夜な夜なシネマ

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『ヒューマン・ボイス』

2023年02月02日 | 映画(は行)
『ヒューマン・ボイス』(原題:The Human Voice)
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン
 
塚口サンサン劇場にて、前述の『マスター 先生が来る!』と後述作品の間に。
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督による初の全編英語作品。
コロナ下の2020年にさまざまな制約があるなかで撮られたそうです。
 
ジャン・コクトーの戯曲『人間の声』を「自由に翻案した」とのテロップ。
30分の短編で、冒頭に買い物のシーンがあるものの、あとはティルダ・スウィントン一人芝居
 
飼い犬を連れて金物店を訪れる女性。彼女は1本の斧を買います。
まっすぐ帰宅した女性はひたすら誰かの帰りを待っている様子。
それが別れた恋人であることがわかる。
 
今までは本を読んだり映画を観たりしている間に必ず帰ってきた恋人。
なのに数日前、恋人は出ていったまま。犬の主人は彼なのに。
いらつく彼女はベッドの上に置いた彼のスーツに買ってきたばかりの斧を振り下ろす。
 
ようやく彼からの電話があり、イヤホンをつけて話しはじめる彼女。
最初のうちは彼を待っていたそぶりなど見せず、毎日楽しく暮らしていたように話すけれど、
次第に感情が高ぶり、どれほど彼のことを待っていたか、
こんなふうに別れては気持ちの整理などつけられないと思いの丈をぶつけます。
 
電話の相手の声はいっさい聞こえません。
私たちが見るのはティルダ・スウィントンの狼狽した姿と必死な声だけ。
 
最後は落ち着いた声で電話の向こうの相手にそこからこっち見ていてねと告げ、
部屋に火をつけると、燃えさかる炎を見つめながら立ち去ります。
 
批評家の評価は非常に高い。でも私のような凡人が観ると「はぁ?」(笑)。
ただ、ペドロ・アルモドバル監督の色彩の使い方には目を奪われます。
原色がほとんどで、強烈なのにケバくない。美しい。
そんな中にたたずむ悲壮感あふれる哀れな女性の声が耳に残ります。
 
「はぁ?」と思っていたのに、なぜか部屋の様子と彼女の姿が頭から離れません。
今になって彼女の、彼への想いの断ち切り方に愕然とする。

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