夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『夢売るふたり』

2012年09月24日 | 映画(や行)
『夢売るふたり』
監督:西川美和
出演:松たか子,阿部サダヲ,田中麗奈,鈴木砂羽,安藤玉恵,
   江原由夏,木村多江,伊勢谷友介,香川照之,笑福亭鶴瓶他

急に晩ごはん支度をしなくてよくなった日に、
このチャンスを逃してなるものかと、帰り道にシネコンへ。

非常におもしろい作品でしたが、好きかと言われるとビミョーです。
どう捉えればいいのかも難しいし、感情移入のしどころにも迷います。
何にせよ、心にグサグサ突き刺さる。

小さいながらもよく繁盛している料理屋“いちざわ”を営む夫婦、貫也と里子。
開店5周年を迎えたその夜も、店内は大勢の客でにぎわっていた。
しかし、厨房から失火し、瞬く間に店は火の手に包まれる。
どうすることもできずにただ焼け落ちてゆくのを見るふたり。

またやり直せば済むことだと、近所のラーメン店に働きに出る里子。
一方の貫也はすっかり投げやり、雇われた先でも他の従業員と大喧嘩。
そんな折り、たまたま同じようにやけを起こしていた女と出会う。
彼女は“いちざわ”の常連客だった玲子で、
不倫相手の上司が事故に遭い、面会に行ったところ、
上司の弟から手切れ金を突きつけられたらしい。
貫也と玲子が一夜を共にしたあと、玲子はその金を貫也に贈る。

この金を元手にまた店を始められると喜んで帰る貫也だったが、
浮気したことを里子に見抜かれ、針のむしろ状態に。
しばし考えているふうな里子は、貫也を使って結婚詐欺をしようと思いつく。
ターゲットを里子が選び、綿密な計画を練ると、貫也が実行。
こうしてふたりは結婚詐欺をくり返し、店を再開するための資金を貯めるのだが……。

冒頭のシーンは、東京の町並みを映しだしているだけで、
不穏な要素など何もないはずなのに、なんだかザワザワ。
『ゆれる』(2006)といい、こういうザワザワ感を出すのが西川監督は本当に上手い。
ザワザワしたなか、別々に生きる登場人物たちが、ひとりずつ貫也と出会います。

貫也と里子、ふたり。いつもふたり。
ふたりで店を開く希望を叶えたのに、あっけなく火事でそれを失い、
失ってからもふたりは離れません。
玲子とどういう流れで一夜を過ごしたのかを聞いた里子が、
詐欺師となる男が完璧である必要はないと思い至るところが面白い。
貫也は里子が何を考えているのかちっともわからず、
だけど浮気をした負い目もあって、里子の言うがままに詐欺を働きます。

ふたり一緒にいるために、二人三脚で詐欺を働いているのに、
心はどんどん遠くなり、里子はひとり取り残される。
身体的にひとりでいるときの里子が生々しくて見ていられないほど。
松たか子にこんなことまでさせちゃうなんて、
監督エグッと思うけれども、本作でのこんなことならありでしょう。
『イン・ザ・カット』(2003)で同様のシーンがあったメグ・ライアンは痛いだけだったもの。

読み終えたばかりの樋口勇介の『11月そして12月』に、こんな台詞がありました。
「女というのは生物学的に、死ぬまで疲れんようにできている」。
そうかもしれないと、先に観ていた本作のことが頭をよぎりました。

それにしても、あんなにカワイイ松たか子をつかまえて、
「別に美人じゃないけど」っちゅう台詞はどうよ。(--;

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする