雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

三月ばかり物忌しに

2014-04-23 11:00:32 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百八十二段  三月ばかり物忌しに

三月ばかり、「物忌しに」とて、かりそめなるところに、人の家にいきたれば、木どもなどの、はかばかしからぬなかに、「柳」といひて、例のやうになまめかしうはあらず、広く見えて、憎げなるを、
「あらぬものなめり」といへど、
「かかるもあり」などいふに、
    『 さかしらに柳の眉のひろごりて
            春の面を伏する宿かな 』
とこそ見ゆれ。
     (以下割愛)


三月の頃、「物忌のために」ということで、仮の宿として、よその人の家へ行きましたが、庭木なども、大したものもない中に、「柳」だというが、普通の柳のように上品なものではなく、葉の幅が広そうで、憎らしく見えるので、
「柳ではないでしょう」と言うのですが、
「こんな柳もあるのです」などと家人が言いますので、
    『 さかしらに柳の眉のひろごりて
            春の面を伏する宿かな 』
(なまじっか柳の眉が広がっているので、春の面目を丸つぶしにしてしまう家だ)
と思いましたわ。

その頃、また、同じ物忌のために、同じようなよその家へ退出したところ、二日目の昼頃、とても退屈でやりきれなくなって、すぐにも帰参してしまいたい気がしているちょうどその時に、中宮さまから御手紙を賜ったので、とても嬉しく拝見する。浅緑の紙に、代筆の宰相の君(中宮付きの上臈女房)が、とてもきれいな筆跡でお書きになっている。
「『 いかにして過ぎにし方を過ぐしけむ 
      暮らしわづらふ 昨日今日かな 』
(どのように、そなたが出仕する以前の日々を過ごしていたのかしら、そなたがいないと退屈でしかたがない昨日今日なんですよ)
と、仰せでございます。
私信(宰相の君の私信)としましては、今日でさえ、千年も経ったような気持ちがするのですから、夜明け前早くにね」
とありました。

宰相の君がおっしゃっていることでもとてもありがたいことなのに、まして、中宮さまの御歌の内容は、おろそかになど出来ないと思いましたので、
 『 雲の上も暮らしかねける春の日を ところからともながめつるかな 』とご返歌申し上げ、
(宮中でも暮しかねていらっしゃるそうな退屈な春の日長を、私は場所が場所ですからぼんやりと過ごしています)
私信(宰相の君への返事)としましては、「今夜のうちにも、何とかの少将(何かの引用と考えられるが不詳。小野小町と深草少将の百夜通いの伝説という説もあるが、当時流布していたかどうか不明)になってしまうのではございませんかしら」
とご返事申し上げておいて、夜明け前に参上いたしますと
「昨日の返歌は、『かねける』がとても憎らしい。皆で散々悪く言っていたのよ」
と仰せになられ、実に情けない気持ちでした。
確かに、仰せになられるのももっともなことでございます。
(『かねける』の「ける」は推量の意味で、中宮の気持ちが十分伝わっていないと、不満だった)


少納言さまの穏やかな宮中生活の様子のひとこまであり、中宮さまやお付きの女房からも大切にされている様子が垣間見れる、嬉しい章段です。

最初の部分は、物忌で宿を借りたのでしょうが、それにしては何かと文句が多いようです。
さすがに、「さかしらに・・」の歌も、大きな声でいえる内容ではなく、心のうちで詠んだものらしく、「家集」などには載っていないようです。

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