夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『敵』

2025年01月30日 | 映画(た行)
『敵』
監督:吉田大八
出演:長塚京三,瀧内公美,河合優実,黒沢あすか,中島歩,カトウシンスケ,高畑遊,
   二瓶鮫一,高橋洋,唯野未歩子,戸田昌宏,松永大輔,松尾諭,松尾貴史他
 
イオンシネマ茨木にて。
 
1998年に出版された筒井康隆の同名小説を全編モノクロで映画化したのは吉田大八監督。
結構好きな監督です。彼が映画化に選ぶ作品がわりと好きというのか。
 
77歳になる元大学教授の渡辺儀助(長塚京三)はフランス文学の権威。
20年前に妻の信子(黒沢あすか)に先立たれたが、古い日本家屋に住みつづけ、規則正しい生活を送っている。
それなりの会社に就職して出世した教え子たちの多くが今も彼を慕い、
雑誌にエッセイを連載する話を持ってきてくれたり、遊びにきてくれたり。
劇団を主宰する教え子(松尾諭)は積極的に片付けを手伝ってくれて、庭の井戸掘りにまで精を出す。
 
そんな教え子の中でも鷹司靖子(瀧内公美)には若干の下心がある。
靖子のほうもそれを察知していると見え、なまめかしい仕草を見せられるとついついよからぬことを考える。
また、友人(松尾貴史)に誘われて行くようになったバーには、
オーナーの姪でフランス文学を学んでいる大学生だという菅井歩美(河合優実)がいて、なんだか色っぽい。
 
預貯金があと何年持つかを冷静に計算し、終末に備える儀助だったが、最近頻繁に届く迷惑メールが気になる。
URLをクリックせずにゴミ箱に捨ててはいるものの、「敵がやってくる」という文言が頭から離れない。
ある日、好奇心に負けてついにクリックしてしまうと……。
 
不思議な感覚で面白い作品でした。
品行方正、誰からも尊敬される老人のはずが、女性に対してはそれなりに破廉恥な感情を持っています。
隠しているつもりがきっちり見抜かれていて貶められる、騙される。
 
途中からは現実なのか彼の妄想なのかが観ているこちらにもわからなくなる。
認知症の兆候としか思えませんが、時折本当にそのことが起こっていたりもする。境目がわからない恐怖。
 
まともな間の彼が作る日々の料理がとても美味しそうで。
白米を炊き、網で魚を焼く。朝食はハムエッグのこともあります。コーヒーは豆からきちんと挽く。
蕎麦を湯がいて刻んだ葱と共に。鶏肉と太い葱を買ってきて焼き鳥串を作る。レバーまであります。
白菜のキムチをどっさり買って韓国冷麺に添えたら体調を崩して病院に行くはめに。
医者からは、若いときと同じように激辛なものを食べちゃ駄目ですよとたしなめられる。
 
平穏な生活って何でしょう。
彼の最期が幸せだったかどうかは私たちにはわからない。
こんな恐ろしい夢を見る前に死にたいと思うのでした。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『#彼女が死んだ』 | トップ | 『室町無頼』 »

映画(た行)」カテゴリの最新記事