『生きる LIVING』(原題:Living)
監督:オリヴァー・ヘルマヌス
出演:ビル・ナイ,エイミー・ルー・ウッド,アレックス・シャープ,トム・バーク,
エイドリアン・ローリンズ,ヒューバート・バートン,オリヴァー・クリス他
野球観戦中に飲酒しているから、また爆睡するかと思いましたが、大丈夫でした。
黒澤明監督の『生きる』(1952)をイギリスでリメイク。
脚本を担当したのは、ノーベル賞作家カズオ・イシグロ。
なんか凄そうだけど、実は私はオリジナル未見です。
未見でこれを観ると、まるで最初からイギリス作品のように思えます。
1953年のイギリス・ロンドン。
役所の市民課に初出勤した新人ピーター・ウェイクリングは、課長ロドニー・ウィリアムズのもと、
ピリピリとした空気の中で淡々と進められる事務処理にしばし呆然とする。
冗談などひとつも口にしてはいけない雰囲気だが、
紅一点のマーガレット・ハリスだけは軽口でピーターを和ませようとしてくれる。
英国紳士そのもののミスター・ウィリアムズは仕事一筋で何の面白みもない人間。
妻に先立たれたものの、慣れ親しんだ自宅に今は息子夫婦と同居している。
しかし息子の妻はこの辛気くさい暮らしに辟易している模様。
ある日、彼は末期癌に冒されていて余命半年、長くても9カ月だろうと宣告される。
数日間欠勤した彼を皆が心配していた折、マーガレットに遭遇して……。
鑑賞後にオリジナルのあらすじなどを調べました。
舞台が日本からイギリスに移っているだけで、忠実なリメイクに思えます。
カズオ・イシグロの脚本もおそらく素晴らしく、
それに基づいた映像は21世紀の映画とは思えないほど「昔の映画」風。
ビル・ナイが良いですよねぇ。彼以上にウィリアムズに適役だった人はいないでしょう。
生きることにさほど執着しているとは思えないような毎日を送っていた彼ですが、
余命を宣告されてひどく落ち込む。なのにそれを息子に打ち明けられない。
息子には息子の生活があり、きっと悩みもあるだろうから、迷惑はかけられないと。
病を患う人がこんな気持ちなのかと思うと、弟のことを思い出してつらくなります。
放置された土地に子どもたちが遊べる公園をつくってほしいと言いに来るご婦人方。
典型的なお役所仕事をしていたウィリアムズですが、どこの課もそれは同じこと。
ウチの担当じゃないよとか、あっちの課に話をするのが先だろうよとか、
とにかく自分の課から遠ざけようとあちこちの課をたらい回しにします。
だけど、余生をどのように過ごすべきか考えたウィリアムズが乗り出す最後の仕事。
彼が亡くなってから、彼の生き方、仕事の仕方に学ぼう、
二度と仕事を先送りにしない、よそへ回したりしないとそのときは誓ったのに、
人はすぐに忘れてしまう。覚えていても忘れたふりをする。
実際にはそんなことできるかと思ってしまうものなのでしょうね。
そこが悲しくもあり、でも公園で遊びまわる子どもたちの姿を見れば救われる。
急にポックリ死ぬのがいいと思っていましたが、弟の姿を見たり、本作を観たりすると、
人生の終わり方を考える時間があるほうがやはりいいのかもしれないと思う。