夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ザ・ホエール』

2023年04月20日 | 映画(さ行)
『ザ・ホエール』(原題:The Whale)
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ブレンダン・フレイザー,セイディー・シンク,ホン・チャウ,
   タイ・シンプキンス,サマンサ・モートン,サティア・スリードハラン他
 
TOHOシネマズ伊丹にて。
 
なんだか懐かしい響きすらあるダーレン・アロノフスキー監督。
思えば、『トップガン マーヴェリック』(2022)で世のアラフィフ以上の女性の憧憬を誘ったジェニファー・コネリー
彼女が子役でデビューしてアイドル的人気を博した後に低迷した折、
『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000)に起用して見事復活させたのがこの監督でした。
多作ではないものの、撮れば良くも悪くも話題になる監督ですよね。
 
本作の主演は元はイケメンのはずのブレンダン・フレイザー。
“ハムナプトラ”や“センター・オブ・ジ・アース”といったシリーズの人気俳優でしたが、
何やらとてもつらいことがいろいろあったようで、しばらくは世に出ず。
アロノフスキー監督が彼を抜擢したのは、余命わずかな極度の肥満症の男。
体重272キロという設定で、フレイザーがどこまで本当に太ったのかは知りません。
 
英語教師のチャーリーは歩行器なしでは移動できないほどの肥満症。
外に出られるような身体ではないから、今は顔を伏せてオンライン講座を担当している。
 
昔から太っていたわけではなく、その頃には結婚して娘にも恵まれた。
しかし、あるとき教え子だったアランと恋に落ち、妻子を捨てた。
アランと幸せに暮らすはずが、精神を病んだアランが亡くなり、
そのショックでチャーリーはすっかりひきこもりの過食症に陥ってしまったのだった。
 
友人と呼べるのは看護師のリズだけだが、彼女にいくら諭されても入院を拒否。
このままでは1週間ともたないだろうと思われたとき、
チャーリーは離婚してから一度も会っていない一人娘のエリーに連絡を取り……。
 
ブレンダン・フレイザーは本作の演技で第95回アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
確かに素晴らしい演技です。
だけど、正直なところ、ここまで太った人の姿はおぞましい。
 
自力でほとんど動けないのに、それでも食べて食べて食べ続ける。
引き出しの中はチョコレートバーなどでいっぱい。
リズにはバケツ盛りのフライドチキンをねだり、毎晩ピザのデリバリーを注文。
どうしてもやめられないぐらい、心に傷を負っていることはわかったけれど、
これらを映像で見せられると、まったく良い気分はしません。
 
最も共感を覚えたのは、サマンサ・モートン演じる元妻メアリーでしょうか。
ゲイでありながらそれを隠し、子どもほしさに自分と結婚した元夫。
父親を慕っていた娘は自分に心を開かずに問題行動ばかり起こす。
娘の存在だけが光だと考えるチャーリーに対して、メアリーは「あの子は邪悪と言い切ります。
離婚したとき、「夫は私たちを捨てて男に走りました」と周囲に言うしかなかった彼女の気持ち。
 
チャーリーが倒れたときにたまたまやってきた新興宗教の信者トーマスの話は、
カルト宗教の論理がいかにズレたものであるかを証明しているようでもあります。
神がどうたらという話になると、欧米人と日本人の捉え方はやはり違うなぁと思ったりも。
 
それにしても献身的な介護をしてくれるリズに自分は金がないと嘘をつき、
無償の奉仕をさせていたって、ひどくないですか。
ああ、私はこういう考え方だから、『パリタクシー』のようなカネが降ってくることはないのか(笑)。

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『サイド バイ サイド 隣にいる人』

2023年04月19日 | 映画(さ行)
『サイドバイサイド 隣にいる人』
監督:伊藤ちひろ
出演:坂口健太郎,齋藤飛鳥,浅香航大,磯村アメリ,茅島成美,
   不破万作,津田寛治,井口理,市川実日子他
 
