉を食べざるを得ないほど。

 これは、そんな世界で神のごとくあがめられるようになったナサニエル・ヘイレンの物語。著者の別作品に「ブラック・ライダー」という作品があるが、これはその続編にして前日譚ともいえるもののようだ。「ブラック・ライダー」(黒騎士)というのは伝説となったナサニエルのことである。

 彼は母親がレイプされたことによって生まれた。双子の兄を殺し、母親を殺した罪でシンシン刑務所に入れられる。しかしナイチンゲールの破片が地上に降り注いだ時(作中ではこれを六・一六と表している)に脱獄し、キャンディ線の外の世界をさまよう。

 この世界の人間は、VBというネットに繋がる義眼を埋め込む手術をしている人間が多い。VBとはヴァイア・ブレインウェーブの略のようである。ナイチンゲール星の接近に伴い、VBを入れたものは失明の危険があるということで手術は禁止されたのだが、主人公のナサニエルは、違法にVB手術を受けたという設定である。

 物語は、淡々と語られまるでナサニエルの苦難を描いた神話のようだ。彼を付け狙うのは、白聖書派の白騎士と呼ばれる殺し屋たち。しかし政府関係者なら分からないこともないが、なぜ宗教関係者が殺し屋を派遣しているのかよく分からない。これは、自分たちの思想と合わないものを排除する宗教というものの危険性を描いているのだろうか。 

☆☆☆

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書評:七日目は夏への扉

2019-01-01 09:50:05 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
七日目は夏への扉 (講談社タイガ)
クリエーター情報なし
講談社

・にかいどう青

 主人公は、美澄朱音という駆け出しの翻訳者。姉夫婦が海外赴任中のため、その娘である姪の藤堂ひびきと二人で暮らしているが、この姪のことを溺愛している。

 ある日、学生時代に付き合っていた元カレ森野夏樹が事故死する夢を見る。なぜこの4、5年一度も連絡を取ったことがなく、この1年は思い出しもしなかった森野の夢を見たのか。

 ところが、そんな森野の訃報が入ってくる。朱音は、森野の死の真相を探りだすのだが、朱音の一週間は、曜日の並びが無茶苦茶になっていく。それは、森野を死から救うため。そして、朱音に魔の手が迫る。

 しかし、今カレならともかく、森野は、もう何年も連絡を取ってない元カレだ。おまけのこの1年は思い出しもしなかった仲である。それがなぜ時間の流れを狂わせるような現象にまで繋がるのかよく分からない。そのあたりの説明がまったくないのである。ストーリーがあまりそんなことは気にならないくらい面白ければ、話は違ってくるのだが、そこまででもない。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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書評:黄色の扉は永遠の階

2018-12-20 10:06:23 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
黄色の扉は永遠の階 (第三の夢の書)
クリエーター情報なし
東京創元社

・ケルスティン・ギア、(訳)遠山明子

 「紅玉は終わりにして始まり」の著者の新シリーズ第三弾にして完結編。この作品では、登場人物たちは、現実世界だけでなく、「夢」の世界でも繋がっている。そしてある条件を満たせば、人物を現実世界で操ることが可能なのである。

 他人を自分の思う通りに操り、破滅させるアーサー・ハミルトン。彼と戦うのはリヴ・ジルバーとその彼氏であるヘンリーそしてリヴの妹のミアとリヴの母親の結婚相手の息子であるグレイソンたち。アーサーは、グレイソンを操って、リヴを殺させようとする。果たして、リズたちはこの企みを阻止できるのか。

 ところでリヴは、ヘンリーに自分は経験者だと見栄を張るのだが、実は未経験。苦し紛れに名前を挙げたのが、自分が飼っていた犬。このようなラブコメ感もなかなか楽しい。しかしこの物語の本筋は、夢の世界を悪用しようとするアーサーをどうやってやっつけるのかというものだ。その方法も夢の世界ならではのものだろう。

 前巻から引き継いだ謎。学校裏掲示板のような、シークレシーのブログの管理者は誰かというものなのだが、ついに意外な正体が明らかになる。これには、ミアの名探偵ぶりが光り、なかなかいい味を出している。それほど深い内容がある訳ではないが、軽めのエンターテイメントとしては楽しめるだろう。

 最後に余談になるが、本筋とは関係ないものの、一か所気になる部分を見つけた。

<それによると<真実の影の道を歩むもの>は、一九九九年の大晦日、世紀の変わり目に・・・>(p221)

 20世紀は2000年までで、2001年から21世紀になるので、世紀の変わり目は2000年の大晦日になるはずなんだがなあ・・・。

☆☆☆

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