麗しの枕草子物語
臨時の祭りのすばらしさ
何と申しましても、臨時の祭りほどすばらしいものはございません。
春の石清水臨時祭、秋の賀茂臨時祭、どちらもすばらしいものなのですよ。
祭りの当日に先立って、清涼殿東庭で行われる試楽も本祭りに劣らないほどすばらしいものです。
天皇がお出ましになり、公卿・殿上人数多居並ぶ様子だけでも心が躍るものですが、普段は御前に出ることなど叶わない官人や祭りの関係者などは一段と張り切って動き回ったりしています。
杯ごとなどの宴席の後は、いよいよ舞姫たちの登場です。
一の舞に始まり、どの舞い姿も謡う声もすばらしく、大勢が登場して舞う大輪などは、一日中見ていても飽きないほどです。
ところで、賀茂臨時祭の場合は、本祭りの後再び宮中で還立の御神楽などがあり、祭りが終わる寂しさを慰めてくれるのですが、石清水臨時祭には、それがないのですよ。本祭りが終わった後は、せっかく舞姫たちが宮中に戻ってきても、ご祝儀を受け取るだけでさっさと退出してしまうのです。
そのことを私たち女房どもが不満げに話し合っているのを、天皇がお耳になさって、
「それでは、今年は舞わせよう」
と、仰せになられたのです。
私たちは嬉しくてはしゃぎますし、中宮さまも「ぜひ、そうなさいませ」と仰って下さったのです。
さて、その年の石清水臨時祭の後のことです。
舞姫たちが宮中に帰参してまいりましたが、大半の公卿や殿上人はそれぞれの部屋へと向かい、女房たちも自室に戻ったり装束を脱いだりしていますと、「還立の舞が行われる」と伝えられたものですから、
「まさか、そんなことはあるまい」
「それは本当でございますか」
などと大騒ぎになり、あわただしく走り回る者、鉢合わせしそうになっている者、女房の中には、裳を頭にひっかぶったまま駈け出している者、見ている者は大笑いでした。
(第百三十五段・なほめでたきこと、より)