封切り日だった金曜日、実家からの帰り道にイオンシネマ茨木にて。
同日、“名探偵コナン”も封切りでした。いやはや、その混みようといったら凄すぎる。
私はそっちはまた後日ということで。
 
伊藤ちひろ監督は行定勲監督作品を中心に脚本家として活躍する人だそうです。
脚本のみならず、自ら監督してこれが第2作。
 
そこには存在しない誰かの想いを見ることができる青年・未山(坂口健太郎)は、
その特殊な能力を用いて人びとの相談に乗り、悩みを解決している。
恋人である看護師・詩織(市川実日子)とその娘・美々(磯村アメリ)と共に、
長野県ののどかな町で穏やかに過ごす毎日。
 
ところがこのところ、これまでにおぼえのない異質な想いを感じるように。
その想いをたどって東京へとやってきた未山は、
それが高校時代の後輩・草鹿(浅香航大)の想いだと知る。
 
ミュージシャンの草鹿が出演するライブ会場へと向かった未山は、
消息不明となっていた元恋人・莉子(齋藤飛鳥)と再会。
妊娠中の莉子を連れて長野へと戻った未山を詩織と美々が訪ねてきて……。
 
不思議な作品です。
静かすぎる130分は少々退屈に感じられて、時折居眠り。
と思ったら、近くの席からもいびきが聞こえてきて、
おおっ、眠いのは私だけじゃないと思う(笑)。
 
未山に寄り添うように歩く草鹿の姿が現実のものなのかどうかがわかりづらく、
どういう設定なのこれは、と思っているうちに眠くなるパターンです。
独創的ではあるけれど、ちょっと不親切な作品、そんな感じ。
 
子役の可愛さにはまいりました。
子役ってビミョーでしょ。芸達者すぎても鼻につく。
しかしそれを口に出すと、こちらが悪人みたいに思えて(笑)。
この磯村アメリちゃんはホントに可愛かったなぁ。
演技でこんなに楽しげに笑う子、なかなかいない。
市川実日子演じるシングルマザーもよくて、この親子には救われます。
 
風景はとても美しかったので、信州が好きな人にはいいんじゃないかと思います。
でも、もう少し親切な作品、希望。

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『ノートルダム 炎の大聖堂』

2023年04月18日 | 映画(な行)
『ノートルダム 炎の大聖堂』(原題:Notre-Dame brule)
監督:ジャン=ジャック・アノー 
出演:サミュエル・ラバルト,ジャン=ポール・ボーデス,ミカエル・チリニアン,ジェレミー・ラウールト他
 
109シネマズ大阪エキスポシティにて。
なんとまたまた“おひとりさま”。今年4度目、今月すでに2度目やん。
まだ比較的新しい劇場だから、前回よりは贅沢感があります。
 
巨匠ジャン=ジャック・アノー監督によるフランス/イタリア合作のディザスタームービー
2019年4月15日に起きたフランス・パリのノートルダム大聖堂火災を描いています。
火災の瞬間を撮っていたはずもないので、ドキュメンタリーではなく、実話に基づくフィクションです。
 
ノートルダム大聖堂のスタッフの職を得て初日の勤務に就いた男性。
発火を感知するシステムから目を離さないように言われており、
まさに発火を知らせるブザーが鳴ったものだから、各部署のスタッフにすぐさま連絡。
 
伏線として、足場が組まれた修復現場で「禁煙」マークがあるのに喫煙している作業員の姿が映る。
また、骨組みの間を飛ぶ鳩などが配線を踏んでバシッと火花が散る様子も。
 
さて、ところが、発火の連絡を受けた者はおざなりの確認をしただけで「異常なし」と判断。
そればかりか、発火感知システムはよく誤作動を起こすから鬱陶しい、切っておけと言います。
避難を促すアナウンスが自動的に流れたというのに、一旦退出した客たちをもう一度戻す始末。
 
