晴、31度、76%
新聞の新刊の紹介で気になる本がありました。本屋に行かなくなって数年、プチンと押したら翌朝、ポストに入ります。
作者は80歳で初めての文壇デビュー、昭和の初め頃の上州の山間の話です。小学校に上がる前の少年と村の老人との交流が描かれています。この本を手に取りたいと思ったのは、「昭和」の匂いを嗅ぎたかったからです。「昭和」の山の暮らし、人の営み。AI、ジェンダー、スマホなどが出てこない「昭和」の話を読みたいそんな気持ちでプチんとしました。
動物の生死、子供から見る大人の穢さ、老人の動かない大きさに支えられ少年が成長して行く七話の短編集です。作者丸橋賢さんは歯科医師だそうです。ご自分の専門分野の本も出していらっしゃいます。文芸作品はこの本が初めて、そんな作者の背景も本には大事な要素です。主人公の少年にご自分を重ねる、いえ、当のご本人の思い出かもしれないと読みました。いい話です。ところが上州の自然も少年の心の動きも何か一つ迫ってくるものがありません。香り、匂いが伝わってこないのです。山を抜ける風の音も動物の小さなうめきも、耳に届かない。全て描かれているのに彷彿とさせるものがありませんでした。失礼ですが、持っているののを表す言葉が素直過ぎるのだと思います。
本の帯に「映像化」と書かれていました。映画になった「はじまりの谷」を想像します。上州の山の緑、野生の動物、少年、老人。やっと私の中でこの「はじまりの谷」が色付くのを感じました。
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