雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

仏罰を受けた沙弥 ・ 今昔物語 ( 20 - 38 )

2024-07-07 08:00:13 | 今昔物語拾い読み ・ その5

    『 仏罰を受けた沙弥 ・ 今昔物語 ( 20 - 38 ) 』


今は昔、
石川の沙弥という者がいた。
幼いときに剃髪したが、受戒していないので、法名は無い。ただ、世間では石川の沙弥と呼ばれていた。
そのわけは、その沙弥の妻は、河内国の石川郡の人だったので、沙弥がそこに住んでいたからである。
姿は僧ではあるが、心は盗賊のようであった。ある時には、「塔を造る」と言って、人々をだまして財宝を寄進させて、それを妻に与え、魚や鳥を買ってこさせて食べるのを日常のこととしていた。
また、ある時には、摂津国豊島郡に住んでいて、舂米寺(ツキヨネデラ・所在不詳。)の塔の柱を切って薪(タキギ)にした。
世間には、仏法を破り犯す人は多いが、この人に過ぎる者などいない。

ところが、この沙弥が、嶋下郡味木の里(大阪府摂津市辺りか?)にやってきて、突然病気にかかった。「熱い、熱い」と大声で叫びながら、地面から三尺ばかりも踊り上がった。
その辺りの人が集まってきて、これを見て、沙弥に訊ねた。「あなたは、なんでそんなに叫んでいるのか」と。沙弥は、「地獄の火がここにやってきて、わしの体を焼いている。だから叫んでいるのだ」と答えた。だが、その後すぐに死んでしまった。

思うに、沙弥はどれほどの苦しみを受けたのであろう。
「哀れなことだ」と、見聞きした人は、みな悲しんだ。勝手気ままに罪を造る者は、明らかにこのような報いを受けるのである。
されば、人はこの事を知って、罪を造ってはならないのだ、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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