火災に気づいたのは大聖堂内にいる誰かではなく、大聖堂を背景に写真を撮った人でした。
あれ?大聖堂の上から煙が出てるよ、火事じゃないの?てな感じで。通報を受けた消防局も半信半疑。
しかしやがて隙間からチラチラと炎が見えはじめ、こりゃ大変だということになります。
 
幸いにして、建物がデカすぎるから逃げる時間はじゅうぶんにある。
一般的なディザスタームービーのように慌ててドミノ倒しになったりすることもありません。
ただ、消防車がなかなか大聖堂までたどり着けない。
道路が混んでいて、放置自転車などもあれば工事中の箇所もある。
そんななかで大統領が来たりするんですよね。これっていい迷惑じゃないですか。
 
建物は修復できるけれど、聖遺物を失えばどうにもならない。
大聖堂内に保存されている文化財約1,300点を持ち出すことが最優先。
 
ちょうど非番の日だった主任学芸員は、出先で火災を知って驚愕。
気も狂わんばかりの勢いで大聖堂に向かうけれど、あちこち封鎖されていて進めない。
しかし彼がいないと、文化財が入っている部屋の鍵を開けるのも大変だそうで。
何百という鍵の中からその部屋の鍵をすぐに見つけられるのは彼だけ。
聖遺物はキリストの本物の血って、ホンマですか!?
 
おそらく事実に即した作りになっているのでしょうから、感動を煽ったりはしません。
私がちょっともらい泣きしそうになったのは、老いたスタッフが消防士に懇願するところでしょうか。
文化財すべてを救出することは叶いそうにないと考えた彼が、
どれかひとつだけならば、いばらの冠をお願いしますと涙ながらに訴えるシーン。
 
野次馬も多いなか、消火活動を見守る人々が“アヴェ・マリア”を歌いつづけるところもよかったです。
 
客が私ひとりだったおかげで、途中で巨人vs阪神の試合経過のチェックもしてしまいました。
劇場でスマホを見るなんて言語道断の行為ですが、場内にひとりっきりだったらやっちゃいますねぇ。(^^;
ひとり、火災現場でその様子を観ているようで、当日そこに居合わせた気分になりました。

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『フラッシュ・ゴードン』【4K版】

2023年04月17日 | 映画(は行)
『フラッシュ・ゴードン』(原題:Flash Gordon)
監督:マイク・ホッジス
出演:サム・ジョーンズ,マックス・フォン・シドー,メロディ・アンダーソン,トポル,
   オルネラ・ムーティ,ティモシー・ダルトン,ブライアン・ブレッスド他
 
なんばパークスシネマまで出向いたので、前述の『パリタクシー』1本で帰るのはもったいない。
1980年に製作された本作の4K版が現在公開されています。
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)を30回観た私としては、
クイーンが音楽を担当するこれを観ないままでは一生を終われないかしらと思って。
 
『テッド』(2012)と『テッド2』(2015)にも登場する本作は、
どれぐらいの人が観ているものなのでしょう。
少なくとも私は今まで観たことがありませんでした。
私同様、全然知らんかったわという人のために今さらですがあらすじを書く。
 
惑星モンゴを支配する悪の皇帝ミンは、ふざけて地球に天変地異を起こします。
そのせいで地球はあと10日で月と衝突する危機に。
 
いつか地球が襲われる説を唱えつづけてきた科学者ハンス・ザーコフは、
今こそ宇宙人と和平交渉するのだと、自前のロケットでモンゴに向かおうとします。
しかし彼のイカれた考えについていけない助手が逃げ出してしまう。
 
そんな折、研究所の近くに飛行機が不時着
乗客だったアメフトスター選手フラッシュ・ゴードンと、
一人旅中の女性デイル・アーデンが研究所にやってきます。
ロケットを独りでは発射できないザーコフは、このチャンスを逃してなるまいと、
強引にフラッシュとデイルをロケットに押し込んで出発。
 
たどり着いたモンゴで、ミンはもちろん交渉に応じるつもりなどなく、
フラッシュ、デイル、ザーコフは捕らわれますが、
デイルに一目惚れしたミンが、彼女と結婚すると言い出して……。
 
