麗しの枕草子物語
他愛もないお話ですが
中宮様の御前に伺候いたします私たち女房どもは、言葉遣いであれ、まして衣装などには十分に気を配っております。だって、私たち女房こそが平安王朝文化の華でございますもの・・・。
でもね、中宮様が寝所にお入りになりますと、一晩中上の局に詰める女房たちも、すっかり気が緩み、他愛もない話題に興ずることが多いのですよ。
その夜も若い女房たちと上の局に詰めていますと、例によって無駄話に花が咲きます。
「衣などに、いい加減な名前を付けているのは、全くけしからないことよ。『細長』はいかにもそれらしいので良いとしても、なんですか、『汗衫(カザミ)』なんて。尻長というべきでしょう」
「そうね、『唐衣』なども同じよ。短衣というべきね」
「でも、それは、唐土の人が着るものですからねぇ・・・」
「『表衣』や『表袴』は、まあそういう名前で良いみたいね」
「『下襲』も、良いみたいね」
「『大口』もね。長さより口の方が広いのですから、それで良いでしょう」
「『指貫』なんて何でしょう。足の衣と絶対言うべきよ。その他の物でも、ああいった風の物はね、袋と言えばいいんですよ」
などと、次から次に言いたい放題なので、とうとう私が、
「なんとまあ、次々とやかましいことね。もうその辺にして、お休みなさい」
と言いますと、突然隣の部屋から夜居の僧が、
「それはいけませんよ。一晩中でもおしゃべりなさいませ」
と、憎々しげに言うんですよ。
自分の眠気覚ましに盗み聞きしていたんですよ。可笑しかったり驚かされたり、ねぇ。
(第百二十七段・などて官得はじめたる・・、より)