どの程度まじめに作られたものなのか知りませんけど、いま観るとふざけているとしか思えません(笑)。
プロデューサーからは『スター・ウォーズ』(1977)以上のものを作るようにとの指令が飛んでいたそうですが、
どこをどう見ても『スター・ウォーズ』に遠く及ばないというのか、
比較すること自体、『スター・ウォーズ』をナメとんか!と思います。
 
でもキャストの人たちは楽しかったでしょうねぇ。
それに40年以上経った今、こうして4K版が公開されて、
アホくさと思いながらもいそいそと劇場へ足を運ぶ人がいる。
このアホらしさを共有できることが嬉しいです。

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『パリタクシー』

2023年04月16日 | 映画(は行)
『パリタクシー』(原題:Une Belle Course)
監督:クリスチャン・カリオン
出演:リーヌ・ルノー,ダニー・ブーン,アリス・イザーズ,ジェレミー・ラウールト,
   グウェンドリーヌ・アモン,ジュリー・デラルム,トマ・アルダン他
 
北摂の劇場では観るものが尽きそうになったので、なんばパークスシネマへ。
 
主演のふたり、リーヌ・ルノーとダニー・ブーンは国民的スターらしいのですが、
日本では全然知名度が高くないですよね。
リーヌ・ルノーの出演作では『女はみんな生きている』(2001)が大好きでしたが、
彼女がどんな役で出ていたか覚えていないし。
とにかくフランスでは大人気ゆえ、本作も大ヒットを飛ばしたそうです。
 
タクシー運転手のシャルルは、くだびれたアラフィフ男性。
1年で地球3周分もタクシーを走らせているというのに、給料は安く、妻子を養うのが大変。
良い客ばかりではないから、嫌な思いをすることもしょっちゅう。
 
ある日、配車の依頼を受けて迎えに行ったのは、92歳の女性マドレーヌ。
結構なお屋敷で暮らしていた彼女は、その年齢で一人暮らしは駄目だと周囲から言われ、
致し方なく住み慣れた家を引き払って老人介護施設に入ることになったらしい。
 
パリからはずいぶん離れたところにある施設までの道すがら、
思い出の場所に寄り道してほしいというマドレーヌ。
渋々それにつきあうことになったシャルルに最初は一方的に話しかける彼女だったが……。
 
まさにハートウォーミングな作品というよりほかにありません。
 
毎日寝る間も惜しんで働いているのに金がない。
そのせいで気持ちが荒んで行き、客にも失礼な態度を取るシャルル。
まぁこれは客も客で、シャルルの言動も理解できます。
 
世の中への不満がにじみ出た表情で車を走らせるシャルルに、
マドレーヌはこれまでの自分の人生を話しはじめます。
次第に彼女の話に引き込まれ、シャルルは自らのことも語るように。
 
もっと軽い話を想像していたら、マドレーヌの人生は凄絶。
女性は男性に服従することが当たり前だった1950年代には離婚も許されません。
暴力亭主を殺しかけた彼女は逮捕され、裁判の陪審員は全員男性だなんて。
 
道中の風景も楽しいし、ふたりの会話や食事のシーンも抜群に良い。
ユーモアにあふれ、ラストも万人が感動しそうな話で、大ヒットに納得。
ただ、このラストは目新しいものではありません。
 
じゅうぶんに予測できるラストですから、ネタバレにはならんと思って書きます。
後日シャルルが妻を連れて施設を訪れると、マドレーヌはすでに亡くなっていて、
管財人から1通の手紙を渡される。そこには莫大な金額の小切手が入っているという。
 
親切にしてくれた赤の他人に遺産を譲る話は珍しくないですもんね。
真面目に生きていればこういうことが待っていると思いたいけれど、
そうそうこんな話は舞い込んでこないでしょう。
 
すごく良い話で、鑑賞後にとても穏やかな気持ちになれたものの、
「んー、映画としてはそんなに珍しい話やないし」と思った私もいるのでした。(^^;

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